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新型コロナウイルスの変異スピード!

8月5日、国立感染症研究所病原体ゲノム解析研究センターが「新型コロナウイルスSARS-CoV-2のゲノム分子疫学調査2 (2020/7/16現在)」という報告書をサイトにアップした。

新型コロナウイルスの遺伝子調査

この報告書には、非常に興味深い調査と分析結果が提示されている。

そもそも「新型コロナウイルス」の遺伝子は、ランダムに突然変異を起こすわけだが、その「変異速度」は「24.1塩基変異/ゲノム/年」だという。つまり、ウイルスのゲノムは、1年間に24.1箇所の塩基配列で変異が見込まれるわけである。平均すると、毎月2塩基が変異するスピードだということになる。

逆に考えると、全国各地の感染者から抽出した「新型コロナウイルス」の遺伝子の変異箇所を追跡すれば、感染がどのように拡がったのかわかる。報告書は、次のように述べている。

この調査により、これまでの経過は以下の様に説明できると考えている。中国発から地域固有の感染クラスターが発生し、“中国、湖北省、武漢” をキーワードに蓋然性の高い感染者・濃厚接触者をいち早く探知して抑え込むことができた。しかしながら、3月中旬から全国各地で欧州系統の同時多発流入により“感染リンク不明” の孤発例が検出されはじめた。数週間のうちに全国各地へ拡散して地域固有のクラスターが国内を侵食し、3−4月の感染拡大へ繋がったと考えられる。現場対策の尽力により一旦は収束の兆しを見せたが、6月の経済再開を契機に “若者を中心にした軽症(もしくは無症候)患者” が密かにつないだ感染リンクがここにきて一気に顕在化したものと推察される。隠れた感染リンクをいち早く探知するためにも、聞き取りによる実地疫学調査に加え、ゲノム分子疫学調査による拡散範囲を特定し、そのクラスター要因の特徴を示すことは今後の新型コロナ対策にとって必須だと考えている。

この調査分析は、「すでに東京はエピセンター化したのか」という記事で紹介した東京大学先端科学技術研究センター名誉教授の児玉龍彦氏の理論と合致しているように見える。児玉氏は、7月16日の参議院予算委員会で、第一波「武漢型」と第二派「イタリア型」に続いて、第三波「東京・埼玉型」が発生したと推測していた。

なぜ「突然顕在化」が生じたのか?

国立感染症研究所病原体ゲノム解析研究センターの報告書で最も重要な指摘は、6月に新たに全国各地のクラスターで見つかった「新型コロナウイルス」は、3月中旬まで追跡できていた「イタリア型」から6塩基の変異が認められるという点である。

3月中旬から6月中旬までの3か月の変異速度を推定すると、1カ月に2塩基が変異するスピードなので、6塩基の変異は予測とピッタリ一致する。ただし、ここで大きな問題になるのは、その途中経過が「空白」だという点である! つまり、現在、全国各地のクラスターで発症している感染者から発見されたウイルスは、既知のウイルスから、突然6塩基が変異してしまった状態で発見され、途中で1~2塩基ずつ変異していったはずの経過がまったく見えていないわけである。

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空白の感染リンク!

そこから報告書は、「保健所が探知しづらい対象(軽症状もしくは無症状感染者)が感染リンクを静かにつないでいた可能性」を指摘している。これを児玉氏の理論に当てはめると、第三波の「東京・埼玉型」の無症状感染者が3月以降地方に行って感染を広げて、6月時点で各地にクラスターを発生させたという構図が浮かび上がる。

改めて考えてみると、世界各国が必死になって膨大なPCR検査を実施している理由がわかる。その大きな目標の一つは、単に感染者を発見するばかりでなく、遺伝子レベルで「新型コロナウイルス」の突然変異を1~2塩基変異の段階で特定しながら、それがどのような拡がりを見せているか追跡することなのである。

ところが、日本は大規模なPCR検査を実施していないから、3月から6月の間に「空白」が生じてしまったというわけである。ということは、日本政府がこのままウイルスへの対策を放置して「GoTo トラベルキャンペーン」のような方針だけを維持し続ける場合、9月頃には、再び6塩基が変異したウイルスが「突然顕在化」し、12月頃には、そこからさらに6塩基が変異したウイルスが「突然顕在化」する可能性もあることになる。

もちろん、経済を優先させる政策の重要性を理解できないわけではない。しかし、それと同時に「新型コロナウイルス」に対しても科学的説得力を持つ対策を打つのが、日本政府の役割であることは、明らかだろう。しかし、現状の「機能不全」に陥っているように映る日本政府の対応状況を見ていると、残念ながら日本が「経済」も「ウイルス」もどちらも壊滅させてしまうという、最悪のシナリオが浮かび上がってしまうのである!

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