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理念を追求するパタゴニア社のプロダクトと組織の意思決定の基準

2018年に出版され、2019年のビジネス書大賞2019経営者賞を受賞した書籍「ティール組織」にはパタゴニア社の様々な取り組みがティール組織の特性を体現しているとして何度も紹介されています。

この書籍の中で私が個人的に好きな一節はパタゴニアCEOのシュイナード氏が主力事業であるピトン販売から手を引いたという話です。

その理由が面白く、売上が落ちたわけでもなく、単に自社製品が山の環境を破壊していたことに気づいたからなのです。もちろんパタゴニア社は岩場を破壊する意図を持って販売したわけではなく、当時は岩場を傷つけてしまうことは当たり前のことでした。そんな誰も気に留めていなかったことを創業者のシュイナード氏は利益よりも山や環境を保全することを優先させました。そのことが新しいクライミングギアのチョックの販売に結びつき、のちの高収益に繋がります。結果として破壊的イノベーションを行っていたのです。このようは話が自社社員向けの説明資料として始まった1冊にまとめられています。

パタゴニア社は理念を優先しながらも持続可能な成長を可能にしていました。その土台にはパタゴニア社の理念に基づくプロダクトとカルチャーへの考えがあります。それらをいくつか紹介したいと思います。

①自分たちで作って、自分たちが使う

最初は自分や仲間のために何百個と使う登山用のピトン(岩に叩き込む釘のこと)を再利用できるように手作りし始めたが、他の人からも欲しいと言う声があり販売もし始めた。その後、クライミングギアが需要が増えて手作りでは間に合わず金型や機会を導入していく。(本文要約)

自分自身や仲間のために始まったからこそ自分で作ったプロダクトを自分で使うからこそ常に改善が行えます。自分自身でペインを感じることで、仲間からもフィードバックを集められ、納得して受け止められます。さらにパタゴニア社はCEOの両親から援助で買った小さい機械を持っていたので何度も試作品を作ることができました。

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②優先すべき根本原理を明確にする

ピトンを強く軽くシンプルで機能的に改良をしていたが、中でもクライミングギアは壊れると人命に影響する。自分たちも使っていたので壊れたら自分たちが死ぬ。そのため品質が最優先だった。そこで簡素であることが設計の指針になった。フランスの飛行家アントワーヌはシンプリシティという根本原理を大事にした。彼が言っていたのは「完璧とは加えるべきものがなくなった状態を言うのではなく、取り去るべきものがなくなった状態を言うのである。」(本文要約)

どのようなプロダクトでも優先するべきことがあります。安さなのか、ブランドなのかなど。それがパタゴニアでは品質でした。シンプリシティという根本原理となり共通認識としていきます。目指すべき状態がどのようなものなのかが明確になることでチームは同じ方向を向けるようになります。

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③理念に反するプロダクトからは手を引く

クライミングギアの売上が倍以上に増えると社員が辞めてしまった。そもそも登攀するために自分たちがクライミングギアを使うために作り始めたからだ。そこで辞めない社員を雇いはじめ、米国最大のクライミング用具メーカーとなり販売数が増え始めるとパタゴニア製のクライミングギアが岩壁を傷つけていることを知った。会社の主力商品であったが販売を辞めて、岩を傷つけないチョックというギアを作り始めた。当初は知名度も低くかったがチョックを使う意義をカタログに載せて使い方を説明すると、チョックは作るそばから売れるようになった。(本文要約)

冒頭で紹介した話です。うまくいっている事業を手放すリクスは誰しもが怖いものですが、それに固執してしまうとイノベーションのジレンマから抜け出せなくなってしまいます。それをパタゴニア社は意思決定の優先順位をプロダクトファーストで回避しました。それは創業者でありオーナーであるイヴォン・シュイナード氏が売上に頓着が無く自転車操業だったこともあるかもしれません。ただパタゴニア社はグローバル展開後も衣服の修繕、再利用を手厚くサポートしています。リサイクルを推奨する広告を出すほどです。これらは売上や財務を考えたら売上の減少を懸念して新商品の宣伝を優先するところですが、パタゴニアには自社の存在目的に沿った行動を優先します。

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④ビジネスも楽しく仕事をする

ビジネスとしてクライミング用具を作るとしても毎日を楽しく仕事する、という点は変えたくなかった。出社はワクワクしながらでなければならないし、どんな服を着た仲間とでも仕事をしたいし、仕事時間に縛られず良い波がきたらサーフィンに行きたい。子供が体調を崩したら看病をしてあげたい。仕事と遊びと家族の境目はあまいにしておきたい。(本文要約)

組織が大きくなれば統制が必要だと思いそうですが、パタゴニア社は楽しく仕事することを優先しました。ちなみに後に作られるフィロソフィーに「楽しく」というワードは採用されませんでした。ただカルチャーとして継続されています。

e.g.

佐々木:オンとオフって、私分けないんです。なるべく境界がないほうがいいのかなと。オンとオフがないとバランスが取れないってよく言われますけど、今の時代、オフの時間って作りようがなくないですか?

⑤複雑性を減らす

パタゴニア社も成長企業にありがちな間違いをたくさんしていた。新しい責任者に教育ができなかったし、部門が増えて管理できる複雑性を超えていたし、全社的な目標を据えて部門同士が協力できる体制も整ってなかった。そこで半独立の製品チームを4つに分けて改善した。それぞれにリーダー、デザイナー、プロダクトマネージャー、財務、マーケターを設置した。ただし在庫管理などの複雑な職務は背負わせなかった。(本文要約)

⑥フィロソフィーを作り、互いに理解を促す

ある年、米国の景気悪化で在庫を大量に抱えてしまい、リストラも余儀なくされた。成長は続くと思っていたが持続不可能な成長に頼ってしまったのだ。それは会社内部の原因もあるが地球環境という要因もある。そこで優先順位を見直し、新たな方針を定めた。ただし方針はこれをやっとけば大丈夫という業務規程のようなHowtoでは駄目だ。常に最適な問を発して適切な回答が得られる哲学的な指針、感覚的にフィットする指針でなければならない。この指針をフィロソフィ(理念)と呼び、部門や職務ごとに1つを掲げることにした。そして会社としてのフィロソフィを作り、社員に理解してもらうために1週間の合宿を毎年行った。これにより会社はすばやく生まれ変わり、成長は時速可能なレベルになった。(本文要約)

単にフィロソフィーを作るだけではなくフューチャーサーチによってフィロソフィーを従業員1人1人が自分ごととして考えて理解を促しています。結果、浸透したフィロソフィーによって行動基準が判断しやすくなり、セルフマネジメントが容易となりました。


まとめ

以上がパタゴニア社の6つの意思決定の基準です。実際にはこれ以外にもありますがプロダクトに関することとわかりやすいところを紹介しました。パタゴニア社はデザインやマーケティングなどのテーマごとに目指すべき基準があります。例えばデザインには14のチェックリストがあります。以下の別の記事にまとめていますので良かったら参照ください。


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