なりとぱん:天然酵母のパンで「やる」と決めた。大阪での充実した仕事から、移住して得た一歩先の幸福感。
※この記事は、丹波篠山市福住という宿場町に集う事業者を紹介した冊子の中に掲載されているインタビュー記事です。(まとめはこちらから)
大きな瓦屋根にぶら下がった提灯に、明かりがほんのりと灯っている。宿場町の通りから少し奥に入って見える入り口に入ると、隠れ家のような素敵な空間が。笑顔の優しいご夫婦が出迎えてくれた。
天然酵母と自然派の素材にこだわる「なりとぱん」の伊勢さんは、大阪で人気を得ていたお店を閉めて、お店と一緒にご家族で移住してきた。なぜ天然酵母にこだわったパン屋をやろうと思ったのですか?と尋ねると「やっぱり美味い。それだけなんですよね」とシンプルな答えが返ってきた。
大阪で自身のお店を開業する前、手が荒れたり喘息が出てきたりした経験があり、外国産の輸入している小麦粉に含まれる「ポストハーベスト」が原因ではないかという話を聞いて、自身のお店では国産の小麦を使った。そうするとぴたっと症状が治まり、自分のやっていたことが悪かったのだと感じたとお話してくれた。
そうして国産小麦を選ぶようになると、健康志向、素材の良いものを選ぶ人がお客さんとして集まるようになった。その時、一番よく話を聞いたのが福住に焙煎所を構えるマグナムコーヒーの奥さんだったのだとか。同じ志向の方が集まってくるご縁を感じてならない話だ。最初からではなく、徐々に素材の良いものを選ぶようになって、伊勢さんの作りたいパンは今の形になっている。
天然酵母のパンで、素材にもこだわる。最初に伊勢さんが思い描いた形では「無理だ」「商売にならん」と先輩に言われたそう。「けど、自分なりに計算したら、できる。って。商売にならんって言われても、いや、やるんだ。って。それだけでしたね」そう言って、笑いながら当時のことを話す。
その先輩たちのアドバイスは「たくさん稼ぐためのアドバイス」だった。製造のスケジュールを効率化し、短時間で多くのパンを焼く、利益を出していくための助言。けれど、伊勢さんにとっては、利益を出して何かにお金を贅沢に使うより、自分の好きなパンづくりの優先順位が高かった。
福住のマグナムコーヒーさんを訪れ、土地を気に入り、ここでお店をやりたいと考えた頃、伊勢さんは長井さんの野菜に出会うことになる。「最初食べた時、なんじゃこの美味しい野菜は、って思って感動して」この野菜を開店前から絶対に使いたいと決めたそうだ。
奥さんのちかこさんも「みなさんに味わってほしい、この野菜がこんなにもエネルギーがあるってことを知ってほしいんです」「大阪でも無農薬の野菜を使っていて、そのお野菜も美味しかったんですが、長井さんの野菜は全然違うんですよ。食べた時、本当にエネルギーを感じるし、皮も深い味がして」そう言って熱を込めてお話してくれた。
なりとぱんさんのランチメニューのスープは、ちかこさんが長井さんの作る旬の野菜を使って提供している。「ひとつひとつ丁寧に作ってる野菜の、気持ちが伝わるのかなって思うんです」長井さんの想いに触れた後だからか、聞いているこちらも何故だか嬉しい気持ちになった。
一番ここに来て良かったのは「人」そして「空気」。伊勢さんはそうお話してくれた。建築にあたって、建築士さんの計らいでパンをこねる厨房から街道に面した窓をつけた。夏の涼しい時期は、道を通りかかるおばあちゃんや地元の人とお話したりすることが楽しみになったそうだ。「大阪の店の頃は、どうしてももっと作らないかん、というストレスがあったみたいです。自分ではそんなつもり無かったけどイライラして、自分の作りたい量をオーバーしてたんでしょうね」今は自分の好きな素材で、想う量のパンを作れる。ここでの暮らしについてはご夫婦揃って「最高ですね!」と言う笑顔が印象的だった。
さて次は、なりとぱんさんでも使われているグラス。すぐ近くに気鋭の吹きガラスアーティストのご夫婦が工房を構えている。歩いて移動してみよう。
→Next:sorte glass:どん底でも創造的な作品作りは絶対に諦めなかった。本懐を忘れなければ、どれだけ回り道をしても道は必ずひらける。
Art direction・design:中西 一矢(SANROKU)
photo:大崎 俊典(photo scape CORNER.)
interview・writing:安達 鷹矢(㍿Local PR Plan)
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