とにかくやらなきゃ

 慰撫~Eve~という小説を書いたのは、自分がどんな世界観を持った人間なのかを客観的に知りたかったからだ。書いているうちにいろんなことがわかってきた。

【世間と社会について】
 世間知らずという言葉を耳にするが、琴は世間というものがよくわかっていなかった。それは、世間と社会の区別がついていなかったからだ。渡る世間は鬼ばかりという有名なドラマもあるが(琴はたぶん見たことはない)優しい社会(という錯覚?)に守られて育った琴には、この世界には社会に繋がる過程で世間というところがあって、そこには人の他に鬼もいるという実感が持てなかった。世間の本当の厳しさを知らずに弱者は社会というものが守ってくれていると思っていた。
 昨今、社会が混乱する時代に入ってようやく世間の存在と社会との繋がりを分かり始めた。

【自尊心と自己肯定】
 自己肯定感を上げようと頑張っている人は多いと思う。しかし、自己肯定感だけ上げたとしても、今度は自尊心に悩まされるということに気づいた。自尊心とは要するにプライドのことだが、目的がないまま自己肯定感を上げても、目線がずれて人とのコミュニケーションに支障が出るだけで役にたたないのである。そこに生産性は全くなく、時間とエネルギーをただ消耗するのみの生活になり、結果として自己肯定感は前より下がってしまう。

【ライフワークをみつける】
 自尊心に悩まされ続ける人というのは、ライフワークをみつけられない人だと思う。ライフワークとは生涯をかけてやりたいことという意味であるが、よっぽど目標がしっかりした人でなければ具体的にはイメージしにくいのではないだろうか? そもそもライフワークとは概念なので必ずしも具体化できない、見えないので見つけられないのである。

【カオスにハマる】
 琴のライフワークはいうなれば『相思相愛』なのだ。結婚し、子どもをもうけ、幸せな家庭生活を営んでいたのだが、この生活は見方によっては平凡で面白みのない生活である。そしてこういう見方をするものが、琴のような世間知らずを狙いにくるのである。そして琴は世間という枠の中に自分がいることを知る。 
 自己肯定感が高いということは、相手のことも肯定できるので他人と上手く共存できる条件でもあると思う。ただしお互いが個人的なしかも崇高な目的を持っていなければ消費しあうだけの共喰い関係になり、枠の外ではこれを共依存と言って嫌う。共依存という言葉を苦しみの代名詞のようにして教えて、崇高な目的を一緒に見つけに行きましょうと誘う自己肯定感を奪う罠に嵌めるのだ…… 共依存の苦しみにぶち当たると、そこで自己の枠が外れて自我が生まれ出る。目の前の視野が広がったように見えるのだが、そこはカオスの世界なのだ。一歩足を踏み入れるとカオスの世界に迷い込む。琴は迷い込んだ先で底なし沼に嵌りかけるが、抜け出して本当の人生を歩み始める。

【ゼロからの枠づくり】
 この作品は、敗北者が妬みによって弱者の王様になってしまう復讐劇ではない。
 堺出が写真を消去する場面で、琴は自分の価値をぞんざいにあしらわれたと感じるのだが、実は彼女の価値をぞんざいに扱ったのは彼女自身である。それを堺出を通して目の当たりにしただけのことであり、そういう意味では、堺出が素直に琴の言うことを聞いたという行いは、尊厳が守られた、価値あるものとして大切にしたからだと捉えることもできるのである。
 琴は堺出に対しての憎しみを復讐に捧げるのではなく、もっと美しいものにするべく一人で挑んでいくのである。

【美しさの原点】
 孤高の大きな羊は美しい。しかし、世間という狭い世界では目立ちすぎるために羨望の眼差しを浴びるが、仲間として認めてもらえないため、いつまでもその他大勢の仔羊として生きるしかなくなる。
 人は美しさを求める生き物だと思う。人間のライフワークとは美しさの追求かもしれない、美しさの原点は生きる強さではないだろうか。
 水中の競争に負けて陸に上がった両生類達。踏まれてしまっても立ち上がらずに根を伸ばし張り続ける雑草達。彼らは世間の敗北者であるが、生きるという単純さに立ち返ったもの達である。彼らは魚と動物、海と陸、花と虫、空と土を繋ぐ架け橋の役目を担うもの達なのだ、それは強い心の持ち主なのだ。
 世間を守ってきた人たちはみな己の中にいる鬼に打ち勝った強い心の持ち主なのだと思う。自分を育ててくれた世間に恩返しするために、琴は社会と繋がっていくのである、彼女の旅は続く。

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【小説】慰撫〜Eve〜

ストーリー:
主人公に起こったある悲劇、性への目覚め、生きるための自分自身の力に罪悪感を覚えてしまう苦しみ、葛藤、ツインレイとの出会い。魂に気づくまでの道のりを描いたラブ・ストーリー小説全3話。

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https://note.com/liyengo/m/m5e5f783db7ec
 
 
 
 

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