【感想文】三笘薫「VISION」ゆとり世代とプロサッカー選手を比較してみた
私は、なまけ者である。
常々、こんな性格を変えたいと思っていた。怠け者の対極にいるのが、プロサッカー選手の三笘薫選手である。そんな彼が自伝を書いた。「VISION〜夢を叶える逆算思考〜」という本だ。この自伝をヒントにして、VISION(=目標)達成の極意を考察したい。
1.三笘薫はどんな選手か
まずは三笘選手のこと。説明にあたって、私が大の川崎フロンターレのファンだということも付け加えておく。三笘選手は川崎フロンターレのユースの出身で、2020年、23歳の時にフロンターレのトップチームに新加入選手としてやってきた。左サイドから攻撃を仕掛ける国内屈指のドリブラーである。
この三笘選手だが、18歳の時すでに、フロンターレのトップチームから内定が出ていたにも関わらず、それを断り、あえて、筑波大学に進学した。
理由は、「今の自分では、トップチームで活躍できないから」だ。この発言は今となっては考えられないだろうが、当時はトップチームで戦う自信がなかったそうだ。
2016年からの筑波大学時代。大学2年時に出場した、天皇杯でJ1「ベガルタ仙台」に対し2得点を決め、勝利に貢献する。
一方、大学卒業後に再びフロンターレのトップチームに加入した時の三笘選手の評価は「大学サッカーではあのスタイルが通用したけど、Jリーグでは通用するのかね」だった。
そして、2020年。三笘選手はいい意味で期待を裏切り、Jリーグで大暴れした。J1新人記録に並ぶ13得点を記録し、プロ1年目でベストイレブンを受賞した。私もDAZNで(当時はコロナ禍で無観客試合だった)三笘選手を見ることが楽しみになった。
2021年の夏。フロンターレ所属2年目で初の海外チーム、ベルギー「ユニオン・サン=ジロワーズ」(本籍はブライトン(イングランド))にレンタル移籍した。
フロンターレファンとしては、あっという間に海外に行ってしまったという印象だ。だから、等々力競技場で、生の三笘選手を見たことが実は一度もない。このことは今でも悔やんでいる。
さて、話を戻して、問題は、三笘選手の海外移籍のニュースが流れた時だ。三笘選手は「Jリーグでしか通用しない選手」と評されていたと記憶する。
しかし、2022年夏。またしても下馬評を覆して、サン=ジロワーズで活躍し、サッカーのトップオブトップであるプレミアリーグのクラブ「ブライトン」に復帰した。さらにブライトンでは、早々にポジション争いに勝利し、スタメンに定着。
加入1年目で5アシスト、8ゴールという驚異的な結果をたたき出した。プレミア日本人最多ゴールの記録を更新する成績である。
また、2022年のカタールワールドカップにおいては、「三笘の1ミリ」だろう。しかし、こと代表戦においては、スタメンに選ばれることがほぼなく、サブスティチュートからの出場だったため、プレー時間が相対的に少ないのが残念だが、少ない中でのこの貢献ぶりはあっぱれである。
こうしてみると、近年の成長が著しいことが分かる。三笘選手は大器晩成型であり、遅咲きの選手のように思う。なかなか評価されなかった時期もあったかもしれないが、これを乗り越え、20年来のVISIONである「絶対的な、記憶に残るサッカー選手になる」を実現している。本書にも、幼少期から現在までの、三笘選手の生き様がつぶさに書かれている。
2.逆算思考は本当にキーなのか?
前述の通り、三笘選手の偉業は理解できるだろう。「ドリブル」技術を中心とした、自分なりのプレースタイルを磨き上げ、プレミアリーグ、そして日本代表として通用するレベルまでその技術を高め、かつ結果を出し続けている。並大抵のことではない。
本書では、三笘選手の夢実現の方法論として、小さい頃から未来のVISION(=目標)を設定し、それに向かって今何をすべきか考える、「逆算思考」が重要だと説明されている。もちろんそうだろう。
しかし、この逆算思考のアプローチは、誰にでもできるものではない。私たちは通常、明日何しよう、と現在を起点にして考える癖があり、考えたとしても1、2年先のことまでではないか。10年20年先の目標を起点にして、現在を考える習慣がある人はそんなに多くはない。
なぜなら、10年先の目標を定めることがそもそも難しいことに加え、その目標と現在地との距離(=ギャップ)を把握し、その距離を埋めるための中間目標といった成長線を設計し実行しなければならない。そしてその取組みの良し悪しの検証を繰り返すと同時に、現在地の修正を行い、目標までの距離感を把握し続けなければならないからだ。普通なら途中でやめてしまうだろう。
正直なところ、私が本書を読んで一番最初に感じたことは、「逆算思考は理解できたが、私にはきっとうまくいかないだろうな」だった。こんなことを言うと、これだからゆとり世代は!などと言われそうだ。(私は絶賛ゆとり世代である。)
もちろん、これまでに私も逆算思考のアプローチに取組んでこなかったわけでない。実は何度か、3~5年先の目標を設定し、実現に向けて取り組もうとやってきたことがあったが、どれも途中で挫折していた。
身の回りでもそうではないか。同じやり方を採っても、うまくいく人といかない人がいる。その違いは何なのか。なぜ、三笘選手は「逆算思考」をモノにできたのか。
本書から何かを吸収するとしたら、私にとって、そこが一番重要なのではないか、と思い、そのような目線で本書を読むことに決めたのである。
ということで、この凡人かつ、ゆとり世代の私と三笘選手とのギャップを起点にして、彼の持つ「何」が重要なのかを考察してみたい。
3.方法論の前に「原動力」が必要
そもそも決定的に私と違うのは、三笘選手の行動の「原動力」である。三笘選手は何かに突き動かされるようにサッカーをし、そしてそれをずっと続けることができる。生来的なものなのか、後天的なものなのかは分からないが、この原動力の差が、夢の実現可否を分けているような気がする。
例えば、本書には要所要所に以下のような記載がある。
これらをまとめると以下のような素質になる。
・本気で夢中になる
・負けず嫌い
・強い意志
・ねばり強さ
これらが三笘選手のあらゆる行動の原動力ではないか。
こんなこと?と思うかもしれないが、これがないと、本書が紹介する方法論「逆算思考」はうまく機能しないだろう。
4.三笘選手の4つの原動力
三笘選手の4つの原動力について考察する。
まず第一に、三笘選手は、人生をかけてもいいと思えるほど、「サッカーが好き」ということだ。当たり前のことに思えるかもしれないが、個人的にはこれが一番重要だと思う。あなたは、人生をかけられるほど夢中になっていることはこれです!と言えるだろうか?
正直なところ、私はこれまでに「つぶしが効くからこの大学に行こう」、「みんなが目指すからこの会社に行こう」といった意思決定をしてきた。自分が心から好きなことには蓋をして、いや、正確には、好きなことが何かに向きあおうとせずに、トレンドに乗っかって生きてきた。
だから、本書を読んで三笘選手の「好き」を突き詰める姿勢に感銘を受けた。私に足りないのはここだ、と。実はnoteを始めた背景もここにある。
第二に、負けず嫌いということである。これは、多くのスポーツ選手が持っているとされる素質だ。ただ好きなだけでは、失敗した時や負けてしまった時に気持ちのリカバリーができない。しかし、負けず嫌いの人は、次は必ず勝ってみせる、という思考を持っている。また、徹底的に勝ちにこだわるので、勝負の前に多大な努力や準備をするモチベーションが高い。
私はというと、チーム戦や組織としての競争を好む傾向がある一方で、個としての勝負が好きではない。ここは私の弱みで、個人として評価されるような環境では、力んでしまったり、早々に負けを認めようとしたりする癖がある。ちなみに、ゆとり世代の特性として競争意識が低いというのがあり、私も、もれなくこれに該当している。
第三に、「絶対にサッカー選手になる」という強い意志である。すでに述べた「サッカーが本気で好きで、負けず嫌い」を、貫き通す絶対的な意志のことだ。目標実現に向けては、一時的にでなく、どんなときにも変わらない、強い意志を持つことが求められる。失敗しても、評価されなくても、だ。また、正解かどうかの確証がない中で、意思決定をし続けねばならない。そのためには自分を信じて、強い意志を持って意思決定に当たらなければならないのだ。
私の場合の意思決定は、上述の通りで、常に世の中の正解を選択しようとしてきた。私がどう思うか、ではなくだ。だから強い意志もくそもない。思いのこもっていない目標に対するモチベーションは、そう長くは続かない。だから挫折してきたのだと思う。強い意志を発揮するためには、第一の素質「人生をかけたいもの」を探すことが先決だろう。それは結局のところ、自分の本音と向き合うことでしか、見えてこないのではないかと思う。
最後に、ねばり強さである。言い換えると努力できることとも言える。これは失敗や困難に直面しても、諦めずに愚直に取り組むことを指す。それだけでなく、人間なので低きに流れることもある。今日は疲れたからやめようとか、少しゲームでもしようかな、という誘惑もあったはずだが、それをはね除け、自制する力もここに含まれるのではないかと思う。
私はといえば、とても飽きっぽい。継続することがとても苦手だ。この点は、生来的な特性もあって、私には習得が難しいのではないかと思っている。ただ、短期的に集中力を発揮することはできるので、断続的ではあるものの、この回数を増やすことで、少しはカバーできるのではないかとも思っている。
これらが原動力として作用することで、三笘選手は、遅咲きでも、20年越しの偉大な目標を成し遂げることができたのである。
原動力は、車で言えばエンジンのようなものだ。エンジンがあって、そのエンジンの出力をコントロールする運転手がいて、初めて車が動き出す。本書で紹介されている、逆算思考や、学びとる力、サイエンス力、メンタルコントロール法などの方法論は、いわば運転手のようなものである。
5.自分の「エンジン」を探そう
本書を読んで、偉大な三笘選手と私のギャップを理解した。だから、私はまず自分の原動力となる「エンジン」を探そうと思う。前述した4つのエンジンは、あくまで三笘選手のものだが、私には私なりのエンジンがあるはずだ。
では、自分のエンジンを探すにはどうしたらいいか。まずは、自分が、どんなことを楽しみ、どんなことに喜び、どんなことに悲しみ、どんなことに怒るのかといった、自分自身の特性に素直に向き合うことだろう。そこから意欲や、エンジンとなる行動パターンが見えてくるのではないか。
ただ、正直に言えば、自分のエンジンの探した方は私もまだ模索中である。何か見えてきたらまたnoteに書いてみたい。
そういえば「非認知力」という考え方がある。知能テストでは測れない暗黙知や、育った環境によってつくられるスキルのことだそうだ。将来予測のできないVUCAの時代、そして人生100年時代に必要なスキルだとして注目されている。これが、まさに私の言いたかった「エンジン」とも重なる。
非認知力は、育った環境によって培われるスキルと言われているが、大人になってからでも伸ばすことができるようだ。自分のエンジン探しも、この非認知力を伸ばす過程で見えてくるのではないかと思う。詳しい方法は出典のURLを見てほしい。
ここまで三笘選手と自分自身の比較を述べてきた。ほとんどが自己否定のような内容だったが、大きな自己変革のためには、実は自己否定というステップも必要なのではないかと個人的には思っている。これまでのやり方を改める、という意味で重要だからだ。
もちろん、だからといって否定で終わらせてはいけない。その後、自分のエンジンを探し、どのように行動を変えていくかを考えることが、一番重要なのである。そのことを、この本から教えてもらった気がする。
-おわり-
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