評論風フィクション「学校教育史 近未来編」(3)新自由主義が生んだ究極のシナリオ 公設民営化の成果
3 学校の「公設民営化」の成果
出欠確認のシステム化
朝8時。
チャイムが鳴ると同時にガードマンが校門を開き、子どもたちが学校の敷地内に入ってくる。中には、コンピュータ制御が可能な自動開閉門を設置している学校もある。
校舎内に入ると、子どもたちはあらかじめ決められた教室の自分の席に座る。
座った瞬間に教育管理センター(元教育員会)に自動的に出席が知らされる。教室といっても学級組織はすでに解体されているから、以前のように全員そろって学級担任と朝の挨拶をさせるような場面はない。
机は三方を高さ30センチほどの木製の壁で仕切られている(密閉型ブースを使用している学校もある)。
これから始まる個別学習に集中しやすいようにするためだ。
また、他の子どもと無意味にふざけ合ったり、喧嘩したりといったトラブルを防ぐ意味もある。
子どもが勝手に席を離れると校内の管理室(旧職員室)に連絡が入り、すぐさま警棒を持った警備員に取り押さえられる。
個別最適化に徹した午前中の授業
机の上には個別に与えられたモニターとパソコンが置かれており、何も操作しなくても席に着けば自動的に起動する。
出席が確認され次第、今日の学習内容がモニターに映し出される。
国立学習支援センター(旧文部科学省)が管理するAIによって、一人ひとりの学習理解度に合わせたカリキュラムが示され、子どもたちはその日に学習する内容を確認する。
個別に最適な課題に取り組むことによって、すべての子どもの学力が最低限保証される秀逸なシステムである。
もちろん、学力の高い者は旧来の学年にこだわらず学習を先に進めることができる。中学生でも高校レベルの問題や大学の基礎研究などの学習をしているケースもある。
いわゆるギフテッド問題はここに解決を見たのである。
そしてこれまで問題とされた「落ちこぼれ」という概念そのものが無意味となった。学年のない学校で、個々の修得の程度に合わせて学習するのであるから、起こりようがない。
旧来の小学校低学年に相当する年齢の子どもに限って保護者の同伴が許されているが、必要以上に手助けをすると警告音が鳴り、それでも保護者が子どもに指示を与えると強制的に退出させられる。
こうすることで、子どもたちは自らの力で学習に取り組まざるを得ない環境を得ることができる。
今後の課題として、低学年の保護者同伴を完全廃止するかどうかの問題が残されているが、現在国立中央教育センターが教育や経済に関する専門家を招集し議論を重ねており、近々結論が出されるものと思われる。
大胆な効率化がもたらしたもの
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現代の学校教育にはさまざまな課題が、長い間解決されないままになっています。今すぐにでも本気で改革を進めなければ、この作品にあるような学校が…
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