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こだわりのタイム ~新入部員~

※前回より続きです。気軽にお付き合いください。



 「うひゃー! こりゃまた凄い人数だね!」

野乃花ののかが驚きの声を上げる。まだまだ小学生のあどけなさが残る新1年生が今年も石館いしだて中学陸上部へと入部してきた。

「2、4、6……12、14……うわ、パッと数えただけでも40人以上はいそうだよ」

奈織なおりも驚きを隠せず、他の部員も面食らう。

石館中うちの陸部の何がいいんだよ」
「練習キツイだけなのに」
「しっかし、なんで今年はこんなに集まったんだ」

男子はぶつぶつ言いながらも少し嬉しそうだ。

「そりゃね! なんったって石館中うちのスターである志保しほ、奈織、野乃花が都内屈指のレベルだからね」
「憧れて入ってきたのもいそうだね」

斉藤さんと佐藤さんが三羽烏わたしたちを見て笑う。

「あとはきっとコレだよ」

山田さんがササッとスマホを取り出して石館中ホームページを出してくれた。

「なにこれー」
「陸上部紹介に私たちが使われているじゃん」

野乃花と奈織が驚くので私も覗き込む。石館中うちのホームページからの部活紹介で私たち三羽烏さんばからすがメインで紹介されている。しかも結構なクオリティで作られており、いつしか答えた部活の魅力を伝える動画も載っていた。いつの間にこんなものを。石館中うちは私立中学でもあるまいし。

前野まえの。私たち3年が引退したらこの人数まとめるの大変だぞー」

斉藤さんがからかい、勘弁してくださいと前野が顔をしかめる。2年生は4人しかいないので、この人数をまとめるのは大変そうだ。

「おーー、集まっているかー。おぉ、凄い人数だなー」

すみ先生も驚き、新年度初のミーティングが始まる。始めに顧問である角先生の自己紹介。部活の流れやら活動日や今後の日程を紹介される。

(……んっ。今年の地区大会は7月上旬。例年に比べて10日ほど遅いのか)

プリントに顔をグッと近づける。ラッキーだ。私の右膝の怪我は早くても全治6か月。去年のクリスマスに交通事故に遭ってから早3か月。まだまだ先は長くリハビリも継続中だが、地区大会が7月までずれ込めば、ワンチャンあるかも。そんなことを考えていたら部員の自己紹介が始まった。

「ほら志保。キャプテンなんだから一番始めに紹介しなきゃ」

奈織に言われてプリントから目を離し、松葉杖も正す。

「……えっ。あっ、はい。……えーと、陸上部のキャプテンをやっている出木いずるぎです。種目は短距離です。今は怪我して練習できていませんが、地区大会までには治して出場するのを目標に日々頑張っています。1年生は慣れないことだらけだと思うけど、走るのが好きな人は石館中うちの陸上部は最適だと思います」

言い終えたらワーッとかキャーッとかの声が上がる。2、3年生部員がさもかというように笑う。次は副キャプテンの奈織。

「はじめまして。3年の山門やまとです。副キャプテンやっています。私も志保と同じで短距離をやっています。今言った通り、志保は足を怪我しているので陸上部の指示は私が出しています。結構キツイ練習もあるけど、本気で入部を考えている人は頑張ってみてください」

今度はメッチャ綺麗な人だのカワイイだのキャーキャー騒ぐ新入部員。1年生男子は既に顔がポーッとしてる。なんだこれは。そのままの流れで今度は野乃花の番。

「3年の多屋たやです。多屋野乃花たやののかって言います。種目は走り幅跳びやっています。幅跳びやりたい人は弟子入りどうぞ! 一生懸命に教えます。もちろん男の子でもOKでーす!」

野乃花が言い終えたら新入部員から拍手が起こる。これはもうあれだな。私たち石館中の三羽烏を一目見ようという部員が大半だな。2、3年生部員はとうとう堪えきれずに声を出して笑う。

「おーーぃ。アイドルの紹介じゃないんだからー」

とか言いつつ角先生も笑っている。しょうがないじゃないですかと前野が突っ込み、和んだ雰囲気の中、自己紹介を終えた。まだ1年生部員は仮入部の期間だから、はたして一体何人が残るのかはわからない。けど、日に日に練習を重ねていくうちに今年の1年生は見どころあるのが結構な人数でいる。

「あそこの1年男子5、6人。100㍍と200㍍やたら速えーな。ハードルも上手い子いるし」
「女子は2、3人長距離でセンスある子いるよ。小木おぎがもう抜かれそうとか言っているし」
「高跳びも2人ほど上手い男女がいるね。教えている私もすぐ抜かれそうだ」

斉藤さんや佐藤さんや山田さんがそれぞれ自分の種目で一緒に練習をして肌で感じたという。幅跳びの練習に目をやると野乃花が1年女子2人を一生懸命に教えている。こちらはやる気がありそうだ。

「前野。うかうかしてたら本当に1年生にすぐ抜かれちゃうぞ。今年は人数も多いし、やたらセンスあるのいるし」

奈織が前野に発破をかける。

「うぇー。本当にすぐ抜かれそうです……。なんで今年はこんなに優れたのが揃っているんですかねぇ……」

そう言いながら奈織と前野は短距離のメニューをこなしていく。私は松葉杖を持ち直し、みんなに言う。

「じゃあ、私これからリハビリ行くから。後輩のことは頼んだよ」

任せとけと斉藤さんや山田さんに言われて校門を後にする。これでいい。いつまでも石館中の陸上部は三羽烏で盛り上がってちゃいけない。右手小指の骨折はもう大丈夫。今の私は右膝のことだけを考えて、毎日のリハビリに励むだけだ。


                 続く





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