憧れの一閃 七剣士物語 ~私たち高校1年生~ 其の二十七
※其の二十六からの続きです。気軽にお付き合いください。
不敵な笑みを浮かべる相馬。
「くくくっ……あーはははっ!」
そして再度、私を睨み付ける。
「ここまでお喋りしたんだ。これで気づかなきゃ、心理戦なんかできるわけないよなぁ。雪代さんよ!」
今度は私に詰め寄る。
「中学時代無敵の女とか呼ばれてたんだろ? お前? なんで四日市なんかとつるんでやがる! 関係ねーだろ! 引っ込んでろ!」
ドンと肩を押される。力も強い。
「相馬! こいつもやっていいだろ! この間、腕叩かれたし」
「先にこの女からやろーぜ!」
「四日市! テメーはちょっと待ってろ!」
取り巻きの3人がターゲットを私に絞り、詰めかけようとする。
「そこまでだ!」
近くの物陰に待機していた藤咲と光。八神と日野と宗介も取り巻き3人の行く手を阻む。
「……チッ! 全員で出張ってやがったか」
もっとも男子の滝本と前田は来なかったが、人数では剣道部の方が上回る。
「もう絡むのはやめろ! 四日市はお前たちと縁を切りたいと剣道部に相談してきた」
私は力強く相馬に言い放つ。しかし、それが可笑しいのか相馬は笑う。
「くははっ! あーははっ!! なんだ四日市、昔みたいに私と仲良くしたいのか? いいぜぇ、だったらよ!」
四日市の頭をグッと自分の顔へと近づけ、そして。
「んっ! ……んんっ!! んーーん!!! ……むっ! むー!!」
相馬が思いっきり唇と唇を重ね合わせる。
「ひゅ~! 相馬ぁ~! やる~!」
「レズビアン? レズに目覚めちゃうぅ~」
「キッス! キッス! 四日市さ~ん? ひょっとして初めてですか~?」
四日市が思いっきり相馬を跳ね飛ばす。
「ベッ!」と地面に唾を吐く相馬。
「まじぃ唇だなぁ、オイ!」
親指で唇を弾き、こんなことは何事でもないよう振る舞う。
(相馬もイカれたクチか……)
取り巻きの3人は大笑い。対して剣道部員はみんな黙ってしまう。こんな状況でキスするとは正気の沙汰ではない。辱められた四日市は相馬の胸ぐらを掴む。
「てめー!! 相馬ぁーー!!!」
これでは相手の思うつぼだ。
「やめろ! 四日市!! お前の覚悟はそんな程度か!!!」
私は彼女に一喝する。すかさず振り上げた拳を止める四日市。
「……どうも剣道部がいると調子狂うなぁ。あいつらはお前の仲間にマークされてるし」
言葉が通じるような相手ではないが、ここは私が言うしかない。
「相馬。四日市はな。理由は言わないが、剣道部に絡んでは来たものの、自分の気持ちに決着つけるため私たちと剣道で勝負した」
相馬はどうでもいいように聞き流す。
「いつまでこんなくだらない喧嘩するつもりだ? 相馬強がっているだけで、たいして強くないだろ? 令和の時代にレディース気取りか? 時代遅れも甚だしい。取り巻きにもチヤホヤされて、その気になって、剣道も中途半端で投げ出して……」
そこまで言うと相馬の目つきが変わる。
「なんだと雪代!! 関係ねぇお前が何を言う!!」
胸ぐらを掴まれるが、私はひるまない。
「また暴力か? 喧嘩か? それとも私のことも辱めるか? 言っておくが、私はその手に耐性はあるんだからな」
私は中学時代、陰湿なイジメや目に見えない男女の暴力はいくつも見た。いつの時代もなくならない負の感情。未熟な少年少女は気に入らなければ悪いことにも平気で手を出す。そして、弱いものが泣く。相馬の足もとがお留守になっていたので、足を払って転倒させる。今度は私が馬乗りの体制になる。
「下着を隠されてそのまま帰宅した人間の気持ちがわかるか? 後ろ指で男女からあざ笑われるその気持ちが! トイレで座っているときに水をかけられ辱められたことはあるか? 殴って蹴って泣かされた人間がいることをお前はわかるか?」
気持ちが昂る。体全体から熱が上がり、自身を守ろうとする気が昂る。
「うるせぇ! 離せ! なに言ってやがる、お前!」
相馬が抵抗するが、気が昂っている私は自身の感情も抑えられなくなってきた。
「私が何をした! 剣道が強いだけであぶれ者にされて、私はただ楽しく剣道をしたかっただけだ! それなのに! あいつらも相馬も同じことをする!」
指の力を強める。相馬の手首を握りつぶす力で。
「い、痛てぇ! お前! おかしいぞ! 何言ってんのかわかってんのか!」
許せない。許さない。私の前で弱い者や辱めを受けさせられるのは。そのまま相馬の首を絞める。
「……かァ! クッ! クァ!……アッ! グアーっ!!!」
許さない!許さない!!許さない!!!
「…………代……さん! !」
勝たなきゃ!勝って!!勝って!!相手を黙らせなければ!!!
「響子ーーーー!!!!!」
誰かに呼ばれて我に戻る。
「ゲホッ! ゴホッ!! グホッ!!!」
相馬が咽ている。
(……?? 私、は???)
何が起きたのかわからなかったが、馬乗りになり、相馬が咽て、そして、泣きながら光が私に抱きついていた。
続く
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