憧れの一閃 七剣士物語 ~私たち高校1年生~ 其の二十六
※其の二十五からの続きです。気軽にお付き合いください。
今日は日曜日。練習が休みの日だ。1学期の期末試験も近づいているので、他の部活はほとんど活動していない。四日市より懇願された願い。
「相馬グループと縁を切りたい」
「頼む」と、深く頭を下げられて私たちは困惑した。常に因縁をつけられては喧嘩や暴力に走り、それはとうとう剣道部も巻き込んだことには謝罪された。だが、肝心の理由については一切答えず、四日市はただ黙って頭を下げ続けた。藤咲だけは最後まで「面倒ごとはごめん被る」と言い張ったが、結局は折れた。
(そろそろ時間か)
先日と同じ、道場前の壁際に私は身を隠す。コッソリと四日市の様子を覗くためだ。今日はもしもの時のために着替えて、竹刀も持ち合わせる。最悪の状況になった場合は自分の身を守らなければならない。四日市は神妙な面持ちで今日という日を迎えたようだ。
「よぉ。四日市さん。嬉しいぜ~。お前の方から呼び出してくれるとはな」
来た。相馬と3人の取り巻き女たち。総武学園不良カルテット。学校が休みだと言うのに、丁寧に制服を着ているあたりが令和の不良というところか。
「やっとその気になったか! 四日市!! 今度こそぶっ潰してやるぜ!!!」
会った途端にこの気合と雰囲気。話し合いで解決するようには思わないが、四日市の言葉を待つ。私たちもまだ完全に彼女を信用しているわけではないからだ。
「……もう、絡むのはやめてくれ。暴れるのも、お前たちと喧嘩するのもやめだ……」
最後に「これで終わりにしてくれ」と先日同様、頭を下げる。どうやら本気で相馬連中とは縁を切るつもりらしい。一瞬、面食らった顔をする不良カルテットだが。
「……ふ~ん。なにがあったか知らねーけど。いいや、おおよその検討はつくんだぜ。最近のお前の様子を見ていたらなぁ……」
ゆっくりと近づき、頭を下げている四日市の顔を手で起こす。
「昔っから綺麗な顔しているよなぁ、お前。本当ムカつくぜ! ガキの頃から比べられてよぉ」
(ガキの頃?)
バチン!と思いっきりビンタを食らわす相馬。勢い余って吹っ飛ぶ四日市。
「相馬! 今日もやっていいの?」
「今度こそ脱がそうよ! こいつ!」
「ハサミもカッターもあるぜ!」
ここまでかと思い、私も臨戦態勢をとる。だが、四日市が立ち上がり再度頭を下げる。
「……頼む。……許してくれ。お願いだ」
声が震えている。聞いても教えてくれない理由が相馬にも関わっているということか。私は再度身を潜める。
「……わざとじゃない。……わざとじゃないんだ。……頼む、許してくれ」
先日より四日市の中にある何かに触れると、こうして人が変わる。
「なに言ってんだお前?」
「今日もやるために呼び出したんだろ!」
「オラッ! いつもみたくかかってこいよ!!」
本っ当にもう。今は昭和時代か。平成も終わって令和の新時代になろうとしているのに、やっていることは喧嘩、喧嘩、喧嘩。呆れて物も言えない。
「……なんだよすっかり萎んじまってよぉ。あぁ? 私がそれで許すと思ってんのか?」
再度その手で四日市の顔を起こす。
「……もう、やめだ。過去に囚われすぎんのは」
バチン!ともう一発ビンタを喰らわす相馬。だんだんと四日市の言葉が相馬に響いているような一発だ。相馬の表情がみるみると怒りに染まっていく。
「……うるせぇ。私は! あいつはお前を許さねぇ!! 何があってもだ!!!」
それでも起き上がり、四日市は頭を下げる。どうやら本気で自分を変えたいと思っているようだ。
「……剣道部に触発されたな? 禁忌を犯しやがって。許さねぇ! 許さねぇぞ!! 四日市ー!!!」
だんだんと話が見えてきたように思う。四日市と相馬の関係性。少なくとも知り合いで、『剣道』のことで2人は何かを抱えている。
(取り巻きの3人が邪魔だな)
影ながら見ていると相馬に感づかれたようで。
「……おい! 気配殺してるつもりらしいけど、最初からそこにいんのはわかってんだからな! 誰だが知らねぇが出て来いよ! 私をなめんじゃねぇ!!」
観念して私はその場に出る。
「……雪代響子か。お前は関係ねぇ、と言いたいが、剣道やっているやつに関係ねぇは、今は言えねぇな!!」
今度こそ相馬と向き合った。意外と背も高く、気迫も凄い。だが。
(やはり、この気迫って……)
私も相馬の気を感じ取る。外れている可能性もあるが、この気迫と凄みはいつも感じ取っている気だ。サッと取り巻き3人を観察するが、こいつらの気や凄みはただの感情だ。私が前回から感じ取っていた相馬に対しての違和感。四日市と相馬の関係性。剣道のことで何かを抱えているもの。それらから出る答えとは。大きく一呼吸入れて私は言う。
「相馬。……剣道やっているな?」
続く
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