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憧れの一閃 七剣士物語 ~私たち高校1年生~ 其の二十五

※其の二十四からの続きです。気軽にお付き合いください。



 「男子は外で待ってろ!」

藤咲ふじさき宗介そうすけ滝本たきもと前田まえだを追い出し、女子5人で養護教諭の先生へと尋ねた。

「あら、たしか、あなたたちは剣道部ね? 練習は終わり? 友達の様子でも見に来たの?」

断じて友達ではないが、事情を説明するのも面倒なので話を合わせた。

「……えぇ。大丈夫ですか? その、四日市よつかいちは?」

カーテンを引かれて、あの後から眠っているらしい。下校の時間も迫っているので、「様子を見に来てくれて助かった」とお礼を言われた。

「ちょっと、席を外すわね。職員室に行かなきゃならないから」

先生が出て行って、保健室も静まる。

(まだ寝てるのか?)

5人で顔を合わせるが、やがて日野ひのが「そっ」とカーテンを開ける。檻に入っている猛獣を覗くように「そ~っ」と。目が合う。どうやら起きているようだ。

「…………」

放心した状態になったか、先ほどとは別人のような印象を受ける。ひかりが話しかける。

「……大丈夫? 四日市さん」

答えるかわりに大きく息を吐く。

「……私の制服」

四日市が一言だけ声を出す。先輩たちに見つからないよう隠しておいた四日市こいつの制服を渡す。胴着を着たまま眠っていたようだ。

「……なに人の着替えを全員で見てんだよ」

まぁ、そうだが。みんなで少し視線をズラす。

「……胴着は洗って返す」

ササッと手慣れた手つきで胴着を畳む。

「……悪かったな。暴れたり喧嘩したりするつもりはなかったんだ……」

上履きを履いて立ち上がろうとする。

「……もう道場には近づかねぇ。これで、許してくれ……」

四日市こいつなりの精いっぱいな謝罪だろう。最初に会った時から違和感はなんとなくあった。こいつは何か・・を抱えている。おそらく私以上に重たい何か・・を。

「私が相馬そうまのグループに絡まれても、もう関わらないでくれ」

「そのつもりだ」と藤咲は言う。支度を整えて保健室から出て行こうとする四日市。

「待って!」

光が呼び止め、彼女の前へと立ちふさがる。

「あなたに何があったかなんて聞かない。でも、いいの? これで?」

やれやれと言う感じで四日市が首を振る。

月島つきしま、もうやめておけ! 誰にだって話したくない事情はある。そりゃ、あたしだってやられただけで終わりは悔しい。けどな……」

八神やがみも同じ展開にするなと言った感じで光に言う。さっきまでの四日市こいつの勢いや剣道のセンスを見たら只者じゃないことはわかる。なにより、私たちの前で流した涙におそらく嘘はない。それでも光は引かない。

「でも! 四日市さん。不良ぶってもあなたは試合で卑怯なことは一切しなかった。そりゃあ、竹刀蹴って私にぶつけたのは許せない。だけど、これでいいの? これで、剣道終わりにしていいの?」

光の言葉には力強い説得力と、心に響く重みがある。彼女のこれもまた天性のものだろう。私もこれで救われたからわかる。

「道場の前で相馬って人に絡まれていたのは? 剣道場が気になって近くまで寄ったからじゃなくて? どうして日野さんにハンカチを返そうと近づいたの? 剣道捨てたなら、やっぱりそれは私、よくわからない……」

光の言葉もこれで途絶えた。

「……月島って言うのか。お前、お人良しすぎるって言われるだろう?」

さっきは光に凄んで見せた四日市だが、今度は呆れた声で光に言う。

「……私は、もう剣道はできねぇ。いや、やっちゃいけないんだ……」

言葉が途切れたところで下校のチャイムが鳴った。これ以上は学校にいられない。流れでその日は1年生全員で一緒に駅まで歩いた。四日市を囲むようにして。

「……四日市って、普通にしていると、顔綺麗だね。身長もあるし、スタイルも良いし、いいなぁ、羨ましいなぁ、わたしチビだし」

普段なら気まずいことこの上ないシチュエーションだが、変わり者?の日野が四日市に興味を持ったのか次いで話を振っている。その都度、めんどくさそうに答えて、私や光に「なんとかしろ」と言ってくる。おそらく四日市も友達はいないのだろう。宗介と藤咲と八神は熱く剣道論を語り合い、私は一時的ではあるが今日の出来事や、剣道のことを抜きにして、駅までの道のり時間を満喫した。

四日市こいつ。普通にしていれば優等生みたいな感じなんだな)

そんなことを思いつつ、しかし、なぜか滝本と前田は気まずそうにして、一歩も二歩も離れて後ろから歩いている。そろそろ駅が近づいてくると四日市が反転して私たち剣道部員に向き合う。

「……なぁ。こんなことを頼める義理でもないし、私のこと殴りたいって思っている奴もいるだろう。……だが、最後に、自分に、お前たち剣道部員に、賭けてみたいことがある……」

帰りの場の雰囲気が良かったからなのか、一瞬でも剣道のことと向き合えたからなのかはわからない。ただ、四日市から頼まれた事は、部員全員で顔を合わせても即決で答えることはできなかった。


                 続く

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