憧れの一閃 七剣士物語 ~私たち高校1年生~ 最終話
※ここまでお付き合いいただきありがとうございました。最終話です。
8月も終わりに近づく頃、夏休み最後の『秋季大会』が行われた。この大会は他の大会とは違い、『1本勝負』の大会だ。1本勝負は難しい。1本取れば即、勝ちだが、逆に1本取られれば即、終わりだ。そして、この秋季大会は3年生が現役生として出場できる最後の都大会でもある。ルールも他の大会と違い、女子1部と女子2部。男子1部と男子2部に分かれた大会となっている。簡単に言ってしまえば、6月に行われた全国高等学校剣道大会東京都予選に出場していれば1部リーグを戦い、支部予選で負けて都大会に出場できなかった高校は2部リーグを戦うこととなる。当然、都大会でベスト16入りを果たしている総武学園高校女子は1部リーグを戦う。ちなみに男子も1部リーグを戦ったが、今大会は初戦で敗れた。
「「「フォイトでーーす!!!」」」
声を枯らしながら3年生の先輩たちに最後の声援を送る。自分たちの力量を高めるため。都大会ベスト16止まりの古豪、総武学園剣道部を1つでも勝ち上がらせるため。そして後輩のため。この夏も総武学園の四天王と呼ばれてきた高橋真悠子先輩。宮本彩也香先輩。西澤桂花先輩。菅野夢香先輩。受験勉強もしながら最後の最後まで現役生を続けた。
バチン!!! 「メェェーーーーーン!!!」
「オォォォーーー!!!」という拍手と声援は私たちの思いを上回った。いや、上回ってしまった。ベスト8を賭けて挑んだ相手は暁大学付属第三高校。先鋒の藤咲こそ幸先よく勝利を収めたものの、次鋒の菅野先輩が桜宮右京に、中堅の西澤先輩は桜宮左京に敗れて1勝2敗と追い込まれた。そして副将の宮本先輩にはどうしても勝ってほしかったが、試合終盤の攻め合いで1本取られてしまった。
「あぁ…………」
3年生の思いは後輩の誰もがわかっている。優しくて強い、憧れの先輩たち。私たち1年生とは4か月足らずの付き合いしかないが、それでも幾度となく良くしてくれた。それ以上に付き合いのある2年生の先輩たちは全員肩を落とした。大将戦を残して1勝3敗で勝負あり。遠目から見た琴音先生も天を仰ぐ。またしても総武学園高校はベスト16止まり。しかも、暁大第三高校に3年生は出場していない。既に1、2年生の新チームとして船出している。この差は大きい。誰も言葉を発することなく大将戦が始まってしまう。
「「「高橋先輩ファイトーーー!!!」
今日一番の声援でも届かなかった。微妙ではあったが、最後は出小手を取られてしまい、高橋先輩も敗れてしまった。
(完敗だ……)
四天王と周りから呼ばれているほどの3年生の先輩なら、『今回こそは勝ってくれる』。誰もが思い、願ったが、乗りに乗る暁大第三高校の勢いは止められなかった。琴音先生と3年生の、最後のミーティングは全員が泣いてしまい、ミーティングどころではなかった。あの藤咲でも最後に目を擦った。私も光ももらい泣きしてしまい、決してハッピーエンドという結末ではなかった。保護者からは暖かい拍手をもらったが、先輩の悔し涙は一生忘れないだろう。
「……おい」
四日市が私と光を手招きする。
「八神と日野も……」
相馬もチョイチョイと2人を手繰り寄せる。再度、試合会場に入り、コートに目を向ける。途端。
ドォォォワァァァーーー!!!!! と地鳴りのような声援が会場を支配した。
「な、なに? どうしたの?」
光が会場全体を見渡し、八神と日野も呆気に取られる。
「あ! あれ! 決勝戦!!」
思わず私が指を指す。武蔵女子学院高校と暁大学付属第三高校の決勝戦。そして、先鋒、次鋒は武蔵女子学院が勝ったようだが。
「あ、あのヤロー!!!」
八神が声を荒げる。中堅の桜宮左京が見事に勝利を収めたようだ。『完全無欠』『常勝無敗』『最強無敵』の言葉しか出てこない武蔵女子学院の選手がついに負けた。館内は驚きや黄色い声援、拍手が沸く。中堅戦が終わって1勝2敗ならまだわからない。副将、大将が勝てば大逆転で、暁大第三高校が念願の初優勝を成し遂げる。目下、ここまですべての都大会で13年連続優勝、先のインターハイでもとうとう5年連続で全国大会5連覇も達成した武蔵女子学院。もしかしたらの期待が否応にでも会場からは伝わる。しかし、王者は決して慌てなかった。冷静に戦局を見極めた副将が一瞬の隙をついて突き技を決める。大将に至っては、ほぼ秒で勝負が決まった。会場からは結局、「武蔵女子学院か」と声が漏れる。
「これからは、あんたたちが相手するんだよ!」
気づいたら3年生の先輩方は着替え終えていた。
「そうそう~」
「暁大第三に東第一、港中央、都立の西荻総合も強いからね」
「強いとこばっかじゃん」
琴音先生と一緒にたくさん泣いたか、もう3年生の先輩たちは晴れ晴れとした表情をしていた。
「青木!!」
高橋先輩が2年生の青木先輩を呼ぶ。呼ばれた青木先輩は急いで駆け寄る。
「青木! 次の主将はあんただ! この曲者揃いの1年女子をまとめるのは頼んだよ!」
言われるとは思っていなかったのか、青木先輩の目に涙が溜まる。「泣くなよー、青木ー」と3年生の先輩たちは最後に抱きしめ、そして笑う。こうして秋季大会は終わりを迎え、私たちはまた毎日、稽古に励む。結局、剣道漬けの毎日だが、そんな毎日を今の私はそこまで嫌とは思っていないようだ。3年生の先輩たちの思いを受け継ぎ、いよいよ2学期も始まる。新しく船出をする総武学園剣道部は、2年生の青木先輩を中心に再始動。ここまでだけでも様々なことがあった。これからも総武学園で剣道を続ける限り、いろんなことが起こるのだろう。今はそんな出来事を、私はちょっぴり楽しみにしている。
(了)
☆2年生編(仮)へと続く。