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自転車40km通学

これは私が書いた"徒歩40km通学"の数ヶ月後の話。

それはまだ暑さの残る時期だった。(2回目に関してはあまりのキツさからか正確な時期は覚えていない)

再び学校から説明会参加の案内が届いた。
この時点で交通費は全くない状況。徒歩が確定した。

本来ならばあの1回目の大冒険を思い出し、憂鬱になり、周りに頼み込み交通費を工面するだろう。
しかし、当時の私は違った。

「よし、行くか!」

本当にこの時の行動力は一生褒めてあげたい。

決心?も付き、次は移動手段。選択肢は徒歩しかない。
だが、実際1度徒歩で通学しているので学校までの40kmの道のりほとんどが広い道だった事を覚えており、大幅な時間短縮を狙い私は自転車を選択した。

そして当日。

説明会に必要な書類、水分、道順を表示したPC(嫌な予感しかしない)、その他着替え、タオル等をリュックに入れ、念のため1回目にかかった時間を考え10時間前の夜中1時に出発した。
ちなみに出発時の所持金は230円。

出発し、滋賀、京都に入り宇治を抜ける辺りまでは道も広く、下りも多かったため非常に快適で、何故始めから自転車で行かなかったのかと後悔しながらも、夜中のサイクリングを鼻歌を歌ってしまう程には楽しんでいた。

だが、その楽しさもそう長くは続かなかった。いつも通り宇治を抜けようかという辺りで急に道幅が狭くなり、自転車を漕ぎづらい道が増えて来た。
徒歩の際は、道のでこぼこ等はさほど気にならなかったのだが、自転車だと転倒のリスクもあるためなかなか難しい。
この辺りで大幅にタイムロスをしてしまった。

そこからは前回のルートとほぼ同じ道を辿り、そこまで難所もなく(既にPCはただのおもりと化していた。※徒歩40km通学参照)、6時間半程で到着する事が出来た。
私は自転車に無限の可能性を感じた。

予想以上に早く到着し、学内にて時間まで睡眠する事ができ、説明会も無事終わり、徒歩含め3度歩いた道、おおよその道順は記憶していたので道に迷う事もほぼないであろう。

勝った。

これから6時間以上かけて帰らないといけないというのに何とも気が早い。

そして出発。

気の大きさ、慣れた道順、そして自転車という完璧な組み合わせで行きよりも順調に進んでいった。

だが、そう上手い事はいかない。
枚方を抜けた辺りで家から持参していた水分が底を尽きてしまったのだ。
おまけにまだ暑さの残る時期、行きは夜中から朝にかけての移動だったので問題はなかったが帰りは最も暑くなる時間帯、自転車といえど残暑の日差しからは逃げられない。

コンビニで貴重な100円を使って水を買い難を逃れた。

しかし、それも長くは持たない。

水はすぐに尽き、京都には入ったのだが暑さと疲労で意識が朦朧とする。

京都に入り、幹線道路沿いの道から変わり、交差点が増えた。
自転車で進んでいる分には良いのだが交差点で止まる度に体の熱さが込み上げ、頭の中が揺れる。本当に救急車を呼ぼうか迷っていた程だった。

残金130円。水分、食料なし。

意識が朦朧とする中、道中にスーパーを発見した。中に入ったはいいが残金130円。どうしたものか。
当時の私が考え出したのは、まず一番に水分補給。100円で味付きの氷を、残った30円で駄菓子を買い空腹をしのんだ。

そして、食料品売り場にある冷蔵品を持ち帰る際に冷やすための氷(冷蔵品どころか氷しか買っていないが、、、)を、袋に詰め、タオルに包んで首に巻き、体の熱を下げた。

おかげで体調はかなり回復し、帰路を急ぐ事が出来た。

それから徒歩通学の際に通った道を順調に進み、いつの間にか外も暗くなっていたが、不安も消え、既に帰宅したかの様な達成感があふれていた。

しかし、こういう時こそ人は足元をすくわれる。

京都から滋賀への県境に差し掛かろうかという時に最大の試練がやってきた。
道は完全に分かっている。
目の前の道を真っ直ぐ登って行くだけで県境。なのだが、どこにも自転車が走れる道が無かった。
車道はあるが、インターチェンジの様に立体交差になっており自転車が通る事は出来ない。

おかしい。

昨日の夜中の行きは何事もなく通り過ぎたはずなのに。
脇に小さな道を見つけ、入ってみたが先は行き止まり。道を戻り、別の古い歩道を見つけたが、元いた場所に戻ってくるだけだった。

夜で周りも暗く、街灯もあまりないため見通しが効かず、辺りを遠くまで見渡せなかったのも原因だがそれにしてもおかしい。
ほとんど通った事のない場所なら分かるのだが、その場所は私が学生時代から何度も何事もなく通って来た道なのだ。

達成感に満ち溢れた心はまさかの場所で奈落へと落とされた。

そうなると人は混乱し、正常な判断が下せなくなりやすい。

私はまさしくそれにハマってしまい、混乱し、新たな道を見つけた!と、思い込み同じ道を何回も試し、行き止まりや、同じ場所に戻ったりを2時間以上は繰り返していた。

空腹の限界、疲労もピークに達し、この近くに交番がある事を昔から知っていたので110番をし、助けを求めようかと思った時だった。
目の前、少し遠くに歩道橋のようなシルエットが見えた。

昔からこの場所に歩道橋がある事は知っており、その道が県境までの道へと繋がっている事も知っていたが、ほとんど利用した事がなく、周りも闇に包まれていたので全く頭になかった。

とはいえ今私は自転車に乗っている。本来ならもう一ヶ所、先へ通ずる歩道がありそこを見つければ簡単に帰路につける。

だが、今の私は2時間以上その道を見つける事が出来ず、悪夢のような行き止まりに苦しんでいる。

答えは一つしかない。

私は力を振り絞り自転車を抱えた。そして階段を登った。
田舎の歩道橋は階段幅が狭く、そして長い。
自転車を持って上がるというより、自転車を一度上の段に置き、私が一段上がる。という大変な運動だった。

やっとの事で上がりきり、次は下り。
また同じように一段ずつ慎重におり、ついに県境への道へと足を踏み入れた。

そこから滋賀に入り、帰宅までは疲労がたまって下り道しか自転車に乗る事が出来ず、他は自転車を押しながら歩くのがやっとだった。

無事帰宅したのは夜中日をまたぐかどうかの時間。
帰りは10時間かかり、結局徒歩の時と変わらずだった。

次の日は偶然1日休日だったのだが、相当体も疲れていたのだろう。ほぼ丸一日眠り、起きたのはその休日も終わろうかという夜だった。

これが私が経験した自転車40km通学。

体力は限界まで消費し、体も悲鳴をあげ、心は絶望から始まり、喜びから奈落へと落とされる。
これを1日という短時間で経験し、乗り越えてきた事は私の最大の誇りである。

二度と経験したくはないが、体力がある内にもう一度、どのような道を歩んだのか歩いてみたいとは思ったりもしている。もちろんお金はちゃんと持った上で。笑

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