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東京都小平市。8歳の息子と2歳の犬。それに妻との4人家族で生活中。働きながらゆったりと…

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東京都小平市。8歳の息子と2歳の犬。それに妻との4人家族で生活中。働きながらゆったりと詩作に挑戦しています。日々の記録、心の記録。黒田三郎さんのような「私詩」の世界が憧れ。

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  • Report from Little Field

最近の記事

『ミトンの裏側』

ミトンが見つからないから 夕食の準備はやめて 部屋に引き返した 今日は 原材料のない手紙を 書き終わるまで眠らないと決めた 一向に進まないので お茶を取りに行くふりをして リビングにいる君に 惑星の後戻りする軌道について 話したり 話さなかったりする たとえあと100万回の夜があっても 死んだ猫が何べん生き返っても なんとか書き上げて ポストに投函するまで 増えていくカウントに焦りながら 布団に入った猫たちは 早回しの映画みたいに 何べんも出たり入ったりしていることだろ

    • No Name

      Wi-fiが切れて 何度も切れて 静かになった 取り戻さなくていい音を 置き去りにして 夕食どきを迎え ナイフでもフォークでもない まったく新しいカトラリーに まだ名前をつけられないまま 皿の上の食べきれない料理に手を付ける 君が残した「か」は 僕が変わりに食べてあげるから 君は残していい 今日はコップについだ ビールに似た飲み物だけを ちょっと笑って 飲んでいればいい 明日の献立を どうしても思いつかないから 買い物リストはいつまでも埋まらず 君は無くしてしまった「せ

      • クローディア

        毎週のホット・チョコレートサンディよりたいせつなものを きみはいつか見つけるだろう 秘密をたくさん ポケットにしまいこんで バスに乗るんだ いちばん後ろの席で息をひそめながら いったいどんな話をする? 旅にでるのに必要なのは何? カバーの取れた文庫本と “しるし”をつけすぎた紙製の地図 笑う星を頼りに 虹の架からない空の渡り方を 無言で教えてくれる風ひとつ 偶然2人同時に見つける 溢れる寸前の タンブラーを強めに閉めて 誰かが降りるバスに乗る 料金ボックスの音の配列 毎

        • 笑う仕事

          急ぎ渡る橋の向こうに 一本の樹 定刻通りに来ないバス 人は冬眠を忘れ 覚醒した時間を持て余し 「理由」の傍に座って 過ごしたがる 直観を信じるために 笑う仕事を 耕している 最終便に間に合わせるため 夜中までかけたメッセージを 上書き保存してしまったので ひとつ前のメッセ―ジが本当だから そっちを気にしてくれればいいよ 急ぎ渡る橋の向こうに 星ひとつ 定刻通りに来ないバス 最終便に間に合うために 笑う仕事を 干す 耕す

        『ミトンの裏側』

        マガジン

        • Report from Little Field
          10本

        記事

          ほどけ

          靴紐のように 5本指を 夜にほどく 影絵を作る 作る音が 反響を作る 作るのは あなたが声にしなかった声 夕暮れが 曖昧に保証する 約束に似た 音と色 原材料のわからない 手紙を作らなくてはなりません ほどけたものの回収を しなくてはなりません 作る 作る音が 反響を作る 色を頼りに 作るのは あなたが声にしなかった声 こんなにも 完璧に 知らないこと それが嬉しくて ほどけた指が帰ってくるのは 明日よりもっと先なので 一本となりの路地で 銀杏が 日曜日を 激しく燃

          『決行日』

          『決行日』

          Little Field

          用水路が町を横切って 「日常」がアスファルトに染み込んでいる それは街路樹の養分 平屋のドラッグストアに 冷凍食品を買いに行くのは あれこれ上手くいっていないときだ たくさんの「所用」を食べて 地球の曲線にへばりついているから わからなくなることが多いけれど 自転車が削った白線と 祭りの翌日の割り箸が きちんと散らかっていれば とりあえずは大丈夫 新しい標語が町を不本意に埋めても 交差点で「じゃあね」と別れる君の顔が 根拠の無い自信で溢れていれば それでいいよ

          Little Field

          『Anker』

          手探りで 雨戸を開けたAM9:32 待ちくたびれた朝日が 決壊を起こして 侵入してくる遅い朝 光が届き始めると マンガを読んでいるお前の背中に 緑生が始まる 光と種さえあれば  創世記はいつでも始まるってこと 珈琲を淹れるまでの15分間 飛行機の通過音と鳥の囀りが 時間どおり働いているのに お前の親父はこうやって 出遅れた朝を迎える (知ってると思うけど) それでもなんとか 今日を動かそうとしているのに 頑なに同じ場所にとどまっている あの雲ひとつ  そういえば昔の友達

          『Anker』

          『頬、得る』

          『頬、得る』

          『買い物』

          好きなお菓子は昔からこれ とスーパーマーケットでカートを押しながら いま、僕に言った? 独り言のように 話しかけてくる 無防備な 韻律 シナプスが記憶してるのは 巨鯨が残していった大きな波紋 その一番端っこに置かれたレジスターで 空想を清算して 僕はお釣りを受け取った うちに帰った僕たちは カーヴァーの小説みたいに ああ今日も何もなかったと 起こった出来事を反芻しながら 巨鯨が悠々と泳いでいくのを 静かに並んで見送っていた

          『買い物』

          『決行日』

          整骨院の中2階に かくし扉があって 鍵は腹巻の中 手掛かりはあいつ サウナでいつものぼせている あいつに聞けばわかるから 公民館の屋根の上で 蛙が遠吠えする月夜がチャンス 町に住むのは 底意地の悪い人間 人間らしい、人間 いつも人の悪口を言っている 人間らしい、人間 漂白されすぎて 失ったものを 今夜奪い返しに行くのさ

          『決行日』

          『ホームアンドアウェー』

          ホームアンドアウェーの 今日はどっちなんだろう 探しあぐねている 四分音符の置き場所 お別れを言いに来たんだけど 「オンラインで受付中」と聞いて 何も言わずに帰ってきた そういえばモニターってやつは 「ここが世界だ」みたいなツラして ずっと不気味な音を立てている (・・・電源オフ)。 猫背になった愉快犯は トイレットペーパーを使いすぎる グーグルマップで限界までズームした 公園のトイレ 砂粒のような 目に見えない人々 砂浜で眠る石のような 地球 夕食が家で待ってい

          『ホームアンドアウェー』

          『海の機嫌』

          そして海はある日 不機嫌な顔をして机に座って キーボードを叩きはじめた パロメーターのインターフェイスは 合間に淹れる珈琲の味 僕たちは 音の無い場所にいる 音の無い窓 無音 音 何もない とまる 布 風? バスを待つ 無音 風の音 それだけ 枝だけの街路樹のそばで  バスを待つ  水晶に引きこもった 共鳴 そしてある日 海は猫背になり 地球の輪郭に沿って 眠った 路地裏の子供の声と 母親が鍋を煮る その音だけを聞いて

          『海の機嫌』

          『日曜日の左側』

          駆けていくのは右足 工事現場が沈黙したまま 地球を削る 屋根の上のテレビアンテナよ 見えてるものを教えてよ 町の坂道を ダブのリズムに乗っ取って お爺さんやお婆さんが歩く その横を子供たちが   駆け抜ける    駆けていくのは右足 「ワークソング」が聞こえる街角 大食漢の弟が 口を開けて笑っている 働け働け 生きるということを働け 駆けていくのは右足 入り組んだ町の路地 屋根の上のテレビアンテナよ 見えてるものを 教えてよ

          『日曜日の左側』

          『キャップジュビーからの伝言』

          今日は誰にも会わない って決めてようやく 君は笑顔になった コーヒーミルを新調しないと 朝が不安定だから 穴に籠っている キャップジュビーで暮らしたいという夢を 今日だけは気恥ずかしさを伴わずに 君に話してもいいかな マグカップに デザート山盛り サラサラと音を立てて 空一杯に浮かんだまま 退屈を持て余している星座たち 気温が下がれば下がるほど 外へ駆け出したくなる 了解、 落ち着いたら電話するよ

          『キャップジュビーからの伝言』

          『ひかりの靴下』

          商店街から少し外れた 小さな屋根の稜線が 空を支えている 「あのあたり」って 思っておけばいい? 寒さもすっかり厳しくなって 僕よりも夜が だんまりを決め込んでいる でも君がちょっと息を吐けば 生ビールのお代わりを頼むみたいな ぶっきらぼうさで 「生きてる」ってヤツは言う しぶしぶ付き合うような 安い物語ではないから 僕は心から笑って 窓の外は雪 瞬きのような短い夜に 正しさばかりを競い合う 無駄な暮らしをやめるまで 何年もかかってしまったけれど ほんとうは トム・

          『ひかりの靴下』