『ミトンの裏側』

ミトンが見つからないから
夕食の準備はやめて
部屋に引き返した

今日は
原材料のない手紙を
書き終わるまで眠らないと決めた

一向に進まないので
お茶を取りに行くふりをして
リビングにいる君に
惑星の後戻りする軌道について
話したり
話さなかったりする

たとえあと100万回の夜があっても
死んだ猫が何べん生き返っても
なんとか書き上げて
ポストに投函するまで
増えていくカウントに焦りながら
布団に入った猫たちは
早回しの映画みたいに
何べんも出たり入ったりしていることだろう

どっちみち
冒険物語と呼べるようなものは
何も持ち合わせていないんだから
そうやって
クッキーみたいに
毎日を齧っていようと思う
しるしばかりで
結局使わなかった地図も
本棚にはきちんとしまっておくよ

タイムトラベルの本を読んで
好きなものと
好きになりそうなものをメモしていれば
ご機嫌でいられる
(古いメモには×印をつけて消すけど
読もうと思えば読めるようにだけはしておきたいんだ)

そんなことをしていたら
またいつのまにか朝になって
手紙はいつまでも完成しないけど
肝心なことは
ミトンの裏側に
縫い付けておいたから
それでいいのかもしれない








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