No Name

Wi-fiが切れて
何度も切れて
静かになった

取り戻さなくていい音を
置き去りにして
夕食どきを迎え
ナイフでもフォークでもない
まったく新しいカトラリーに
まだ名前をつけられないまま
皿の上の食べきれない料理に手を付ける

君が残した「か」は
僕が変わりに食べてあげるから
君は残していい
今日はコップについだ
ビールに似た飲み物だけを
ちょっと笑って
飲んでいればいい

明日の献立を
どうしても思いつかないから
買い物リストはいつまでも埋まらず
君は無くしてしまった「せ」を探している
たいてい洗面所か
クローゼットに置き去りされているのを
僕が見つける

君がイメージしているデザートと
僕が買ってくるデザートは
いつも少しだけ
すれ違っているから

いつまでも完成しない不完全さが
今夜も
心地よく
地球の片隅に転がっていて
それは
君のでもない
僕のでもない
だれかの「ほ」だったりする

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?