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『ザリガニの鳴くところ』社会問題と自然描写を取り入れたアメリカのミステリー小説

ディーリア・オーエンズ著、友廣純訳。

動物学者でノンフィクションの出版もしている著者が、69歳で出版した初の小説。2018年にアメリカで発表され、ベストセラーになった。日本で「2021年 本屋大賞 翻訳小説部門 第1位」。

ノース・カロライナ州の湿地で、暴力的な父親と、優しい母親、きょうだいたちと暮らしていた少女カイア。1952年に母親が家を出ていき、6歳のときにすべての家族に見捨てられ、一人、粗末な家に残される。
カイアは、町の人々にさげすまれながら、必死に生き残ろうとする。14歳のときに、兄の友達だった4歳くらい年上の少年テイトが、文字の読み方や数え方を教えてくれ、すぐに難解な本も読めるようになって、生物学などを独学する。テイトと恋仲になるが、テイトは大学に進学後、カイアとの約束を果たさず、会いに来なくなる。20歳を過ぎたカイアは、2歳くらい年上の町の比較的裕福な青年チェイスと知り合う。

カイアとチェイスが知り合ってから約4年後、彼が湿地で死体となって発見されるところから、物語は始まる。その後、「過去」と「現在」がほぼ交互に語られていく。チェイス殺人の容疑をかけられたカイアは――。

構成がうまく、一気読みできるが、結論は「やっぱり」という感じか。でも、その「やっぱり」感も、ちょうどよく表現されていたのかも。

当時まだ「カラード」として表立って差別されていた黒人が、「ホワイト・トラッシュ(貧乏白人)」(trashは「ごみ」の意)として見下されていたカイアを手助けする設定には、白人側からのどこか甘いロマン主義的な期待のようなものを感じなくもない。

カイアの両親は若い頃は裕福で美形だったとされ、本人も、顔も体形も美人にスタイルよく成長する。さらに、文字を習ったらすぐに専門書まで読めるようになり、湿地の環境や生物についての本を出版するまでになる。ややご都合主義的な感じもするか?(貝や魚を採ったりして暮らし、石けんは使うようだが、彼女の「匂い」に関する記述が一切なかった[と思う]ことも、自然が豊かに細部まで描写されていたのとは対照的だ)

愛も与え、得つつ、「強く生き抜いた」ということではあるのだが、すごい、よかった、というよりは、過酷過ぎる・・・。だが現実にこうした状況は(現代でも)多くあるだろう。


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