見出し画像

映画『ファヒム パリが見た奇跡』バングラデシュから難民としてフランスに渡りチェスのチャンピオンになった少年の実話

2019年フランス、2020年日本公開。キャッツコピーは「その一手に希望を乗せて」。

実話を基にした物語

2000年生まれのバングラデシュ出身でフランスに移民した実在する少年ファヒム・モハンマドが体験した出来事を基に映画化した作品。映画の舞台は2011年から2012年のフランス(冒頭のみバングラデシュのダッカ)。ファヒムのことを描いた本“Un roi clandestine”を原作としているらしい。

父親の政治的な問題と、ファヒムがチェスの国内チャンピオンとして有名になったことから、身に危険が及び、後から家族を呼び寄せるつもりで、父親はファヒムを連れてフランスのパリに渡航する。

しかし仕事が見つからず路上で過ごしていたところを赤十字の職員に保護され、難民センターで過ごしながら、難民申請をすることに。ファヒムはフランス語を覚え、かつての世界チャンピオンにチェスを習えることになる。

怖そうな先生だったが、次第に信頼関係を築き、チェスのクラブに通うほかの子どもたちとも仲良くなるファヒム。だが滞在許可証は得られず、父親は国外退去を宣告される。

父親が出国せずに身を隠す中、ファヒムたちはマルセイユで開催されるフランス国内チャンピオンが決まる大会に出場する。12歳以下の部で闘うファヒムが優勝すれば、滞在許可が下りるのか?

という物語。

俳優たちも演出もかなり魅力的

緊張感あふれるテーマを扱いながら、エンターテインメントとしてとても見やすい作品に仕上がっている。

「バングラデシュっぽい」音楽が少し使われているのはフランス人がイメージするであろうエキゾチックなアジアという雰囲気でややステレオタイプ的だが、ファヒムと父親を迎える人々の戸惑いと優しさ、そして一部の人々の理不尽さが真摯に温かいまなざしで描かれている。

難民申請の通訳者を通して描かれたバングラデシュとインドの複雑な関係も印象に残った。

ファヒムを演じた2003年生まれのアサド・アーメッドは、本作のキャスティングのわずか3カ月前にバングラデシュから渡仏したという。当初は実際にフランス語が話せず、自身がフランスになじんでいく過程が役作りに資したらしい。新人俳優に使われる手あかの付いた言葉、「みずみずしい」が本当にぴったり当てはまる演技だ。

ファヒムのチェスの先生であるシルヴァン・シャルパンティエを演じるのは、フランスが誇る名俳優ジェラール・ドパルデュー。1948年生まれということはもう70歳を過ぎている!しかし健在であるし、やはり名演。役ではファヒムのことを知ろうとバングラディシュの問題に関する本を読み、実は子どもたちを誇りに思っているなど、いい人らしさが出ている。実在のファヒムの先生は、すでに52歳の若さで亡くなったそうだが・・・。

ほかの有名無名の俳優たちもみんな素晴らしい。

チェスのクラブを支えるマチルドにシルヴァンは引かれており、どぎまぎする。こうしたサイドストーリーも本作の魅力の一つだ。マチルドを演じる俳優に見覚えがあると思ったら、『アメリ』で、アメリが働くカフェで宝くじを売る女性を演じていた人だと気付いた。『アメリ』は2001年の作品だから、20年近くたった姿なのか!

ファヒムの父親ヌラを演じた俳優もとてもチャーミング。

ちょっと変わった雰囲気を漂わせているファヒムのチェスの仲間たちもよい。それぞれ、顔や癖に少し目立つところがあったり、太めだったりする。1人はおそらくベトナム系か?ファヒムといい感じになる大きな眼鏡を掛けた女の子がかわいい。

この女の子(Sarah Touffic Othman-Schmitt)と、背の高い男の子(Pierre Gommé)、そしてファヒムのライバルとなる別のクラブに通う男の子(Axel Keravec)を演じた俳優たちは、検索したら多少情報が出てきたので、ほかの子たちと比べると出演作が結構あるのかもしれない。

ライバルの男の子はファヒムに対して、簡単な言葉について「このフランス語わかるか?」などと言って差別的な態度を取るし、その師匠でシルヴァンのかつてのライバルもかなり嫌な感じだ。でも、男の子が礼儀をわきまえない(ファヒムも地方大会でそういうところはあったが)のに対して、シルヴァンとライバルは実は敬意を持った間柄らしい(?)。

実在のファヒムや移民・難民の現状

実在のファヒムは現在20歳くらいで、映画の日本公式サイトによると「(2019年に)バカロレア(高校卒業試験)に合格して、商業学校に入学しました。資産管理か国有財産の管理の仕事をしたいです」と述べているとのこと(どんな仕事なのだろう?)。家族とともに滞在許可は得ているものの、フランス国籍取得にはまだ道のりがあるという。

並々ならぬ才能がある子どもとその家族が祖国よりは安全に過ごせる国に受け入れられることはもちろん素晴らしいが、ほかにも(フランスにとって利益となる)才能があろうとなかろうと、難民として助けを求めて拒否される多くの人々がいる。この映画はほぼハッピーエンドだが、その現実も忘れてはならない。

ファヒム役のアサド少年とドパルデュー、チェス仲間の子どもたちの一部が映画の宣伝のためにフランスのテレビ番組に出演したらしい映像を見つけた。2019年10月のもので、約24分。フランス語はほんのちょこっとしかわからなかったが、全部見た。実在のファヒムとその先生の映像や、映画で描かれている、マチルドがラジオ番組(フランスの公共放送「France Inter」)でフランスの首相にフランスでチャンピオンになった難民の少年の父親を国外退去にしないでと訴えたときの実際の映像も流れていた。

こちらは実在のファヒムさんのインタビュー(日本語)。チェスのプロになるつもりはないそうですが、幸せとのこと。最初にフランスの全国大会で優勝したときの写真も掲載されています。

作品情報

原題:Fahim

監督:ピエール=フランソワ・マルタン=ラヴァル

出演

ファヒム・モハンマド:アサド・アーメッド
Fahim Mohammad: Assad AHMED

シルヴァン・シャルパンティエ:ジェラール・ドパルデュー
Sylvain Charpentier: Gérard Depardieu

マチルド:イザベル・ナンティ
Mathilde: Isabelle Nanty

Nura(ヌラ)=ファヒムの父:Mizanur Rahaman

Luna: Sarah Touffic Othman-Schmitt
Louis: Victor Herroux
Max: Tiago Toubi
Alex: Alexandre Naud
Eliot: Pierre Gommé
Dufard: Axel Keravec
Fressin: Didier Flamand
Peroni: Pierre-François Martin-Laval
Mahamuda: Sabrina Uddin
Soeur Fahim: Mougdo Mishti Das
Grand-mère Fahim (as Tapati Munshi): Tapati Munsi Tapati Munsi


この記事が気に入ったら、サポートをしてみませんか?
気軽にクリエイターの支援と、記事のオススメができます!
Wow! Thanks!
3
舞踊(コンテンポラリーダンス、バレエ、コミュニティダンスなど)/文学(小説、英語小説・洋書)/美術(コンテンポラリーアート、西洋美術)/映画/演劇/旅行/語学(英語、フランス語、中国語) ■ダンス評.com:https://dance-review.amebaownd.com/

こちらでもピックアップされています

映画レビュー
映画レビュー
  • 18本

新作映画などを紹介します。海外作品、特にヨーロッパのものが多め。

コメントを投稿するには、 ログイン または 会員登録 をする必要があります。