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耽美主義はどう生まれたか?ホイッスラーとラファエル前派:英国コートルードの美術史講座【4日目】

「耽美主義」は英語でどう言う?

イギリス・ロンドンのコートルード美術館・研究所のサマーコースのオンライン講座を受講。

4日目のレクチャー動画は次の2本でした。

Lecture 7: Art Around 1868: The Birth of Aestheticism
Lecture 8: Living the life aesthetic: Art, fashion and the aesthetic interior

Aestheticismは日本語で「耽美主義」などと訳されます。aestheticは形容詞で「美的な、美学の」。両方ともやや発音しづらい単語です。

耽美主義とは、芸術は物語や思想信条を伝えるのではなく美的な見た目の形式を追求するものとする立場です。

「耽美主義の誕生」についてのレクチャー

ラファエル前派は宗教(キリスト教)や文学を主題とすることも多くあり、その中に同時代の現実を取り込むというrealistic(現実的)な特徴もありましたが、1850年代にラファエル前派の画家であるジョン・エヴァレット・ミレイやダンテ・ガブリエル・ロセッティが描いた絵には、耽美主義の萌芽が見いだされます。

また、1860年代にはホイッスラーが「The White Girl (Symphony in White, No. 1)」を発表し、批評家に批判されて反論するなど、フランスで提唱されていた「art for art's sake(芸術のための芸術)」という主義が台頭してきました。(彼はフランスで美術教育を受けています)

ホイッスラーは、白い服の少女はただ白い服の少女であり、その裏に意味があるなどと勘ぐってほしくないというようなことを言い、また絵の題名に音楽用語を使っているように、音楽を聞くときと同じように絵を見るときもそこに描かれているものをそのまま受け取ってほしいと考えていました。

詩人で批評家のスウィンバーンはダンテ・ガブリエル・ロセッティとオックスフォード大学で出会い、親しくなります。スウィンバーンはutility(実用性、有用性)とprofit(利益)だけの芸術に反対し、耽美主義の実践者として芸術形式が多様なアーティストを挙げます。耽美主義は、画家など自身が主張したというよりも、批評家たちが生み出した側面が強かったのです。

耽美主義の画家としては、ロセッティのほか、ジョージ・フレデリック・ワッツやアルバート・ムーアもいます。耽美主義で描かれる女性像に見られる美しさには、sensual beauty(官能的な美)とsoul beauty(精神の美)がありました。同じ耽美主義でも、前者は感覚的なもの(senses)、後者は純粋なもの(purity)に訴え掛けます。

耽美主義ではファム・ファタル(男の人生を狂わせる魔性の女)も重要な概念です。また、耽美主義は当時からfeminine(女性的)と見なされることが多かったそうです。

ホイッスラーと耽美主義、ピーコック・ルーム

前述のように、ホイッスラーは耽美主義の代表的な画家の一人です。彼は美術について語った言葉も重要で、批評家のラスキンと論争もしています。「Mr Whistler's Ten O'Clock」という有名な講義では、絵画は題材や思想が大事なのではなくformやcolour(形や色)が大事なのだと述べました。

耽美主義とジャポニスムの室内装飾として知られる「ピーコック・ルーム(孔雀の間)」は、ホイッスラーのパトロンだったレイランドの食堂として設計されたものです。現在はアメリカ・ワシントンのフリーア美術館に移設されています。

ピーコック・ルームにはホイッスラーの絵「Rose and Silver: The Princess from the Land of Porcelain(磁器の国の姫君)」が飾られています。ジャポニスムが濃厚に表れていて、日本の浮世絵からも影響を受けています。女性が来ているシルクの衣服、紙の扇子、衝立、敷物、そして女性の足元が服で隠れて見えないことなどから、軽さ、浮遊感を思わせます。

ディスカッション・トピックは?

事前に提示されたディスカッション・トピックは次のものです。

• What roles do narrative and symbolism play in Aesthetic art?
• How might the concept of ‘art for art’s sake’ affect the status of the porgessional artist?
• How can we link Aestheticism to ideas around femininity?

・耽美主義の美術における物語と象徴主義の役割は?
・「芸術のための芸術」という考え方が進歩的な芸術家の立場に与え得る影響とは?(※porgessionalという単語はないと思うので、progressionalと捉えたが間違っているかも)
・耽美主義と女性的という考え方をどう結び付けられるか?

耽美主義とジャポニスム、オリエンタリズム

今日のZoomで行われたディスカッション・セッションでは、チャットで質問をしました。

ホイッスラーの話で日本の浮世絵などジャポニスムの話が出ていて、浮世絵の構図が当時の西洋美術に取り入れられたことと、耽美主義が「形式」重視だったことには確か関係があったはずと思い、その点について詳細を教えてもらえるか聞きました。

そうしたら、やはり、ホイッスラーは浮世絵の平面性といった構図や視点の形式に関心があり、アルバート・ムーアの場合は浮世絵や陶磁器を描くなど題材として関心を持っていたという回答でした。

オリエンタリズムのことも聞いたところ、ホルマン・ハントなどは実際に中東に行き、その旅を基に絵を描いているし、ポスト・コロニアル(脱植民地主義的)な観点としても重要だが、意外と耽美主義との関係の研究は多くはないのだとか。

耽美主義はなぜ「女性的」とされるのか?

耽美主義が'feminine' movement(「女性的」な運動)と見なされるのはなぜか?というトピックも出ました。

これといった答えは出なかったようですが、男性アーティストたちが「美しさ」の表現として、ただ美しいものとして存在する女性を多く描いたからだろうか?また、思想やメッセージを伝えない、という点も、「思考=男性」「情感=女性」といったステレオタイプ的発想で、耽美主義の美術が女性的とされた要因なのだろうか?などと勝手に考えました。

女性にとってゆったりとした動きやすい服装が登場し、それが耽美主義の絵画で描かれたというファッションの話題も出ました。それがギリシャ風であるとか、そういう話です。

ピーコック・ルームが題材のコンテンポラリーアート

最後に、アメリカのコンテンポラリーアーティスト、ダレン・ウォーターソンがホイッスラーのピーコック・ルームを独自の解釈で再現して作品とした「Peacock Room REMIX」が紹介されました。

「磁器の国の姫君」の顔が損傷していたり、室内に置かれているほかのものも崩れていたり朽ちかけていたりする作品です。

ところで、読み終わっていないと書いたホイッスラーの事前資料は、結局読み終わっていないままです。これから読むか・・・。

▼続く

▼コートルード美術館・研究所の講座のこれまでの受講体験記


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