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初めて口説いたのは運行休止の夜だった。【吊り橋効果】



【大雨の日の出来事】


その日僕は大雨のため会社の仕事を終えるとそのまま直帰をしていた。

一緒に同行している先輩が運転する車で駅まで送ってもらい帰宅することになった。

僕は早く帰れることに喜びを感じながらも、満員電車に乗り込んだ。座れることなんて滅多にない。当然今日も立ちっぱなしだろうと疲れてため息をつく。地方都市だが帰宅ラッシュの時間帯のため、僕が乗り込む時にはもう満席なのだ。

職場から最寄り駅までは約1時間。バスに乗り換えて30分ほどの距離があった。電車とバスに乗るため、かなりの通勤時間である。

【運行休止で焦るヤマサン】


電車が出発し始めて30分ほど経った。駅の区間でいえばちょうど中間地点だ。
その日は中間地点の駅まで行く電車に乗っていたため、乗り換えをして帰るつもりだった。しかし雨は勢いよく降り続ける。
駅構内にはアナウンスが何度も流れ「本日大雨のため運行休止となります」

帰宅中のヤマサン

おいおい嘘だろ!と心の中で焦りを感じながら、周りを見渡すと多くの人が同じような状態になっていた。駅員さんに「どうなっているんだ⁉」と聞いている人がいた。最初こそ多くの人が駅構内で待機をしていたが、携帯で誰かに電話をする人、諦めてタクシーで帰る人、どうしようもなく残り続ける人がいた。

僕は親に電話をしてから助けが来るのを待つことにした。タクシーで帰ろうにも多くの人が利用しており、距離的にも遠く現実的ではなかったので辞めた。

途方に暮れながらもずっと立っているのも疲れるので、仕事で使うウエスを敷いて座っていた。もちろんある程度綺麗な状態のものを使用した。

【相手は同じ地元出身の大学生だった】


しばらくLINEを開いたりして友人たちと談笑したり、チャットアプリで多くの女性と同時進行で連絡をしたりしていた。
大雨で電車が動かない。家に帰れない。こんな状況だからとにかく人と連絡を取り合って安心したかったんだと思う。
友人たちやチャットアプリのやり取りも落ち着いた頃、周囲を見渡すとだいぶ人数も減ってきていた。

「もう夜遅いもんな」と思いながら、ふと隣に立っていた女性が気になっていた。その女性は立ちながら本を読んでいた。ずっと立っていて疲れないのだろうか?
僕は声をかけてみた。
「ずっと立っていて辛くないか?」と聞き「辛いです」と笑いながら相手が答える。
運行休止して大変だよね。どんな本を読んでいるの?と聞くとアウトサイダーという本を読んでいるらしい。まずは急に話しかけたことを謝ると「暇だったからいいですよ」と頷いてくれた。

本を読む女性

しばらく雑談をする。
「今は学生さん?」から話が始まり、聞いてみると大学2年生で19歳の女性であった。まさか未成年だったとは…
捕まらないだろうか?なんて不安も一瞬よぎったが、当時22歳だったためまだ大丈夫だろうと軽く考えていた。
電車だとどこで降りる予定だったの?と聞くとなんと同じ出身地だったため、僕も同じだよと笑いながら言う。何となく運命の出会いっぽさを感じていた。

自分の仕事の話など色々と話したうえで「学生生活楽しい?」なんてありきたりな会話を交わしながら仲を深めていった。「楽しくないよ~」なんて言ってたもんだから、理由を聞いてみた。勉強も忙しいし、サークルにも入っていない。彼氏も居ない等のお話を聞いていた。「マッチングアプリやったりしてる?」なんて会話もした。

僕の職場は男性しかいないし社会人になってから異性との出会いが無いからマッチングアプリやっているんだ!と自虐交じりに笑いながら話した。

僕は話していて楽しかったので「もし良ければ連絡先交換する?」と相手に聞いてみた。「インスタならいいですよ。」
意外な返事だったが、嬉しかった。なんかナンパっぽいですね。と僕は冗談交じりに笑った。相手も笑っていた。
趣味でインスタに写真加工したイラストを載せていたので、そういった話をしている内に駅員さんが駅構内にいる人たちに声掛けをしていた。

※実際はポケットに手を突っ込んではない


「今日は大雨で駅構内は冷えますし、今待機している電車を開けますのでそちらで待機してください」
そういって残っている人たちに移動を促していた。

残っていた人達に続くように僕たちも電車の中に移動した。
2人お互いに身を寄せ合いながら会話を重ねる。「外寒いね」「そうですね…」

口数も少なくなってきた頃
彼女の携帯に連絡が届いた。どうやら迎えが来たようだ。
彼女が無事に帰れることになって良かった。
安堵のため息をつくと同時に迎えはいつ来るだろうか?と1人不安になっていたが、別れてからすぐに迎えが来たので事なきを得た。

【吊り橋効果は実在する】


本来出会うはずの無い男女が電車の運行休止という。吊り橋にいるような不安な状態での出会いをしたため、相手と仲を深めることが出来たんだと思います。

〜後日談〜
翌日になり、彼女にインスタで連絡をする。あの後無事に自宅に帰れたよ!とそこからDMでのやり取りが始まる。数ヶ月間の連絡を交わしたが、「吊り橋効果」という一夜限りの魔法は解け、結果としてもう一度会うことは叶わなかったのだ…

以上となります!
ここまで読んでいただきありがとうございます!

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