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【編集後記】『鳥羽周作のとっておきごはん』『抹茶のおやつ100』

2022年最終日、どうしてもこれだけは書いて終わらせたい!「今年はこの2冊に捧げた」といっても過言ではないレシピ本たちの編集後記。

牛かたまり肉を室温にもう2時間以上おきながらまとめ、その全面をフライパンで焼いてアルミ箔で包んではまとめ、さあ、ラストスパートです。1時間後、それがローストビーフに変わるまでには、紅白歌合戦を横目に書き上げたいと思います。さあ、はじまりはじまり。

上半期▶︎『食べたいから作る!鳥羽周作のとっておきごはん』

代々木上原のミシュランレストラン「sio」の鳥羽周作シェフの第2弾レシピ本『食べたいから作る!鳥羽周作のとっておきごはん』(小学館)。制作にお声がけていただいたのは、2021年の秋でした。それから今年の春に向けて撮影と取材をし、めでたく6月に発売になりました。

鳥羽さんはもちろん、スタッフ全員がはじめまして。しかも、ほぼ同年代の現場。こんなに人数が多いチームも初めて! はじめましてづくしの現場に誘ってくれたのは、小学館の佐々木礼子さん。

このチームはプロフェッショナルがそれぞれの仕事を全うするスタイル。泣く子も黙るおいしい料理を生み出す鳥羽さんを筆頭に、アートディレクターの吉良進太郎さん、カメラマンの森恒河さん、フードスタイリストの勝又友起子さんのほか、服のスタイリストの池田清志さんまで。sioのスタッフさんたち、アシスタントのみなさんも集結して、ふだんレシピの業界では出会わない人たちと、わいのわいのと「レシピ」というテーマにのぞんだ現場は最高に刺激的でした。今となってはものすごく懐かしい。

お花見帰りみたいな写真が出てきました。

わたしの担当はライティング。いつもは編集も含めて請け負うことが多いのですが、今回はクリエイティブのことを頭から抜いて、テキストだけでどうやってわかりやすくできるか? それだけに集中することができました。

校正さんと一緒に顔を合わせて、校正したのも本当に勉強になりました。編集の礼子さんと校正の荒川照実さんとわたし、ひとつひとつ、伝わりやすい表現を模索しながら。校正さんという仕事は、本当に専門職だと思います。またこの方法で校正がしたい。

ある日、見本誌が届いてじーっと眺めていると、着信あり。なんと、鳥羽さんからでした。

まさにこの写メを撮影した直後。

「ながみねさん、見本誌届きました? どう思います? すごくいいですよね?」開口いちばん、まるでまくしたてるようにくれた言葉にすごくほっとしたのを覚えています。

鳥羽さんとは、本を制作しながら「レシピの余白」という話をしていて。再現性は高く、かつ自由度を担保。料理に正解はないからこそ、鳥羽さんが本当にこだわりたいことはそれが伝わるように、そうじゃないことと切り分ける。限られたスペースだけれど、アレンジもできるだけ包み隠さず。ばくっと投げているようで、実はとっても親切。わたしが感じた「鳥羽さんらしさ」がコメントから伝わるように、その声とともに脳内で再生されるように、テープ起こしを何度も聞きながらまとめました。

もちろん、制作中から何度も読んでもらって推敲してもらっていましたが、本ができて改めて電話を一本くれる心づかい、なによりも真っ先にわたしがこだわったポイントにお礼をくださったことに驚きました。

たとえ何度体験したとて、一生慣れることはないだろう本づくり。必死になればなるほど、刷り上がった本を見るのがたのしみだけどこわい。誤字脱字を見つけるのもいやだし、「ああ、こうすればよかったな」と思うのもいやでしばらく読まなかったりするんですが、この本は発売前にしっかり読み返すことができたのも、わたしにとっては新しい景色でした。そして、本そのものもわくわくする仕上がり。編集の礼子さんだから組めた座組みと企画だったと思います。

1冊目『やさしいレシピのおすそわけ #おうちでsio 』では自分以外の誰かのために作る料理を、2冊目では他の誰でもない「自分」が食べたいから作る料理を。大きな話に聞こえるかもしれないけれど、世界がもっとやさしさで溢れるためには、どちらもものすごく大事な感覚だと思っています。鳥羽さんが今後なにを発信されていくのか、とても楽しみです。また、ご一緒できますように。

下半期▶︎『抹茶のおやつ100』

一方、とにかくまっすぐに実直に取り組んだのが、9月に発売になった『抹茶のおやつ100』。これまで学んできた料理編集の原点に立ち返ってみた本です。構成は決して奇をてらうことなく、ベタでもいいじゃない「やっぱり、これだよね!」を存分に詰め込みました。

著者は、今まで作ったお菓子の本は40冊以上で、アニメ『キラキラ☆プリキュアアラモード』のスイーツ監修・制作も担当されていた福田淳子先生です。

本当にかわいい本なんです。はっと目につく色み、手ざわり、重み。書店員さんからの評判も上々というから、またうれしい。今からamazonのリンクを貼りますが、まずはぜひ、書店で手に取ってほしい!

「世の中にありふれていないテーマで、でも本になったらうれしくて、なにより福田先生の大好きなものを本にしましょう!」

この3つのポイントから誕生したこの本は、少々マニアックなのかもしれませんが、福田先生のうそいつわりない抹茶愛がぎゅっと詰まった一冊となりました。なんといっても抹茶味のレシピだけで100以上のってるんですから。それなのに置きにいってるレシピはひとつもない。本の細部まで福田淳子クオリティを貫き通しています。

片栗粉でつくる「ぷるぷる抹茶ミルク餅」とか
見てるだけで幸せになるドーナッツ(わたしだけ?)
これは最後まで表紙候補だったトライフル


作戦会議をしたあの日から、本当に駆け抜けてきたなぁと思います。

企画が通っていない段階で内容のご相談するのは、フリーの編集者としてはひとつのかけです。出版をお約束ができないからこそ、著者さんにぞっこんになれなければ、進めていくうちに綻びが出てきます。

そのぞっこんポイントというのが、福田先生の場合は「情熱」。お菓子愛もすごいけれど、本づくりへの解像度がものすごく高いんです。レシピへの情熱の嵐。その情熱に引っ張られるわたしを大きく受け止めてくれたのが、光文社の北川編子さんでした。

実は、鳥羽さんの本の編集者・礼子さんとわたしを繋いでくれたのも北川さんだったりするのです。わたしにとっては、ふたりとも大変信頼できる編集者さん。出版社を超え、こういう関係を築けているのも、すごくうれしい。

「やれることはすべてやろう」と、まずは本で使用する抹茶を決めるべく、ブラインドチェックから始めました。福田先生が集めた50以上の抹茶を二人で同時に開封し、同じタイミングで抹茶オレに仕上げ、これまた同じタイミングで味見をする。さらに同じ分量で作られた焼き菓子やひんやりスイーツを、今度はわたしだけでなく、スタッフみんなで食べて。スタッフの家族まで食べて。

「おいしい抹茶」を探すテストではなく、あくまでも「抹茶のおやつを作るためのおいしい抹茶」を見つけ出すため。なかなか骨が折れる果てしない旅でした(研究結果は、福田先生のYoutubeチャンネルで公開されているので、お時間ある方はぜひ!)。

構成はベーシックな代わりに、写真はカメラマンの田村昌裕さん、スタイリストの来住昌美さんにおまかせして、レトロでかわいくしてもらいました。デザイナーの高橋朱里さんから緑色のカバーデザインが上がってきたときは、自然とPCの前で拍手してしまった。ブラボー!(長友かよ)

抹茶がテーマだと和テイストになることが多いのですが、今回の本はそのイメージよりももっと自由に。「かわいい」から入ってもいいから、日本が誇る素晴らしい素材・抹茶をもっと身近に感じてもらえるように。

この本が印刷所で刷られている期間、わたしはカナダへ旅に出ていました。市場調査も兼ねて現地でもたくさんの抹茶ドリンクを飲んできました。あるカフェでwi-fiパスワードが"MATCHA"だったときは「世界がわたしと抹茶を呼んでいる」と思わずにはいられませんでした(笑)いつか英訳版と一緒に世界を回りたい〜 英語学習にも力が入ったのも今年の幸運なできごとでした。

福田先生のYouTubeは本当におすすめ。ショートケーキの回では、なんと!初めて動画撮影にチャレンジさせてもらいました。編集は一切せず、カメラマンをするという新体験。「へー!」とか「ほー!」とか言いながらの撮影。気になるところを質問したり、たぶん取材中はいつもこんな感じです。ちょっとはずかしいけれど…

前編ではスポンジケーキのつくりかたを、中編では基本のデコレーションを、後編ではラフなデコレーションを。クリスマス仕様ですが、抹茶味のクリームは四六時中おいしいですから!よかったら!

今年はほかにも何冊か担当しましたが、この2冊は2022年を思い出した時に特に真っ先に頭に浮かぶ本です。なんていうのでしょうか、完全燃焼だから。

レシピ本の仕事が多いわたしですが、最近は世の中になにをお届けすべきなのか、そもそも自分は何をいいと思っているのか? そこすらも、わからなくなっていたのですよね。でも、この2冊を振り返って思いました。「燃え尽きた」に近い感覚だったのかな、と。

来年以降、書籍の予定はからっぽですが、その代わり、うだうだと考えたり、地面をいじいじしながらしゃがみこんでため込んでいた力が、アイディアが、ようやく戻ってきた感じがします。からにするってわるくないな、振り返るって大事だな。

とにもかくにも、この2冊がどこか誰かのワクワクに繋がっていたら、それ以上にうれしいことはありません。読者のみなさん、お世話になったみなさん、ありがとうございました。来年もたくさんいい仕事ができますように。

ローストビーフを食べるぞー! もちろん鳥羽さんのレシピ。本をお持ちのみなさーん、102ページですよー!
お見知りおき、よろしくお願いします。


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