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今日が水平線に落ちる頃

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散文、詩、ドローイングなど
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2021年1月の記事一覧

ショートショート「可笑しな夢」

早く寝ると当たり前だけど早起きしすぎてしまう。

今日も変な夢を見たのだけれど、とっさにメモを取りたいクセがぬけず、それはそれでよいのだけれど、タイピングの変換の間に私の細胞から鈴のような音を出してそれらははじけていってしまう。それらは独立して分裂し成長してあらゆるものの中に溶けていってしまう。それらは、くるんと丸まって膝の上にポトンと小さく落ちた巾着袋のようにまとまってしまった。

袋の中には何

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ペット ロス

ずいぶんペットというと違和感を感じてしまうのは偽善者の要素が人にはあるからだろうか。

幼少期にはもう犬がいた。その頃家族はプレハブ小屋に住んでいた。奥行きは広く、離れに雀荘を父がまたプレハブ小屋を建てて朝から晩まで仲間と賭け麻雀をして呑んだくれて母親がボウルいっぱいの塩水を飲ませて復活したとか、作業場の中に住居があったのも子供にとっては楽しかった。父は職人だ。おそらく自分が知る中で一番の腕で自慢

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ショートショート 『穴』

ショートショート 『穴』

何だか最近 完全になると円に成るんじゃないかと思いついた。

いや、多分生まれた頃は完全でそこからどんどん欠けていくんじゃなかろうか。そんな気がしたのは人の言葉が吹き出しに入っているようで、カサカサと歩いている気がするのを見てしまったことによる。

影は吹き出しをメモを散らし落としていくように人々の思考を丸い付箋のように貼り付けている。

完全になりたいと、私は思った。この命がけで生きてきた絵画に

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ショートショート 『梟の砦』

ショートショート 『梟の砦』

今日という日が、どんなものであっても、食べ物を与えるため生き抜いて帰宅しなければならない。

出来るならば、正直に生きたいものだ。しかしそれは自分の心の中でだけ叶う儚いもののようである。
あたりは、目線という矢が飛んで暗闇にも糸が張り巡らされ、毎日が緊迫している。

何かの、ふとした自分の無防備さがきっかけで目の前を急に暗幕が閉じることがある。そんな時私は言葉の大海に飛び込んで浸水してしまうんだ。

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春のイモムシ

春のイモムシ

イモムシが好きだ。

何度も書いたり叫んだりしている気がする。ずっと前から好きだったわけではない。昨年の夏に、のそのそと桜の樹から土へ降りようとしているスズメガの大きな幼虫を手に乗せた時、身体の細胞が全身で喜んでいた。

緑色の身体はクリームソーダのように穏やかで爽やかで、マットなスベスベ肌はしっとりと暑い夏にひんやりと手に清涼感を感じさせてくれた。

最初、手に乗せてみようと思った時、躊躇がなか

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