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Certificate v.s. Credentials

A, B と来て、今回は C で始まる紛らわしい用語を取り上げます。


はじめに

Web サイトへのログインの文脈でよく見掛ける certificate と credentials とは、どちらも証明・認証に関わる用語ですが、そこにはどのような違いがあるのでしょうか? 今回も語源に遡ることで考察していきたいと思います。

Certificate

アクセス認証の文脈で使われる certificate は通常「証明書」と訳されます。これは何を証明しているのでしょうか?

中英語 (Middle English, ME)

Certificate は中英語においては certificat でした。現代英語との違いは語末の -e のみですね。共時的観点ではこれはいわゆる magic e ですね。綴字にこれが附加されたのは母音の音韻変化によるものなのだろうかと考えてしまう自分に気づき、英語沼の怖さに震えています。

古フランス語 (Old French, OF) - 中世ラテン語 (Medieval Latin, ML)

古フランス語も certificat なので、古フランス語からの借用だとするとそのまま受容したことになりますね。一方、中世ラテン語から直接借用した可能性もあるようで、それは certificātum です。

後期ラテン語 (Late Latin, LL)

そして、さらに certificāre (to make certain) に遡れるようです。何かを明らかに・確かに・疑いないようにするといったイメージですかね。
なお、certificāre は certus (fixed, sure) + facere (to make, do) の語根から成り立っているようです。そして certus は certain の語源でもあります。
一方、facere はさらに印欧祖語の語根 *dhe- (to set, put) にまで遡れるようです。
結局 to make certain と捉えてよさそうですね。

余談 (*dhe-)

印欧祖語の語根 *dhe- は原義も一般性が高いせいかかなり幅広い単語に繋がっているようです。技術文書でよく見掛ける単語だけ拾っても affect, amplify, artifact, benefit, defect, difficulty, effect, efficient, facade, facilitate, fact, factor, factory, feasible, feature, hypothesis, justify, modify, notify, office, perfect, profit, qualify, satisfy, sufficient, surface, synthesis, theme, verify と出るわ出るわ。これを追うとさすがに拡がり過ぎるので、ここでは深追いしません。

Credentials

Certificate が「証明書」であるのに対して Credentials は「認証情報」と訳されることが多いように思います。何で複数形なんだとか、いろいろ疑問は湧きますが、どこまで掘り下げられるでしょうか。

中英語 (Middle English, ME)

Credentials は元々 credential という形容詞から派生したもので、名詞として「信任状」を意味するときには複数形として使われているのですね。なぜ複数形なのかの説明がないところが気になりますが。
そして、元の credential は中英語では credencial でした。この綴りを見るとフランス語味を感じるのですが、果たして。

中世ラテン語 (Medieval Latin, ML)

フランス語経由かと思いきや、中世ラテン語 crēdentiālis からの借用なのですね。でもラテン語では <ci> ではなく <ti> なので、そこが気になります。もしかして credence の影響ですかね;こちらは古フランス語 (crédence) 経由のようなので。
そして crēdentia (belief)、さらに crēdere (to believe, trust) に繋がっているようです。信じること・信念・信頼といったイメージから信任状の意味が出てくることは想像に難くありません。
また、この語源は credo にも共通しているようです。

印欧祖語 (Indo-European, IE)

Crēdere の語源について、ここからは credo の記載を追います。Crēdere は KDEE によると印欧祖語の *kred-dhə- (to place trust) に遡れるようです。ただし、Etymonline では *kerd-dhe- となっていて、表記揺れなのかどちらかの誤記なのかが気になります。
なお、Etymonline によるとサンスクリットの śrad-dhā- (faith, confidence, devotion) も同根とのこと。
そして、KDEE によると、さらに *kerd- (heart) + *dhē-, * dhə- (to place, do) に分解できるようです。ちなみに、ここでの do は置くという古い意味を指しているようです。ここでは KDEE も *kerd になっていますね。ということは *kred が誤記なのか、それとも *kerd から *kred への変化があったのか、やっぱり気になります。
また、certificate で出て来た *dhe- とここで出て来た *dhē-, * dhə- が同じものなのかも気になります。どうも KDEE と Etymonline とで表記が異なったりすることもあるようなので、そういったときに頼れる情報源がないのは困りますね。
(印欧祖語の再建とその表記方法とについて学ばないといけないのか……)
いずれにしても、何かに信頼を置くことのイメージは保たれているようです。「心臓を捧げよ!」と言えるほど信頼している何かということでしょうか!? (アニメの見過ぎ)

追記

mozhi gengo さんから、*kred は *kerd の斜格ではないかとのご指摘をいただきました。なるほど、格の違いとは思い至りませんでした。サンスクリットにも造詣の深い mozhi gengo さんに格の違い(←)を見せつけられましたね。

まとめ

Certificate (証明書) が何かを明らかにし、疑いの余地をなくすためのものであるのに対して、credentials (認証情報) は信じられる何かを指していると捉えると、とてもわかりやす……くはありませんね。どうしたものか。
イメージとしては certificate は credentials の実体化の一形態であり、
certificate ⊂ credentials
なのですが、もう certificate は単数であり、複数である credentials の一部をなしているとでも覚えますか。いや、全然語源が役に立っていないし!

この記事における参考文献・サイト

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