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『敵は、本能寺にあり!』

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“本能寺の変”には『黒幕』がいた――。 戦国最大のミステリー“本能寺の変”の『真実』と、信長の隠し子が辿る戦乱の世の悲しき運命……。 幾つ屍を越えようとも、歩む道の先には骸の山が… もっと読む
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『敵は、本能寺にあり!』 最終話『革命前夜』

『敵は、本能寺にあり!』 最終話『革命前夜』

「失礼ながら信長様の計略には綻びが多く生じております。比叡山焼き討ち後、次々と敵対勢力を滅ぼし、本願寺や丹波を抑え、天下静謐の礎を築かれました。
そこで武田征伐に於いて信忠様に戦功を立てさせ、親の威光にあやかっている訳ではないと、格の違いを見せつけるおつもりだったのでしょう……。
毛利や義昭が秀吉殿に敗れるのも目前。時間は掛かりましたが、思い描かれていた通りに進んだのでは? しかし思わぬ誤算が。

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『敵は、本能寺にあり!』 第三十三話『本能寺の変』

『敵は、本能寺にあり!』 第三十三話『本能寺の変』

 突如、境内の四方八方から消魂しい銃声が轟く。
 ――!!
「何事じゃ! 敵襲か――」

「いえ、甲賀忍の百雷銃にございます。大量の火縄銃の音を模しておるのです。ん……、煙の回りが速い――、急ぎましょう!!」

「何が起きておる!?」

「話は後で――! 仕掛けた火薬がもうじき爆発します!」
言うが早いか鳳蝶が床の間の地袋を押すと隠し扉が開き、二人は寝そべり転がり込む。狭い隠し部屋の床を捲れば、地

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『敵は、本能寺にあり!』 第三十二話『ときは今あめが下知る……』

『敵は、本能寺にあり!』 第三十二話『ときは今あめが下知る……』

 流れ始めた和やかな空気を劈く様に、「口に出すのも憚られますが――」と、利三が色を正して発する。

「――光秀様に忠告して下さった誠仁親王、さらには正親町天皇が裏で糸を引いておられる事はないでしょうか。昨年の京都御馬揃えでは『天皇への威嚇が過ぎた』と、朝廷が溢したなどの噂も。統括されたのは光秀様。もしやと……」
正気の沙汰とは思えぬ彼の発言を、左馬助は耳に届くか否か程の声で打ち消す。

「京都御馬

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『敵は、本能寺にあり!』 第三十一話『夢幻の蝶』

『敵は、本能寺にあり!』 第三十一話『夢幻の蝶』

「実は……」と言い掛けた伝五に、皆は息を呑み待った。先程から明らかに怪訝しい彼の様子に、誰もが気付いている。

「……帰蝶様から頼まれ、松姫殿を武蔵国の金照庵へと逃がしました。信忠様の側室 寿々様への焦りは感じるものの、戦に於いての恨みなどは露ほども。
ただ……、その、護衛に付いておられるのは、――鳳蝶様にございます」

「何!? 帰蝶様は、その事を御存知なのか……!?」
皆から責められる覚悟をも

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『敵は、本能寺にあり!』 第三十話『冴え昇る月に掛かれる浮雲の』

『敵は、本能寺にあり!』 第三十話『冴え昇る月に掛かれる浮雲の』

 譜代家臣 佐久間――筆頭家老にまで登り詰めた男の零落は、家臣団の心に『明日は我が身』との激しい動揺を誘った。

 彼は光秀や秀吉の献身の裏、天王寺砦の城番という立場にありながら本願寺に対し戦も調略もせず、また信長に報告や相談すらもせず、五年もの時を怠惰に過ごした。
ところが窮地に陥ると縋り付き、信長の蓄積された怒りが爆発。
『苦しい立場になって初めて連絡を寄越し尽力の素振りを見せるのは、甚だ言い

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『敵は、本能寺にあり!』第二十九話『末吹き払へ四方の春風』

『敵は、本能寺にあり!』第二十九話『末吹き払へ四方の春風』

 ―本能寺の変、三ヶ月前―

 伝五、左馬助、利三は光秀に呼ばれ、丹波亀山城を訪れていた――。

「見事な枝垂れ梅。大層雅やかですな」
縁側の左馬助が満面の笑みで、庭に咲き誇る梅の花を見渡す。

「二条新御所は如何でございましたか」
勘の良い伝五は、二条新御所から戻った光秀が直ぐに皆を集めた事に、何となく不穏な空気を感じ取っていた。

「誠仁親王殿下は、信長様について『どのような官でも任ぜられる』

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『敵は、本能寺にあり!』 第二十八話『翳る余徳の眩耀』

『敵は、本能寺にあり!』 第二十八話『翳る余徳の眩耀』

「こちらへ寝返った武田の家臣は、悉く断首せよ! たとえ『先刻、信忠に赦された』と申してもじゃ!」
激しく気霜を吐く信長に従い、後陣の信長軍は英姿颯爽と進む。裏切りを繰り返しかねない立場ある者を、迷いなく斬り伏せながら。

 本陣の信忠らは、疾風の如く進撃――。
勝頼が迎え撃つ新府城の、目前に迫る。
しかし、木曾谷敗退による布陣の乱れを立て直せぬままの新府城では、信忠の勢いに恐れをなした家臣が相次い

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『敵は、本能寺にあり!』 【第一章『蝶鳴く城』】 第一話『疎隔の子』

『敵は、本能寺にあり!』 【第一章『蝶鳴く城』】 第一話『疎隔の子』

 ―1582年―
 褥から起き上がり煙管を燻らせる信長を、光秀は寝そべったまま見上げる。
シャープな顎先から流れる美しい輪郭を微睡みの中で眺め、憧憬の身を案じた。
ふと注がれた切れ長の視線に彼の心臓は跳ね、無垢な想いが口を衝く。

「この先何が起きようと、私を信じてくださりますか……」

「無論」
すぐさま返された言葉に、光秀の迷いは消え去る。

 日成らずして、丹波亀山城に駭きし叫号――。

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『敵は、本能寺にあり!』 第二十七話『死を以て一分を立てる』

『敵は、本能寺にあり!』 第二十七話『死を以て一分を立てる』

 ―1582年―
 信忠は二歳になる嫡男 三法師と、側室 寿々と共に岐阜城で暮らしていた。
帰蝶の弟であり、信忠の側近となった 利治が、娘の寿々を側室入りさせたのは、三法師の養母とする為だ。
三法師の生母は公にされていないが、言わずもがな信玄の娘 松姫である――。

 信忠と松姫は帰蝶の取り計らいにより、信濃の木曾谷にて逢瀬を重ねていた。
しかし両家の対立により、松姫が岐阜城へ輿入れする事は叶わず

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『敵は、本能寺にあり!』 第二十六話『心の温度』

『敵は、本能寺にあり!』 第二十六話『心の温度』

「……いつもの事じゃ。築山殿と信康にいびられては泣きついて帰って来よる。九つで嫁にやったのも良くなかった。それこそ武田の松姫のように、正室預かりの格好を取って手元に置いておく方が賢かったかの」
信長は痛むこめかみ辺りを揉みながら、もう一つ桃に手を出す。

「築山殿は“質素倹約の鬼”のようだと、随分前に帰蝶様より聞いた事がございます」と光秀は回顧。

「徳姫が幼い時分に里帰りした折、帰蝶としゃぼん玉

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『敵は、本能寺にあり!』 第二十五話『一閃と陥穽』

『敵は、本能寺にあり!』 第二十五話『一閃と陥穽』

 ―1579年―
 丹波篠山の八上城は堅固な城構え且つ、“丹波の赤鬼”の黒井城が聳える猪ノ口山よりも、標高の高い山城――。

「裏切り者の波多野に調略戦は不向き。強固な山城を落とすには、兵糧攻めが得策であろう」
光秀は軍兵に城を包囲させ、糧道を断った。

 兵糧が枯渇した城内で雑草や牛馬の死体を食べ籠城を続けるも、一年が経過すると五百人が餓死――。
城から逃げ出す者の顔は蒼く腫れ上がり、化け物のよ

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『敵は、本能寺にあり!』 第二十四話『驍勇無双の艦』

『敵は、本能寺にあり!』 第二十四話『驍勇無双の艦』

 ―1578年―
 雑賀攻めを果たした後も依然として膠着状態にあったが、信長は堺と雑賀の間に佐野砦を築き、雑賀衆の再挙兵に備えた。

 光秀は丹波領の城を次々と落としていく。
しかし、“裏切り者” 波多野の丹波篠山 八上城を攻めている最中も、信長の命により秀吉の援軍に加わるなど、転戦を余儀なくされた。

 また折々、謀反者の処理に駆り出される事も……。摂津の荒木が義昭に寝返った際も対応に当たった。

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『敵は、本能寺にあり!』 第二十三話『消せぬ因縁』

『敵は、本能寺にあり!』 第二十三話『消せぬ因縁』

 妻 煕子の献身的な看護により、光秀は一命を取り留めた。
しかし、末枯れた木の葉舞う杪秋――、今度は 煕子が病に倒れ、流浪時代から力強く支えてくれた愛妻は、天に召された……。

 悲しみに暮れる間も無く、年明けには丹波攻めを再開。藤孝と其の息子 忠興の協力もあり、丹波亀山城を落とし拠点とする。

 時を同じくして、秀吉も播磨と但馬の平定に尽力。姫路城を拠点とし、西国攻めの足掛かりは着々と作られてい

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『敵は、本能寺にあり!』 第二十二話『孫子の兵法』

『敵は、本能寺にあり!』 第二十二話『孫子の兵法』

「クソッ――! 何故波多野は寝返った!」
敗走し坂本城へ入った利三は、歯を軋ませ籠手を投げ捨てる。

「今、調べさせておるが、波多野は信長様の朱印状に偽りの返事をしたのやも知れぬ。元より直正と結託し、丹波の奥深くに敵を誘い込み一気に殲滅する――“赤鬼の策”に乗っておったとしたら……」
心の機微に聡く、観察を重ねる伝五は恐ろしい推論を立て、そして後になり其れが的中していたと分かった。

 ◇

 一

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