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人間の原始の思考から”溶ける”デザインについて考える(1/2)

liloデザイナー 古谷阿土です。
先のnoteでなぜ私が自然に心を惹かれるのか、人と人とのつながりやデザインなどさまざまな側面から考察しました。

今回はそんな自然と、古代の人間の思想からデザインについてより深く考察を進めていきたいと思います。

原始の人と自然との関係性

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引用:https://www.asahi.com/articles/DA3S13099974.html

私が好きな民俗学者の一人に折口信夫という人物がいます。彼は民族学者の立場として、古代に生きていた人間の思想を各地に伝わる祭りや口承から探り、よりピュアな思想に近づくことで現代のさまざまな問題の解決を図ろうとした人物です。
彼の残した説の一つとして、”別化性能”、”類化性能”というものがあり、ここに古代人と現代人の思考体系の違いがとてもわかりやすくまとめられているので紹介します。

①別化性能・・・人とクマを比べたときに、人は冬眠をするがクマはしない。人は2足歩行だが熊は4足歩行。など、2つのものの違った部分を見つけ区別する思考方法。
②類化性能・・・人もクマも魚を獲る、子供を産み育てるなど。人とクマの似ている部分を見つけていく思考方法。

別化性能からは科学的思考が生まれ、この思考方法の獲得により人間は飛躍的に進化していったと考えられます。現代生活に置き換えてみると、非常に資本主義的な思考だと感じます。
一方類化性能は、古代では月を女性に擬えたり、現代ではアニメなどでよくみる擬人化などというように神話や創作のベースとなる思考方法です。類化性能的な感覚は現代でいうと厳密には違いますが、アート思考と似ているなと感じます。

この二つの思考体系のうち、古代の人々は類化性能に長けていたと彼は説きます。
類化性能の切り口から自然を捉えたとき、人間が自然の中に特別な存在として居るのではなく、大きな自然の中から発出した結節点のうちのひとつに過ぎず、野生動物や草木と根本は同じだということに気づかされます。

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原始の思考で道具やデザインに向き合ってみる。

原始の思考体系である、2つのものの似ている点を見つけるという類化性能をご紹介しましたが、これを普段私たちが何気なく向き合っている道具に落とし込んでみたいと思います。

まず、別化性能的に道具に向き合ったとき、そこには使役の関係が存在すると考えられます。
人間と道具は根本的に全く違う存在のものでひたすらに人間が道具を使用する、そして破損したり使えなくなればすぐに捨ててしまい新しい道具を手に入れ同じように扱うのではないでしょうか。
そこには道具に対する労りなどの心は存在せず、ただただ人間が道具を使い、道具が人間に使われる関係性が続きます。

一方、類化性能的に道具に向き合ったとき、そこには愛着が存在するのではないかと私は考えます。
自分と道具は違う存在だという思考では、そこに心が通うことは考えにくく、人間が道具を使っているという使役の関係性が続きます。
しかし、類化性能的に道具を捉えると、そこには同じルーツである自然から生まれたものとして、類化的な思考が働き人間と道具の共通点を感じるようになります。一旦そのような思考が働けば使役の関係性から抜け出し、心が通うようになります。
これこそが愛着の発生する原因だと私は考えています。

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私のお気に入りの道具の一つであるケニヤのソープストーンを使った小皿です。ひんやりした独特の手触りがたまりません。

“溶ける”という感覚

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ここまで、古代の人間の思考体系を紹介し、その思考を道具に落とし込んで考えてみた結果愛着の発生を認めることができました。これをさらに展開し、私がデザインを行う上で最重要視している “溶ける”という感覚について考えていきます。

類化性能を道具に落とし込むことで愛着の発生源を見つけましたが、これは人間と道具の心理的な境界線がなくなることだと言い換えることができます。

では、物理的な境界線はあるのか、私の好きな養老孟司先生の言葉を元に考えていきます。彼は、自然と私たち人間の物質的境界線は存在せず、自然の中に人間が溶け込んでいると話しています。

例えば、田んぼを見て自分の一部だと捉える人は少ないと思います。田んぼの中では植物の一種である稲が育っているだけです。しかし、人間はその稲をお米にして食べることで自分の体を組成しています。こう考えると、田んぼは自分の体を組成している要素のうちのひとつと考えることができます。
大きな自然というかたまりの中から、さまざまな形で表出したもののうちのひとつが人間という感覚です。こう考えると、人は自然の中に溶け込んでいてその大きな固まりの中から表出しているに過ぎないと捉えることができます。

この考えをデザインに落とし込むことこそが私が最重要視している”溶ける”感覚です。

ここまで、人間の原始の考え方に触れ、その思考体系をデザインに落とし込んで"溶ける"感覚とはどういったものか考えていきました。

次回のnoteではなぜこの"溶ける"感覚がデザインを考えるうえで重要なのか、私の考えを書き連ねていきたいと思います。

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私がデザインを担当したliloは、プロダクトはもちろん、webコンテンツや顧客体験に至るまで、"溶ける"ことを最重要視しています。ぜひ、下記のリンクからご覧ください。




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