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小説 愛ゆえに膜
今日もまた、一日が始まる。扉を境に外の何とも言えない漂う空気がわたしをそのまま飲み込んでしまいそうで嫌気がさして。
このまま家から出なかったら。親はどんな反応するだろうな。とか。
全然面白くもないのに笑えて、口角は微妙に上がったままだけど、扉はわたしに開かれて開くし、制服のスカートは太ももに張り付いて、ローファーはいつも通り、外の空気を切るように歩く。
むしむし。今日はこの言葉が似合ってる。特に走ってもないのに気づけば汗を纏っていて、頬は膜を張ったようにあつく。
わたしのこと、好きでしょ。そんなひとがいる。
頬の膜を張り視線を弾き返そうとしているのだろうか。今日のわたし。
走行中の電車は私たちを同じ目的地に連れて行くのだ。
私たち、同じだね。おんなじように時間を使ってる。おんなじ時に着くんだよ。
視線はうまく弾き返せないようで、わたしはどこに向けたらいいのか、考えて、考えて。ピントを合わせるように探って、顔を少し上げてみる。ゆっくり。
ぶつかる。もちろんそれはガラスの破片のようで、頬の膜は破られる。
景色が一瞬の風となり過ぎていくようにそのひとときものまれる。
瞬きと同時に場面はちゃんと切り替わっていて、わたしだけ取り残される。
おんなじように時間を使っていたのに、次の場面では幸せの破片は刺さってこなくて、またわたしは膜を張り、ローファーを映すだけ。
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