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小説 夢見心地に彼と。

その日はまだ私の席が先生から遠くて、見られにくい席の日だった。
席替えで、今は違うけど。あの席には思い出がたくさんある。

その日、とても暑くて、でも急に暑くなったもんだから、制服を夏服にした人は少ない。そんな日だった。男子はみんな腕まくりをしていて、彼の袖からは部活で酷使しているのであろう焼けた腕が見えていた。
小テストあります。机の上、片付けて。
先生の呼びかけでテストがあることを知った彼。机の中から教材がはみ出しそうなほど詰め込んでいるので英語の教科書は片付けられない。
5分後終了を知らせるタイマーと共に横からは深いため息。採点をしながら笑いそうになった。四択なのでどこかは当たるようなテスト。20点満点のテスト。
彼は0点だった。返すとき何となくその場に居ずらいような気分がして、少し息を吸った。
まじか。うわ。
どこかは当たるだろうと思っていたのか驚いていてそんな彼を見て私も少し口元が緩んでいた。ふたり。

宙を飛んでいるようだった。気温のせいか、この気温にはまだ慣れていないわたしのせいか、顔がじゅわと。目がなんだか熱くなって、コンタクトレンズが乾いて。目が痛い。我に返った。見つめていた。

その日は暑くて、クラスにおさまる生徒はなんだかふわふわ宙に浮いているよう。彼は教科書のページを開く。誰も開いてないし、そもそも今日は教科書を使わないと連絡があった。前かがみ気味に机に覆い被さって書く。
心なしか彼と私だけの教室のような気がしてきて、机に覆い被さって顔を隠した。



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