蟹Ⅲ

蟹を食べてからの私はと言うと、
動体視力がすこぶる良くなった。
目の前を通りすぎようとする鳥なんて鷲掴みにできる。
だから私は今、
家の前で鳥を鷲掴みにし、
光沢の表情を浮かべてるって訳さ。
凄いだろ私は。

って、
そんな凄いことをしていたら、
「鳥が可哀想だよ」
なんて言ってくる人が現れやがって、
「やめてあげて」
だとか言ってきやがって、
「バカ」
だとかも言ってきやがって、
最終的には、
「バーカバーカ」
って感じでその人は
ベロベロバーしながら去って行った。
なので私は今、とてもイライラしている。
なにアイツ。
イライラ! イライラなんだけど!
そういう訳だから私は、
イライラと共に鳥を空へ思いっきり
ぶん投げてやった。

へ!
なにが可哀想だよ。
鳥を捕まえた私に凄いと言え、ボケッ。
あーもう、イライラがヤバいな。
外だけど、
「あー!」とか
「もー!」とか
大声を出してしまう。
外だけど、
新聞紙で作った紙鉄砲を
鳴らしまくってしまう。
でも、そうでもしないと
このイライラを発散できない。
でも、そうしていると、
奇異の目で見られてしまう。
もう完全にそういう目で
近所の人たちが私を見てる。

だから私は落ち着き払って、
奇異の目で見てくる近所の人らに、
「すいません、お騒がせして」
と平謝りしていく。
そうしたら、その人らは、
「い、いいんですよ別に」
とあわあわして
そそくさと家の中に逃げていく。

へ、へへっ。
そんな状況に私はニヤつきつつ、
「ビビってのかよ、おい!」
と叫んでいき、
「逃げるように帰りやがってよぉ!
こっちは蟹食ってんだ!
お前らなんか止まって見えるぜ!」
と叫びまわっていく。
ったく、おい、
誰も私と遊ばないのか?
つまんない奴らだな。
どいつもこいつもイライラするだけだ。

と、そんな中、
パトカーの音が聞こえてきた。
こちらに近づいてきている気がする。
これはまさか私か?
だが、だとしてもビビることはない。
こっちは蟹食ってんだ。
ここは冷静沈着を装い、
あわあわした様子を見せずに
そそくさと家に帰ろう。
うん、帰ろう。
ビビる必要はない。

あ~しかしまた、
蟹食べたいなぁ。

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