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こどものための本 感想

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こどものために書かれた本を読んでいきます。
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記事一覧

ローズマリー・サトクリフ 『夜明けの風』

僕にとってのストーリー:ひたむきさ。とにかくひたむきに生きる。世の中は変わる、盛者必衰。黒が白になるような大きな変化の中、他者のためにオウェインは生きる。自己犠牲。100%、何かの集団に所属することはできない。 『ともしびをかかげて』の続編。本当に素晴らしい。児童文学と呼ばれるサトクリフの本ですが、大人が読んでこそ感動するのではないかと思います。 主人公のオウェインは、ケルトの王の若き戦士。14のとき戦場ですべてを失った。それからは、運命に翻弄されながら、常に他者のために

マイケル・モーパーゴ 『だれにも話さなかった祖父のこと』

僕にとってのこの本: 年長者とこども。傷つき生きること。やがて許される。通じ合う。こどもだけができること、祖父の歴史を継ぐこと。 素晴らしい本でした。本当に僕は何にも知らない。この人を知らずに39年間もよく生きてこられたなと。そのくらい素晴らしいと思いました。 年長者とこどもの対話です。マイケルの目線でおじいちゃんのことが語られていきます。おじいちゃんは、戦争で傷を負った。心身ともに。 その傷が、どうしようもなく痛かったし、傷が別の傷を生み出すように、痛みをひろげていっ

ローズマリ・サトクリフ 『第九軍団のワシ』

僕にとっての本作: マーカスは大怪我を負う。父の消息。消えた「ワシ」。友との冒険。 才ある軍人だったマーカスは、戦いで負傷し、名誉除隊。みながその自己犠牲的精神をたたえたが、彼には生きがいが必要だった。 軍神となる夢をたたれたのち、彼の心に沈んでいたひとつの望みが、オルタナティブなものとして浮上する。夢を絶たれたからこそ、この望みにこだわる。それは父の「ワシ」の捜索。 心優しき叔父。そして闘技場で出会った奴隷のエスカ。エスカは、マーカスの友となり、ワシをさがす仲間に。他

ローズマリー・サトクリフ 『ケルトの白馬』

僕にとってのこの本: 族長の息子。運命、自己犠牲。ルブリンが描く白馬。 サトクリフの作品が本当にすばらしいなと、いつどの作品を読んでも心に響きます。とても歴史を感じます。 何冊か読んでみるとわかることがあるのですが、彼女の作品にはいつも、「運命」、「歴史」、「使命」、「挑戦」、「生きる」、そんなテーマが根底にあるような気がしています。 ときに「共存」や「共生」のような表現もあったりしますが、この描き方が誠実でよいのですね。他者と生きる様子が、べたべたしない。昨今のSDGs

伝説の校長講和

僕にとってのこの本の大事な部分: 知性ある大人が、こどもに語る。完全無欠の教養人が、理想の学校を作る。 渋幕は誰もが知る名門校ですが、その歴史は意外と長くないですね。この本の主人公である田村哲夫氏が、1983年に創立しました。 田村氏はご自身の母校、麻布高校の教育を参考に、「幕張に麻布をつくる」との意思で学校を設立。数々の困難をのりこえ、有名人気高に育て上げました。 氏は、リベラルアーツにこだわりをお持ちです。 しかし、みんな知っているように、日本の受験システムでは、高

大ピンチずかん

絵本についても大いに書きたいと思っています。 僕にとってのこの本: こどもの1日は、ピンチの連続だ。そなえあれば、憂いなし。さあいくぞ! 妻が子に買い与えた絵本です。最高に面白いです。やっぱりユーモアは必要! こどもの日々は、ピンチの連続。この本は、ピンチの具体的な場面をレベル分けし、対処法を提唱します。もう、4才の息子が楽しんでいきいきと読みます。作者には、こどもの心を読む不思議な力があるのか、もしくは大人になりきれない人なのか。どちらにしても才能なんだろうなと思いま

ユヴァル・ノア・ハラリ Unstoppable Us

僕の要約: 人類には超能力がある。だから、見ず知らずの他人と協力することができる。 『人類の物語  ヒトはこうして地球の支配者になった 』 というタイトルで、翻訳出版されています。翻訳アプリを使いながら原著で読みました。 著者のハラリ氏は、ヘブライ大学の歴史学の教授。世界史に関する著作が多い人ですね。ベストセラーの『ホモデウス』や『サピエンス全史』で知られています。今回、ハラリ氏がこどものための本を書いた、ということで読んでみました。 印象的な部分、というか本書の最大の

ローズマリ・サトクリフ 『アーサー王と円卓の騎士(サトクリフ・オリジナル』

僕の読み方: アーサー王出生前から、円卓の騎士の集合、主要な冒険を描く。 円卓の騎士の個性、サトクリフの現代的感覚と時代考証のバランス。冴えた表現。お見事。 訳者あとがきによれば、チルドレンズブックオブザイヤーという賞を獲得したそうです。一流作家サトクリフによる、アーサー王伝説へのオマージュです。 アーサー王三部作は、1979~1981年の作品。日本には、訳者の山本史郎氏によって、2001年にはじめて出版され広く受け入れられました。 作者のサトクリフにとっては、アラウン

ローズマリ・サトクリフ 『ともしびをかかげて』(上下)

僕にとっての作品:運命は過酷。アクイラはローマの教養を身につけたブリテン島の若きケルト系軍団長。4世紀、衰退を迎えたローマ。サクソン人の侵入に対し、アクイラは任務であるローマの防衛よりも、本能で「故郷」を選ぶ。運命は過酷。教養と文化を離れ、本能と本能がぶつかりあう歴史の中へ。生き抜く。故郷と家族は、同義。 素晴らしい歴史小説でした。サトクリフ氏は児童文学作家として知られ、この本も中学生向けだそうです。しかし、そういったことはどうでもよいほど感動的。大人もこどもも読んで得られ

ニーアル・ファーガソン『文明』

僕にとっての要旨:1500年から、500年間、西洋文明は他地域を圧倒した。その要因は、6つの「キラーアプリケーション」。1 競争 2 科学 3 所有権 4 医学 5 消費 6 労働。西洋が競争によって軍事力を拡大し、アメリカを収奪。その富は所有権で保障された。所有権は法の支配をうみ、法の支配は科学の発展や労働力の競争の土台となった。 2012年の書。経済史を専門とする、ハーバード大のファーガソン氏の有名な著作。スケールの大きな歴史を語る方で、惚れ惚れします。 ある人によれば

サン・テグジュペリ 『星の王子さま』

サン=テグジュペリ 『星の王子さま』 僕にとっての作品の要諦: たいせつなことは目には見えない。飛行士の「僕」と、小さな星からきた王子さまが、不時着をきっかけに出会う。王子さまがこれまで出会った人たちは、王子さまには不可解なものばかり。こども時代を忘れなかった大人である「僕」は、王子さまに共感。 作品は1943年にアメリカで初版。 すでに飛行士として、また『夜間飛行』などの代表作によって有名人になっていたサン=テグジュペリ(1900-1944)による、児童文学作品です。

リン・リード・バンクス 『リトルベアー 小さなインディアンの秘密』

僕にとっての作品の要点: 少年オムリは、不思議な戸棚と鍵を手に入れる。この中に入れたプラスチックの人形は、そのサイズ、彼らの時代設定のまま生命が吹き込まれる。こうして19世紀からやってきたインディアンの「リトルベアー」やカウボーイの「ブーン 」と、少年たちの生活が始まる。現代の日常生活は、この「秘密」を抱えた少年たちには究極にスリリングなものになる。 1980年の作品。原題は The Indian in the Cupboard。 作者のバンクスさんは、1929年、ロンドン

ウィリアム・F・バイナム 若い読者のための科学史

僕にとってのお話の要点: 西洋科学者、イスラム科学者の列伝。特に、医学の歴史には重きを置かれている。科学者の功績をあげながら、初学者を想定して書かれている。アリストテレスからアインシュタインまで、幅広い。 著者のバイナム氏は、医学史研究の泰斗。原著の出版は2012年、訳出は2013年で、そのときのタイトルは『歴史でわかる科学入門』だったそう。 イェール大学出版会がシリーズで出しているA Little History of 〜〜の一つです。 以前、哲学史についてこのnote

エンデ『ジム・ボタンの機関車大旅行』

僕にとっての作品の要点: ジム・ボタンとルーカスは大親友。出生に謎のあるジムと、腕利きの機関士ルーカスは、人口増を背景に故郷の島を出て冒険へ。相棒は機関車のエマ(女性)。そして皇女の誘拐に苦しむ皇帝に出会う。皇女リーシーを助けるべく、竜の待つクルシム国へ。大冒険の末、目的は達成されるが、ジムの出生の謎は明かされず、次回に続く。 幼く勇気があり、感性が豊かなジムと、科学的・論理的思考を持ち合わせた腕っぷしの強いルーカスのコンビが大冒険を繰り広げる。 1960年の作品。エンデ