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ウィリアム・F・バイナム 若い読者のための科学史

僕にとってのお話の要点:
西洋科学者、イスラム科学者の列伝。特に、医学の歴史には重きを置かれている。科学者の功績をあげながら、初学者を想定して書かれている。アリストテレスからアインシュタインまで、幅広い。

著者のバイナム氏は、医学史研究の泰斗。原著の出版は2012年、訳出は2013年で、そのときのタイトルは『歴史でわかる科学入門』だったそう。

イェール大学出版会がシリーズで出しているA Little History of 〜〜の一つです。
以前、哲学史についてこのnoteでも取り上げました。

ところで、著者バイナム氏は、この本を書こうと思ったきっかけがあるそうです。

それは、美術史家ゴンブリッチの『若い読者のための世界史』A Little History of the World だったそうです。これには驚きました。僕が歴史の教員になり、手に取った本の中で大きな衝撃を受けた本だからです。それは欧米では古典的名著として認識されていたのですね。そのころ(今もか)、僕は複雑な世界史をどう生徒に語るべきかを考えていました。大きなヒントをもらった本でした。

ゴンブリッチは、たしか自分の子どものために、世界史の本を書きたいというような動機で『若い読者のための世界史』を書いていたのではなかったかな…いつかこの本も紹介してみたい。

バイナム氏も同様に、『若い読者のための科学史』は、お孫さんのために書いたとのこと。

バイナム氏によれば、科学とは世界を理解しようとする試みです。

1700年代に防腐処理の方法が発見されると、解剖に時間をかけられるようになり、人体をすみずみまで調べられるようになった。私が医学生だった頃は、8ヶ月かけてひとりの遺体を解剖した。解剖実習をした日には、腐敗の匂いではなく、防腐剤の匂いが服と爪からしたものだ。私が担当したのは高齢男性の遺体で、何ヶ月もかけて解剖するうち、私は彼のことを深く知るようになった。私の学生時代も、解剖の順番はヴェサリウスの時代とほとんど同じだったが、脳は最後に回された。そうすることで、複雑な脳という器官に取りかかる頃には、ほかの部分の解剖をとおして学生の解剖技術が向上しているだろうと期待されたからである。あのご老人は科学に自分の身体を捧げてくれた。彼が私に多くのことを教えてくれたのはまちがいない。

Chapter10 人体の解明

「理由なき反抗」という表現を借りて言えば、ガリレオは「理由ある反抗者」だった。彼が勝ち取ろうとしたのは、世界が機能する仕組みを宗教を介さずに説明できる、知識としての科学だった。それまでの価値観を揺るがす彼の考え方の中には、まちがっていたり、説明が不十分だったりするためにのちにくつがえされたものもある。しかし、これこそが科学のかならずたどる道なのだ。科学には、すべての答えが出されている完結した分野などない。現代の科学者なら誰もが知っているように、ガリレオもこのことを知っていたのである。

Chapter12 斜塔と望遠鏡 ガリレオ より

僕は、本書が読み手に想定しているような、科学の初学者です。私大文系の出身だし…でも、歴史を考えるうえで科学史は絶対にはずしてはいけないものだと思っていました。いまだに自分の授業に科学史をうまく組み込むことはできていないかもしれませんが。

科学史をこどもたちに語らなければならないのは、それはこどもならばみんな知りたいことだからだと思います。

バイナム氏によれば、科学とは、世界を理解しようとする試みのこと。

僕は、それは、こどもがみんな無自覚のうちに行っていることだと思います。こどもはみんな、安心・安全の自分の内側から、常に外の世界の理解を強いられているように思います。

科学史の中には、こどもに響くものがあるはずだなと思っています。まずは僕自身が科学に目を向けなければと強く思います。できるはずだ、私大文系にも、大人になった今からでも(笑)。

ところで、子や孫に語る、というのはとてもいいですね。そういう思いは、僕自身の中にもあります。この本も、『歴史でわかる科学入門』よりも今のタイトルの方がずっと良いなと思います(好みの問題かもしれませんが)。

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