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ニーアル・ファーガソン『文明』

僕にとっての要旨:1500年から、500年間、西洋文明は他地域を圧倒した。その要因は、6つの「キラーアプリケーション」。1 競争 2 科学 3 所有権 4 医学 5 消費 6 労働。西洋が競争によって軍事力を拡大し、アメリカを収奪。その富は所有権で保障された。所有権は法の支配をうみ、法の支配は科学の発展や労働力の競争の土台となった。


2012年の書。経済史を専門とする、ハーバード大のファーガソン氏の有名な著作。スケールの大きな歴史を語る方で、惚れ惚れします。
ある人によれば、いま、世界で最も有名な歴史学者だと。僕はこの人のことを与那覇潤さんや池田信夫さんの著作で知りました。

こういうパノラマ的な歴史を描ける人は多くないと思う。
僕は、歴史、おもに世界史の教員をしていますが、本当の世界史はこういうものだと思う。

こどもむけの本を紹介するこのコーナーに、一見不適格に見えるこの本ですが、実は、ファーガソン氏が自分の17歳のこどもにむけて書いた本です。氏いわく、こどもたちが受けている歴史学教育に、危機感を覚えたとのこと。ですから僕の自分の仕事にとっても、最先端の歴史学者がこどもに何を求めているのかを知ることは有益です。

ファーガソン氏。とにかく博覧強記。そして論旨がわかりやすい。本当にすごい歴史家だと思います。

著者は、独特のビジョンをお持ちです。大英帝国のこれまでの悪名高き植民地支配を、バランスシートで分析してみたり(その結果は、イギリスがやった善行は悪行を上回る)。

この本では、歴史学の常識といわれる、「世界史の中で、なぜ最先端で最強だった中国を、ヨーロッパは追い越すことができたのか」という問いがベースにあります。

この6つのキラーアプリケーションがその答えなのだけれど、著者はこのアプリは中国だけではなく、なぜイギリスと北米が他地域(たとえば南米や他のヨーロッパ支配地域)に勝ったのかの答えとして、書いている。

ちなみに、この問いは、最近高校の必修科目になった歴史総合でもたいそう意識されて、ストーリー構成に影響を与えているみたいです。


私がこの本でお伝えしたかったことは、文明はきわめて複雑で、数多くの構成要素が不規則に絡み合ったもので、エジプトのピラミッドよりもナミビアのアリ塚に近いことだ。コンピューター・サイエンティストのクリストファー・ラングトンの表現を借りれば「カオスの端っこ」で、つまり秩序と無秩序の間でなんとか運用されている。このようなシステムでは、短期間であれば均衡を保ってうまく機能できるかもしれない。ただし、つねに微調整をしながらだ。だが、ときに「臨界に達する」瞬間がある。そうなると、ごく軽く触れただけでも穏やかな均衡状態から危機状態にまで「相転移」しかねない。砂の一粒を取り除いただけでも、砂上の楼閣は崩壊するかもしれない。

結論 「ライバル同士」より

過去500年間、ほぼ一貫して続いてきた西洋有利の潮流が変化する状況を、私たちは目撃している。特定の文明は弱まり、別の文明が台頭してくる。重要な点は、二つの文明が衝突するのではなく、弱体化した文明が弱まって崩壊するかどうかだ。

結論 「ライバル同士」より

著者の念頭には、西洋文明の黄昏と、中国の脅威があります。西洋が時代遅れになって限界を迎えるかもしれない、このような時代だからこそ、いかに西洋が成長してきたのか歴史を知ることが大事とのこと。

児童文学やこどもむけの歴史など、個人を対象とする作品を書くことを目指している僕には、ファーガソン氏のスケールの大きな歴史観をそのまま導入することは難しい、もとより手に余る仕事です。でも、教養として参考にさせていただきたい。

ファーガソン氏 wikipedia より


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