
鈴芽とわたし。3.11 被災者が「すずめの戸締まり」をみて想うこと。
こんにちは。KOKUAの横山です。
10年に一度の大寒波が訪れると言われていますが、皆さまの地域のご様子はいかがでしょうか?
本日のテーマは、全国で大ヒット上映中の新海誠監督「すずめの戸締まり」についてお届けします。

この作品は、東日本大震災についてかなり直接的に触れており、新海監督としても覚悟を持った、挑戦の一作と言われています。
鑑賞中、涙が止まらなかった私ですが、一方で思ったことは、被災経験者はこの作品をどのように感じ、受け止めるのだろうということ。
今回は、防災サービスを提供しているKOKUA代表泉と、東日本大震災の被災者である亀山沙月さんの2人による「すずめの戸締まり」の考察をお届けします。

※本記事は、映画「すずめの戸締まり」のネタバレを多く含みます。
映画鑑賞後の方や、震災描写に抵抗のない方のみご覧いただけますと幸いです。
防災や震災を
表現するのは、まだ早い・・?

横山:まずはじめに、映画をみて一番に感じたことはなんでしたか?
泉:僕は何をテーマにしている作品かを全く知らずに見たんですが、震災の話だと気づいてからは、どんな表現で、どんな意図があるんだろうと考えながら観ていました。
見終わった率直な感想は「震災をコンテンツとして扱うことに対して賛否が分かれるだろうし、傷つく人もいるだろうな」というのが最初に思ったことです。
亀山:私は、被災者視点で観たときに 言葉を選ばずに言ってしまうと、とにかく辛い気持ちでいっぱいになって、反射的には感じたことは「こんなに地震とか東日本大震災をコンテンツにして消費しないでほしい」と思いました。
「なんでこんなに辛い思いをしてまで消費されないといけないんだろう。」と本音として思った一方で、その後に理性が働いて、先々や後世のことを思うと、こんな悲しい出来事を繰り返さないためには、辛くても受け止めて発信していかないといけないんだよね、と頭ではわかる・・という感じです。
横山:作中では、たくさん地震を描写するシーンがありましたね・・。劇場に入る前にも、こんな注意喚起がされていました。
映画『#すずめの戸締まり』
— 映画『すずめの戸締まり』公式 (@suzume_tojimari) October 22, 2022
ご鑑賞予定の皆様へ pic.twitter.com/KVfAk6s2aw
亀山:全体の雰囲気もですが、震災の状況を思い出すシーンがやっぱりすごく多かったです!緊急地震速報のアラートも想像の3倍ぐらい鳴ってびっくりしました。
ただ、震災をエンタメとして扱うことに対する怒りではなく、トリガーになる映像を見せられて、フラッシュバックする感じでしたね。被災経験者は、私のように辛くなる人も多いだろうとな思います。
当事者から見ても
とても配慮されていた作品

横山:今回、映像によって「災害や震災」を表現されていたと思いますが、良かった点などあったら教えてください。
亀山:作品の中で、間違ったところはなかったと思います。
「それっておかしいでしょ」という部分は、おそらくなかったし、被災地を蔑ろにしているとも思わなかったですね。
こんなにセンシティブなテーマを取り上げているのに、被災者目線でも作品中の表現に違和感がなかったことはすごいなと思いました。
横山:具体的にはどのようなところに、配慮を感じられましたか?
亀山:新海監督はパンフレットなどで「被災したことがない東日本大震災を知らない世代にも伝えていきたい」とおっしゃっていたと思います。
もし私が作り手側で、同じような思いがあった場合、物語の冒頭に大震災の被害をバン! と見せて、命が失われることってこんなに辛いんだっていうのを見せると思うんです。
そうすると、何百万人もの命を、自分の身を投げ打ってまで守る理由がすごく伝わるし、効果的だと思うんですよ。
被災者の心情を全く考えずに作れば、そうするんじゃないかなって思うんですけど、今回そんな演出ではなかった。
それに、東日本大震災の描写自体も、 崩れてる瞬間とかはあまりなかったと思うので、最小限に留めたんだろうなと思いましたね。
要石と石碑
残し続けていくことの大切さ

横山:作中には「要石」や「閉じ師」など、独特の呼び名が多くありましたが、気になったところはありましたか?
亀山:個人的には要石って、石碑のことを指しているのかなとも思いました。鈴芽は、すい寄せられるように要石を抜いちゃいましたが、東日本大震災でも、時間が経つことで石碑をどかしてしまうことが問題視されているんです。
昔の人が残してくれたものですら、現代には邪魔だから取っ払ってしまうことがある・・。あのシーンをみて想起させられました。
違う形になったとしても、きっと残し続けていくことは大事な気がしています。
泉:ネーミングセンスも素敵でしたよね。鈴芽って名前も響きが可愛いし、猫や椅子のキャラクターによってシリアスになりすぎなかったのは、すごいことだと思いました。
閉じ師っていう表現や、「戸締まりすることで、地震を防げる世界」っていいですよね。防災について活動する僕らも、ぜひ「閉じ師」になりたいと思いました。公式キーホルダーも購入しました!(笑)
いまの日本を支えているのは、影の努力者たち
横山:映画の中では、印象的なセリフが多くありましたが、特に気になったシーンはありましたか?

大事な仕事は、人からは見えない方がいいんだ
亀山:草太くんが鈴芽に「大事な仕事は、人からは見えない方がいいんだ」といっていたんですが、防災に関わる人間としてすごく共感しました。
私は、気付かずとも救われるような社会になったらいいなと常々思ってるんですが、 今震度5の地震が起きても「命が助かったな」という気持ちには、あまりならないと思うんです。
でも、発展途上国で震度5の地震が起きたら、多くの人が亡くなったりしますよね。同じように昔の日本だったら死者が出ていたけれど、今助かっているのは、見えない努力をしてくださった先人の方々のお陰で助かってるわけで。でもそれに対して、地震が起きたときに毎回「ありがとう」って思わないと思います。
作品を通じて「実は命を救ってる人たちって、そういう影の努力者なんだよ」と伝えたかったのかな、と。個人的な主観ですが、草太くんの一言はすごく共感しました。
もっと被災者の声を出しても良かったのでは?
泉:僕が特に印象的だったのは、芹澤くんが、東北の平原をみて「すごい綺麗な景色だ」みたいなことをいうシーンです。

ここってこんなに綺麗な場所だったんだな
泉:そこに対して、鈴芽は「綺麗・・・?ここが・・?」と反応していたけど、それって被災によってまっさらになった土地なんですよね。悪気ない一言だけど、そこには「みんな風化して忘れていないか?」っていう問いかけもあるんじゃないかと思いました。
亀山:私も同じシーンが気になりました!
でも一方で、今の視聴者や、特に震災を知らない子どもたちって、どれだけの人が汲み取れたのかなって・・。
鈴芽と言い合いくらいしても良かったし、被災者の気持ちをもっと強く言っても良かったかもしれないとも思いましたね。
鈴芽とわたし。
被災経験を通じて重なる人物像

亀山:鈴芽の言葉や行動は、無茶振りだったり無鉄砲な部分も多かったと思うんですが、同じ被災経験者として共感できた部分は多かったです。
例えば、一番最初のシーンって、朝の登校中ですよね。
「学校にもう遅刻するよ。」って友達に言われてるのに、なんの迷いもなく廃墟に戻っていったじゃないですか。あの行動って、ルールは守るべきだって価値観の人だったら、取らない行動だと思うんです。
私も震災によって、目の前でイレギュラーなことばっかり起きたり、秩序が無くなる経験をしてから、ルールを守って生きることにすごく懐疑的になっていたんですよね。
当たり前だったはずの日常が破られてばかりなのに、なんでルールを守らないといけないんだ! という感覚が少なからずありました。
それと、鈴芽は「死ぬのが怖くない」という言葉を何度も言っていたと思うんですが、それもお母さんを亡くして地元も失ってるからこそ、これ以上失くすものがないから、リスクをとれる発言ができたんじゃないかな、と・・。
私も震災を通して「頑張る意味はあるのか、生きる意味ってなんだろう」と思ってしまう時期もありました。でも、目の前の受験勉強を頑張ってみたり、周りに愛情や努力する意味を教えてくれる人がいて、斜に構えていた今までの自分を反省して「やりたいことを後悔なくやろう!」と思い今まで活動してこれたんだと思います。
劇中で鈴芽の姿をみて、今までの人生の中で、思い切った行動を取れているのは被災を経験しているからだよなあ、とすごく共感しましたね。
防災について日々出来ること

横山:新海監督は、今回の作品を通じて「観客の何かを変えてしまう力が映画にあるのなら、美しいことや正しいことにその力を使いたい」と述べられていました。
映画というエンターテイメント以外で、防災を広めることで出来ることとは何でしょうか?
亀山:個人で意識を高めていこう! というのは、めちゃくちゃ大事だけれどすごく難しいなと感じています。結局、大元となる国や地域単位で、もっと啓蒙していく必要はあるだろうなと思います。
あとは、環境(住居・家族など)が変われば、備えるものや起こる災害っていうのは違うので、それらの知識を得ていくっていうのは、やっぱりすごく 大切。
今回のこの映画で東日本大震災を捉えて取り上げて、「あれって、実は東日本大震災らしいよ」って思い出す機会を少しでも増やすことも、風化を留めるには、すごくいいことだと思いますね。
自然災害と”共存”する日本

横山:劇場で配られた「新海誠本」には、映画の世界観を”終末後の日本”と述べられていましたが、どのように捉えられましたか?
災害については、アポカリプス(終末)後の映画、という気分で作りたい。来るべき厄災を恐れるのではなく、厄災がどうしようもなくべったりと日常に貼りついている、そういう世界である。
泉:今は、過去の教訓やテクノロジーによって、緊急地震速報や様々な防災グッズもあるけれど、「いつどこで起こるかわからない」という本質は昔も今も変わっていないと思っています。自然豊かな日本で生きる限りは、災害が起こるという前提があり、だからこそ個人が防災力を高める必要がある。
新海監督がおっしゃっている”終末後の日本”というのは、今僕らが日本で暮らしている環境や生活の裏側には、常に災害が起こるかもしれないという事実を受け止めて、自然と共存していく必要性を伝えたかったのかなと思います。
僕らにできる防災の伝えかた

泉:防災って、今回の映画のように伝え方がすごく難しいと思っています。被災経験は、センシティブなものだけど、エンターテイメントとして扱うことで、多くの方の関心を引くことはできる。
「すずめの戸締まり」を通じて、思い出すキッカケや、それと同時に災害の怖さの再認識には繋がったと思います。
一方で、防災のような「まだ起こっていないものに対する準備」を行動に移してもらうことって、なかなか出来ないものなんですよね。
具体的に対策をやるとなった際には、興味がない人が多いし、普段考えないから工夫が必要です。
僕らの作っている「LIFEGIFT」では、ギフトを通じて防災に触れるキッカケを作り、pasoboでは「具体的に、何から始めればいいの?」という方に対して、無料の防災診断を通じて、準備すべきアイテムをおすすめしています。
世の中には、防災を広めるための素晴らしいサービスや、企業、NPO団体も多くあるので、ひとつの団体や一つの個人で取り組むだけでなく、僕らが協力して世界中の防災を推進していきたいですね。
さいごに
ボーイ・ミーツ・ガールの青春ストーリーでもあり、被災地を描写したシリアスな面もある、新海監督の想いと覚悟が詰まった「すずめの戸締まり」
皆さんは作品を見て、何を想い、感じましたでしょうか?
今回は、震災や災害に関わりの深い2人を招いて、防災の観点で語り合い、考察してみました。
映画という表現において、感じ方や思うことは、10人いれば10通りの解釈があると思います。
きっと多くの方の胸に響いたこの作品を通じて、防災へのアクションや被災地へ想いを馳せる瞬間が、一人でも多くの方に生まれることを願っています。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
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