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LIBYA UPDATES #9: JUNE 2020 Week 1


こんにちは🕊
今週もリビアの動きを整理しました。

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これまでのリビア
リビアでは、2011年に40年続いたカダフィによる独裁体制が崩壊。その後、新たな政府樹立を巡り国が分断状態にある。
現在は首都トリポリを拠点し、国連の仲介で作られた国民合意政府 (以下GNA)と、東部の都市トブルクを拠点とする政府(以下HoR)、二つの「政府」が正当性を主張し合っている構図だ。
HoRとつながりを持つハフタル将軍率いる勢力は2019年4月、首都トリポリへの侵攻を開始。GNAに忠誠を誓う民兵組織などがこれに応戦し、軍事衝突へと発展した。 GNAにはトルコ、ハフタル勢力側にはUAE、ロシアなどがつき、軍事支援などを行っている。

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1. 紛争

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リビアで対立するGNA政府とハフタル勢力が6月1日、停戦に向けた交渉を再開することに合意。国連リビア支援ミッションが発表した。

両者の間では今年に入ってから2回、停戦合意が結ばれている。だが、その後も爆撃や戦闘が続いてきた。


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GNA政府は3日、ハフタル勢力よりトリポリ国際空港を奪還したことを発表した。

空港は2011年までリビア最大規模の国際空港として機能。2014年の内戦の際には主戦場となり、施設が破壊された。
代わりのミティガ空港は商用と軍用両方に使われており、ハフタル勢力による攻撃に市民が巻き込まれる事件が多発していた。

さらに4日、GNAはトリポリ全体の支配を回復したと発表。

ハフタル勢力もこれまで戦線となっていた首都のアイン・ザラ地区やアブ・サリム地区から撤退することを明らかにした。

5日には、ハフタル勢力の最後の主要な拠点の一つであるタルフーナに進行したとのこと。


下の地図は、この半年の間の両勢力の支配地域の変化を比較したもの。青がGNA勢力、赤がハフタル勢力の支配地域。


首都トリポリ中心部にある殉教者広場は、トリポリの「解放」を祝う市民らが集った。


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一方、市民の安全は保障されていない。
トリポリでは5月31日、ハフタル勢力のロケット砲で少なくとも市民5名が死亡。砲弾が着弾したのは公園として親しまれている場所だった。


ハフタル勢力が撤退の際、対人地雷を残していることも分かっている。NGOヒューマン・ライツ・ウォッチが指摘。

2019年4月にハフタル勢力が軍事侵攻を開始して以来、20万人以上の避難民が生まれている。地雷の存在は帰還を阻む要因の一つになっている。

新たな研究では、ハフタル勢力がより多くの市民の犠牲を生んでいることが分かった。2019年以降、北アフリカの暴力のほとんどがリビアで起きているという。

ヒューマン・ライツ・ウォッチの中東地域担当、ハナン・サラー氏は5月26日、リビア情勢について考えるウェビナーで、「紛争を巡り人びとの考えが分かれるなか、誰が加害をしたのかを見極めることが重要」と指摘している。

リビアなどの市民の犠牲をウォッチするAirwarsによると、2012年以降の市民の死者少なくとも472名のうち、6割が2019年4月に始まったハフタル勢力によるトリポリへの軍事侵攻による犠牲だ。


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移民・難民も危険にさらされ続けている。

リビアではカダフィ体制の崩壊後、混乱の中でサブサハラ諸国等からの移民が増加。当局や武装勢力、犯罪組織の共謀により、移民に対する検挙、収容 所への収監、暴行や金銭の巻き上げなどが行われてきた。移民・難民の中に同国を経由して欧州を目指す人もいることから、EUはこれらの人びとをリビアに留め置くよう、資金等を投じてきた。


首都から150km離れたメズダでは27日、密輸業者の家族が襲撃事件を起こし、移民30名が死亡、11名が負傷。
家族は密輸業者が「移民により殺された」としており、報復だと見られている。この密輸業者は、移民に対する拷問などで知られていたという。

亡くなった30名のうち26名がバングラデシュ国籍、4名がアフリカ諸国出身。

これを受けて1日、リビアのNGOら41団体が合同で声明を発表。「事件に対する迅速で透明な捜査」のほか、移民・難民の人権を守ることを求めた。


2. 新型コロナウイルス

新型コロナの感染拡大状況

WHO東地中海事務所によると、4日時点で確認されているリビアの新型コロナ感染者は196名。1週間で新たに確認された感染者の数は97名。前の週の倍近く増加した格好だ。
リビアで最初に新型コロナの感染者が確認されたのは3月末。今週だけで、これまでの2ヶ月分に匹敵する数の感染が新たに発覚したことになる。

死者は1名増え、5名となった。


3. 国際社会の動きと今後

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トルコはGNA政府を支援する姿勢を貫いており、今年1月には軍事支援を開始。地中海、中東地域での影響力を維持することが目的だと見られている。今年はじめにはロシアとともに、ハフタルとGNA両勢力の和平交渉を仲介。


シラージュGNA首相は4日、トルコのエルドアン首相を訪問。軍事的支援のほか、エネルギー領域の関係を強化することを確認した。

この数週間のGNA政府の躍進の背景にはトルコの介入がある。


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プーチン大統領とのつながりが強いとされている民間軍事会社(PMC)ワグナーグループは、800〜1,200人程度の傭兵をハフタル勢力側に送っているとされている。ロシアが先週、リビアへ戦闘機14機を送ったことを米国アフリカ軍が明らかにしている。


ハフタル勢力を支援するロシアのラブロフ外務大臣も先週、東部トブルク政府との電話会談で「即時停戦を支援する」と話している。

一方、ロシアやトルコがリビアへ関与を強める様子は、シリアを彷彿とさせるとの声もある。

両国はともに、シリアから戦闘員をGNA、ハフタル両勢力に送っていることも分かっている。


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2019年4月から続いてきた軍事侵攻は終わりを迎えているようだ。今後、どのような動きが予想されるのか。
リビア情勢に詳しい専門家らは「暴力の激化が収まるというよりは、新たなターニングポイントを迎える可能性が高い」と指摘する。

ハフタル勢力を支援するロシアやUAEはトリポリ近郊の戦線から撤退。だがどの国も、リビアの諸勢力の支援から手を引く姿勢は見せていないという。今後も形を変えて諸外国が同国へ関与することが考えられる。
「まだ戦争は終わっていない」と米国のシンクタンク、アトランティック・カウンシルのエマデディン・バディ氏は話す。

トリポリの市民が祝賀ムードのなか、リビアの専門家からは「2011年を思い出す」という声も寄せられている。カダフィ体制崩壊後の楽観的な雰囲気に似ているからだ。リビアは2011年後、新政権の樹立が難航し、内戦が再開している。

「2011年を繰り返さないためには、(軍事侵攻の間に行われた)罪が裁かれ、説明責任が果たされることを追求する必要がある」


参考
朝日新聞デジタルに、リビア情勢をそれを巡る国際社会の構造を説明した記事が掲載されていました。日本語での解説記事はあまり多くないですが、これを読めば何が起きているか、イメージを掴むことができそうです。


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