LIBYA UPDATES #8: May 2020 Week 4
こんにちは🕊
リビアの1週間の動きを整理しました。
今週は英国のシンクタンク、王立国際問題研究所(チャタムハウス)主催のウェビナーに参加。内容を簡単にまとめてみました。
これまでのリビア
リビアでは、2011年に40年続いたカダフィによる独裁体制が崩壊。その後、新たな政府樹立を巡り国が分断状態にある。
現在は首都トリポリを拠点し、国連の仲介で作られた国民合意政府 (以下GNA)と、東部の都市トブルクを拠点とする政府(以下HoR)、二つの「政府」が正当性を主張し合っている構図だ。
HoRとつながりを持つハフタル将軍率いる勢力は2019年4月、首都トリポリへの侵攻を開始。GNAに忠誠を誓う民兵組織などがこれに応戦し、軍事衝突へと発展した。 GNAにはトルコ、ハフタル勢力側にはUAE、ロシアなどがつき、軍事支援などを行っている。
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1. 戦闘
ハフタル勢力が後退するような動きが見られる。
GNAは22日、首都トリポリ南部の領土をハフタル勢力より取り戻した。
ハフタル勢力は18日、ハフタル勢力の戦略的拠点であるアル・ワティーヤ基地を奪還。トリポリの一部地域から撤退することも決定している。
これらの動きの背景には、トルコによるGNAの支援があると考えられている。
リビアの各勢力の支配地域を表した地図。黄色がGNA勢力、赤がLNA勢力。(2020年5月18日現在)
出典: Middle East Eye
GNAの外務省の広報担当は21日、同政府は全土を支配することを目指すと声明で発表している。
「民主的で市民の国を信じている者」とともに政治的プロセスを進める意欲も見せた。暗にハフタルを排除する姿勢を貫く格好だ。
ハフタル勢力側で戦うロシアの民間軍事会社 (PMC) ワグナー・グループの傭兵が今週、がトリポリ南部から撤退したことも分かった。
国連のレポートによると、ワグナー・グループは800人から1,200人の傭兵をリビアのハフタル勢力に送っている。傭兵の中にはシリア人も含まれているという。
トルコもGNAを支援するため、シリア人の傭兵をリビアに送り込んでいることが分かっている。
市民への攻撃が続いている。
トリポリの最前線、アイン・ザラ、サラーフディン両地区では、住宅地に置かれた即席爆発装置により市民が負傷しているという報告が寄せられている。
これを受けて国連リビア特別ミッションは25日、非難声明を出している。
国連移住機関は25日、GNA政府の沿岸警備隊が2日にかけて、400人の移民がリビア沖から地中海を渡ることを防いだと発表した。
新型コロナウイルスの影響でリビアの港は現在封鎖状態にある。だが今月、1,000人の移民・難民が海路での脱出を試みたという。
ISによる攻撃が約1年ぶりに起きた。
リビアの南部の町タラギンで23日、ハフタル勢力の検問施設を狙った攻撃が発生。負傷者はいなかった。
ISは2015年、沿岸の都市シルトを支配下に置くなど勢力を拡大。だが現地の民兵組織と米軍の空爆により、2016年に掃討されている。
2. 新型コロナウイルス
WHO東地中海事務所によると、28日時点で確認されているリビアの新型コロナ感染者は99名。1週間で感染者が18名増えた格好だ。
南部の町セブハで今週、新たに1名の死者が確認された。これまで感染者のいなかった地域で感染者が出始めているという。
リビアの新型コロナ感染による死者の数は4名となった。
医療や検査の体制が整っていないことや、医療用防護服の不足が懸念されており、同国では更なる感染拡大が懸念されている。
3. 国際社会の動き
米国アフリカ軍は26日、ロシアがリビアへ戦闘機を送ったとの声明を発表。
ロシア政府はこれまで、ハフタル勢力への関与を否定。だがプーチン大統領とつながりの強いワグナー・グループが傭兵を派遣するなど、同勢力の後ろ盾となっていると考えられてきた。
声明が事実であれば、ロシアの直接関与が明らかとなることに。
米国アフリカ軍によると、戦闘機はシリアのフメイミン航空基地を経由しリビアに到着した。
ロシアのラブロフ外務大臣は今週、東部トブルク政府との電話会談で「即時停戦を支援する」と話した。
大臣は統一政府の実現のため、リビア国内で和平会談の場を設けることを支援するという。
第2の都市ベンガジには2019年6月、20人の傭兵が派遣されていたことが分かった。
傭兵は南アフリカや英国、オーストラリア、米国の出身。UAEの企業が関与していた。企業は同国のPMC業界とのつながりを持つと見られるオーストラリアのビジネスマンが一部所有しているという。
国連の調査によるとハフタル勢力の側で戦うことが目的で、傭兵には8,000万ドル支払われていた。
かつてPMCに勤務していた米アトランティックカウンシルのシニアフェローは記事中で「リビアは戦争の性格の変化を見るのに適した例」と説明している。
「戦争は政治的な活動だと思われているが、リビアでは商業的になりつつある。あらゆる勢力から、報酬を求める兵士が参加しているのが分かる」
4. リビアと国際社会の動き、どう見たら良い?
リビアの政治分裂や戦争、諸外国の動向について考えるためのウェビナーが26日、開催された。
主催は英国のシンクタンク、王立国際問題研究所(チャタムハウス)。登壇者はリビアに関わる研究者や実務家4名。
☞国内の対立や同盟関係は一時的なもの
リビアやサヘル地域の武力紛争などについて研究するウォルフラム・ラッチャー氏によると、国内の対立や同盟関係は「一時的なもの」だという。
ハフタル側につく諸勢力-その前進を阻止する諸勢力という構図で起きているのが現在の軍事衝突だ。だが、それぞれ必ずしもハフタルやGNAを支援しているわけではない。武器を取ることを駆り立てているのは「家族や地域全体が報復を受ける恐怖」だとラッチャー氏は説明する。
☞責任が問われない状態が続いている
NGOヒューマン・ライツ・ウォッチの中東地域担当、ハナン・サラー氏は「大きな敗者がいるとすれば、それは市民だ」と話す。
市民を攻撃しているのは主にハフタル勢力で、人口の多い地域に爆撃などを行うことは戦争犯罪に当たる可能性がある。一方、GNA側も市民を軍事施設から遠ざける努力を十分にしていないという。
市民らの犠牲について、誰も責任を問われていない状態が続いていることも問題だ。
現状、国連や欧州諸国などは爆撃などが起きた際に非難声明を出すなどして対応しているが、それでは不十分だという。「医療従事者に拍手を送っているようなものだ」
サラー氏によると、国際社会で人権侵害などを監視し、責任を問うための仕組みを作る必要がある。
☞ハフタルによる軍事侵攻は終わる見込み
この数週間、ハフタル勢力は後進の動きを見せている。レッチャー氏によると、この裏には「トルコとロシアの間で、ハフタル勢力による侵攻を止めると同時に、GNAのこれ以上の前進を防ぐという共通の理解がある」という。両国の間で力の均衡が生まれている格好だ。
レッチャー氏は、昨年4月より続いてきたハフタル勢力の軍事侵攻が間もなく終わりを迎えると見ている。
だが、これからの動きは「予測が難しい」とのことだ。リビアの諸勢力がどの程度、外国の勢力を受け入れるかが不明だからだ。
☞解決には「リビアがリビアになるほかない」
問題の解決には何が必要なのか。
政治アナリスト、タレク・メゲレシ氏は、諸外国の動きが国の今後を大きく左右する状態を脱するためには「リビアがどこかの『従属国』ではなく、リビアになるほかない」と話す。
トルコやロシア、UAEなどが恐れるのは、対立する勢力の後ろ盾となる国がリビアに影響力を持つことだ。そのため、どの国も特別な力を持たないバランスの取れた状況が必要だという。
そのためには、人権侵害や戦争犯罪が不問に付されている状態を改善する必要があるとメゲレシ氏は言う。
今週は、リビア流の屋上でのイードの過ごし方のシェアで終わろうと思います。
イードとは、ラマダン空けのお祭りのこと。今年は世界的に新型コロナウイルスの影響もあり難しいところもあるようですが、イードは家族で集まって過ごすのが恒例です。ヨーロッパのクリスマスや、日本のお正月に近い感覚かもしれません。
手前に描かれているのは、リビアの民族衣装を身にまとった人びと。奥に見えるのはトリポリの街。海岸と右手に見える二つの高い建物がシンボルです。奥に見えるのはトリポリの街。海岸と右手に見える二つの高い建物がシンボルです。
リビアのユニセフでもシェアされていたこの絵は、同国出身のアーティスト、トゥルキーア・レイスさんの作品です。他にも素敵な作品をたくさんシェアしていらっしゃるので、ぜひTwitterをご覧ください。
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