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人はみんな他人に影響され、他人を模範しながら生きている。

人間が持つ欲望は他人から伝わってくるものであり、特定の事柄に対して欲望を抱いているわけではない、という説がある。
簡単に言うと、人は他人が欲しがっているものを自分も欲しがるということだ。

これはルネ・ジラールの「ミネシス(模範)理論」というものであり、ジラールは人間の欲望は模範的なもので、他人から影響を受けていると言う。
私たちは欲望は自然に湧いてくるものと思っているが、実際には人間の欲望はそうした自律的なものではなく、他人の欲望に由来している。
つまり、他人が何かを欲望しているからこそ、その欲望に影響を受けて私たちも欲望するのだと、ジラールは言う。

考えてみるとたしかに心当たりがいくつかある。何かを欲しいと思ったとき、その欲しいと思ったものは他人からの影響を受けて「欲しい」と思わされていることがよくある。
特に最近はSNSによって他人の持ち物や生活、体験などが可視化されているため、他人が何を欲しがっているのか、何を欲望しているのかがすぐにわかる。

他人が高級ブランドバッグを持っていれば、自分も新しいバッグが欲しくなってくる。
他人がおいしそうなものを食べていると、自分もたまにはご褒美としておいしいものが食べたくなる。
他人がかっこいい、かわいい髪型や服装をしていれば、自分も同じような恰好をしたくなる。

こうした欲望は他人によって自分の中に生まれるものであり、自律的に自分の中で生まれた欲望ではない。
何かを欲しいと思ったとき、何かを手にしたいと思ったとき、その欲望には「他人」が大きく関わっており、他人が存在しなければ欲望は生まれない。

少し極論だと感じると思うが、ひとつ思考実験をしてみよう。

もしこの地球上であなた一人しか存在しなかったとすれば、あなたは何を欲しがるだろうか?

自分しか存在しない世界の中で、あなたはブランドバッグや高級時計を欲しがるだろうか。
他人が存在せず、誰にも見せることも褒められることもないのに、あなたはおしゃれな服を着たり髪型をセットしたりするだろうか。

自分一人しか存在しない世界の中では、世の中のすべてのものが無価値になる。
そもそも世の中で価値があると言われているものは、他人が存在することでその価値を保っているものだ。
つまり、他人がいるからモノに価値が生まれ、価値が生まれることによって
欲望が生まれるのだ。

人は常にみんな影響しあっている。
自分の身近な人から知らない人まで、私たちは自分が思っている以上に他人の欲望に影響され、その欲望を模範して自分の欲望として扱っている。

では、どうすれば他人由来ではない、自分の真の欲望を知ることができるのか。
それはさきほどの例を想像してみればいい。
世界に自分ひとりしか存在しない中で、それでも何かを欲しいと思ったり、何かをしたいと思うのであれば、その欲望は他人ではなく自分由来の欲望だと言える。

たとえば、誰に見せるわけでもなく、ただ絵を描くことが好きな人は、自分自身の中に「絵を描きたい」という欲望を持っている。
誰に見られるわけでもないのにおしゃれな恰好をする人は、「かっこいい、かわいい自分でいたい」という欲望を自分の中に持っている。
ほかにも、他人が介在せずとも写真を撮りたい、歌を歌いたい、文章を書きたい、筋トレがしたい、ランニングがしたい、ゲームがしたいという欲望があるのなら、それらは他人由来ではなく自分の中に眠る真の欲望だと言えるだろう。

人間である以上、欲望が尽きることはない。
だが、その欲望の出所はしっかりチェックしておきたいところだ。
欲望の出所が他人になっている場合、あなたは人生の多くの時間を自分が本当に望んでいることではなく、他人由来の欲望を満たすことに夢中になってしまう。

他人由来の欲望は自分の真の欲望ではないので、一時的には満たされても心の底からの満足は感じられない。
どれだけ欲望を満たしてもどこか物足りず、すぐにまた別の欲望を探し、欲望を満たすことに執着するようになる。
こうなると欲望はどこまでいっても満たされず、人生の多くの時間を無駄にしてしまう。

心の満足は、自分の真の欲望を満たすことでしか得られないのだ。
現代は否が応でも、他人の生活や行動が目に入るようになっている。
そのせいで行動の基準が他人に影響され、次第に人の目が気になって仕方がなくなってしまう。

他人から影響を受けるのがダメなのではない。
他人の欲望を模範しているからといって、必ずしも不幸になるわけでもない。
だが、行動の軸や欲望の軸が他人にある状態では、自分が本当に望んでいるものを手に入れることはできないだろう。

今自分が欲しがっているものは、他人の欲望を模範しているものかもしれない。
今自分がやりたいと思っていることは、他人の行動に影響を受けているのかもしれない。

本当の自分の欲望を知り、うまく欲望を充足しながら生きていくためにも、常に欲望の由来が自分の中にあるかどうかを確認しておくべきだ。
もし欲望を満たしても満たしても心の満足が得られない、どこが寂しくて空虚だと感じるのであれば、その欲望はあなたが本当に望んでいるものでは可能性が高い。

現代社会は情報だけでなく欲望も氾濫している。
何も考えずに目の前の欲望を満たすのはやめよう。
自分に本当に必要な欲望だけを満たすようにすれば、今まで味わったことのない深い充足感があなたを包み込んでくれるだろう。


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