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私にふさわしいホテル/柚木麻子

小説家になりたい加代子が才能がありながらも、中々芽がでない。そんな加代子が紆余曲折あって売れっ子になるサクセスストーリー。そんな単純な説明では終わらせられないのが、この作品、いや、柚木麻衣子さんである。

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予想外というのか奇想天外な加代子に振り回されていく周りの人達。なんだか、なりふり構わず、自分の夢を追いかけ、叶えるために手段は選らばない。そんな加代子のパワフルさや執念に笑わしてもらいながらあっという間に読み切ってしまった。

実在する小説家やモデルとなった賞や場所がわかる描写も多く、フィクションであるものの、小説家の暴露本を読んでいるかのようなハラハラ、ドキドキ感。

加代子と大御所作家の東十条先生の嫌いながらも魂の底から惹かれてしまう関係や、美少女の作家、女優、同業者への嫉妬を隠しもせずに表してしまう加代子の人間臭さ、最高。

読み終わって余韻に浸っていると、ふと懐かしくなった。昔を連想させるような描写はないのに、何に懐かしさを感じたのか。なぜだろうと考える。

そうか。私は今の世の中のスマートさに寂しさを覚えていたのだ。良くも悪くも今はスマートすぎではないか。ただ自分がそういう環境にないだけなのか?何をするでもスマート。始まりも終わりもスマート。そんな世の中に慣れてしまっていた自分にとって、この作品の泥臭さ、登場人物の人間臭さ、執念、おごり、そんなものに猛烈に惹かれ、懐かしくなってしまったのだ。

人間臭さのなくなってしまった人間関係。もめごともなく「上手くやっている」けれども、スマートに生きすぎてしまってもよいのか。そんなことを思いながらワインを飲んだ。





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