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12/8の魔力〔歌詞論〕

注:本投稿は個人の嗜好によるもので、確立された理論に基づいたものではありません。妄想を多分に含んでいますが、僕のスキにお付き合い頂き、12/8をスキになってもらえたら嬉しいです(つまり布教です)

その曲はなんで好きなの?

同じアーティストのファンでも、お気に入りの曲は人によって違う。またR&B好きな人がポップスの曲に惹かれたり、ロック好きがアニソンに魅了されたりする。ゴリゴリのパンク好きが意外にもクラシックの曲を聴いていたりも。

アーティストやジャンルは分かりやすい縦割り。しかし曲っていうものは様々な次元で立体構造を作っている生き物なので、好き嫌いはあらゆる要素に左右されるものだ。
たとえばアップテンポ/スローテンポ(テンポ)メジャー調/マイナー調(調性)というのは曲の重要な骨子の1つで、この部分に嗜好が影響されることは多いと思う。もちろんそれだけではない。

音楽の三要素は、リズム、メロディー、ハーモニーと言われる。ここに音色(声や楽器)やアーティキュレーション、ニュアンスなどといった様々な要素が絡み合って曲は出来上がっている。自分はどういう要素に「グッとくるか?」ということをよく考える。

歌メインのポップスなどの場合、メロディはどうしてもリズムやハーモニーに依存する。歌詞を乗せて歌うためのメロディーには制約が付くからだ。聞き取りやすい音符の数は決まっているし、古くからの型があったりもする。心地よさや感動を生みやすいメロディーというものはある程度決まってくるものだ。

8分の12拍子とは

今日お話しするのは12/8すなわち「8分の12拍子」について。「拍子」はリズムに分類される要素だ。
ポップスやロック、R&Bなど、私たちに馴染みの深い曲の多くは4/4「4分の4拍子」で出来ている。あらゆるテンポに対応できる万能選手。身近な曲を思い浮かべて手を叩いてみよう。

|タン/タン/タン/タン|

はいOK!

ではさっそく本題。12/8は僕の心を掴んで離さないリズムだ。曲数は多くはないものの、さほど珍しいものでもない。12/8の場合は、1小節のあいだに8分音符を12回叩くのでこうなる。

|タタタ/タタタ/タタタ/タタタ|

「はい先生!こういう風にも叩けませんか?」

|ターン/ターン/ターン/ターン|

よく考えました。8分音符3つ分を1つとして4拍打つと12/8になるのです。1拍の中に3つ細かい拍があるので、この拍子をとる歌曲は自ずとミディアム〜スローテンポになります。

浜崎あゆみの場合

手始めに、1曲聞いてみましょう。分かりやすいものから。
浜崎あゆみさんの「NEVER EVER」のサビ(動画0:55)。ちなみにメロは6/8拍子という別のリズムなのでご注意を。

もしも/たった/ひとつ/だけね|
がいが/かなう/ならー/ーーー|

単純なメロディーライン・素朴な歌詞だけど、「もしも」「たった」「ひとつ」「かなう」などの3音節を歌うのに12/8を見事に活用している。単純だからこそ脳に刻まれやすい。また「しも・った・とつ・けね」と、拍の頭にアクセントを置いて歌うことで、切実さも伝わってくる。3音節語を大事に歌うことができるのが、12/8の大きな魅力だ。

ポルノグラフィティの場合

では次。ポルノグラフィティで「渦」(動画1:31)

・・・/あーな/たーを/おーー|
もーう/ーーー/あまり/ーよご|
とーー/・ぼく/をーー/・さそ|
うーー

ここでもう一つ応用。先ほどの「ターン×4」から発展して、
|タータ/タータ/タータ/タータ|
というリズム。また
・タタ/ターー/・タタ/ターー
いうフレーズ。

このようなパターンを用いると、伸ばされた母音がかなり強調される(ボインが強調されると読まないようにキリッ!)。
「あなたをおもう」が「ああたあおおおもおうううう」に変わる。

MVを見てもらうと分かるのだが、サビを歌ってる最中の昭仁の口はほとんどが「a」か「o」の形をしている。飲み込まれる人の喘ぎ「a」、そして渦音や地響きのような「o」が、繰り返され絡み合い、感情と音の渦が見事に出来上がっている。これもまた母音を重視させる12/8の所業なのだ。

椎名林檎の場合

そろそろ天才にご登場いただきましょう。
椎名林檎「罪と罰」冒頭のサビ(0:30)より

            ほぉお|
おーー/ーーを/さっす/ーーー|
あさの/やまて/どおり/ーーー|
・たば/このあ/きばこ/をすて|
るーー

ここで大事なフレーズが登場します。「刺す」、ここでは「さっす」です。
ここのリズムは「タタタ」「ターン」「タータ」のいずれでもなく、「タッタ」です。

|タッタ・タッタ・タッタ・タッタ|

というリズムの型があります。連続する2つの音のうち、初めの音を長くとり、ふたつ目を短くとる。「シャッフル」とか「スウィング」とか言いますが、それと似ています。ジャズやブルースで用いられることの多いリズムです。
疾走感や軽快な雰囲気、またメリハリを出す効果があります。

だから「罪と罰」では

ほぉおおーーーーをさっすーーー

「o」音の伸ばしからの「さっす」。
語意で刺すのではない、リズムで刺してくる。
これに続いて、

「朝の」「山手」「通り」

3音節語を大事に歌い上げます。
と思ったら

・たば/このあ/きばこ/をすて/る
(煙草の空き箱を捨てる)

音節の区切れと意味の区切れをずらしてきます。なんかグチャグチャしていて雑にゴミを捨てる感じが出ている。
このメロディーの部分は繰り返しの

・こべ/やがこ/どくを/あまや/かーす
(小部屋が孤独を甘やかす)

でも同様にずらされています。雑然とした部屋が目に浮かぶよう。椎名林檎さんは細部に耳にひっかける要素を散りばめてくる。

「罪と罰」は12/8にできる表現を使い尽くした怪物級の名曲だと思う。

8分の12拍子のまとめ

・3音節語を大事に歌える
・母音を強調するフレーズを作れる
・ジャズやブルースのようにリズムにアクセントを加える

の3点について述べてきた。
で、何をこんな熱く語ってるのか?と問われるかもしれないが、実はすごく大事なことなんじゃないかと思っている。

3音節単語を1拍に入れる場合、12/8の場合はそのまま8分音符を3つ連ねれば良いだけだ。「たばこ」のように。しかし4/4の場合は16分音符を用いて「たばーこ」「たーばこ」「たばこー」のようにしなくてはならなくなる。良くて「・たばこ」というパターン。
単語は同じはずなのに曲の中ではどうしても語感が変わってきてしまう。すんなりと脳に入っていかない場合があるのだ。
加えて言うと、3音節単語は日本語には非常に多い。

8分の12拍子には日本語の「語り」に親和性の高い、内のリズムを感じる。歌詞の言葉に歪みを生まない包容力がある。
もちろんこれは私論で、日本に古来からあると言われる民謡リズムの話とは無関係だ。僕個人が現代歌謡曲を聞いてそう思っているだけ。

布教

では最後に聞いてください。
やなぎなぎ「宝石の生まれるとき」

この曲の魅力を語るには、バックのピアノについてもお話ししなくてはならないので、紙面の関係で筆を置く。とにかく、流れるような旋律、煌びやかさ、かつ温かみのある名曲なので、、、聞け。

これを宣伝したかったわけじゃありません。12/8が本当に好きなんです!! では。


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