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RIPPLE〔詩〕

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2020年6月の記事一覧

柄【詩】

柄【詩】

  「柄」

  見えない刺青をなぞった

  それは

  暗い日にはびこる藻が

  薄づけに染めた絵柄だった

  つまらない

  鯔背なふりをして

  脱ぎっぱなしのシャツの褥へ

  古い街の外れで

  独り花火を見上げていた男妾と

  共に臥す

  俺はまだ明日の風邪をひくらしい



四行詩 26.

四行詩 26.

 無関係な人々の願いばかりが結実する

 時速130キロの眩暈 出来合いの疾風怒濤に

 倦むことなく 世界の縫い目の揺れをひとりで

 愉しむ男の微笑はきっと 一冊の本に求愛する



喫差【詩】

喫差【詩】

 「喫差」

 グラス底のオレンジピール

 へだてられた冷たさで

 おもわず頬を鎮めてしまい

 刹那

 キミの視線が

 いちばん冷たかったのに

 その明眸の熱にまた上気して

 真夏日のせいにする

 イヤだな

 隔絶された冷たさ

 閉じ込められた橙よ

 燃えないことを

 知っている恋

*明眸(めいぼう)美しく澄んだ瞳



柄杓のなかの時間【詩的散文】

柄杓のなかの時間【詩的散文】

 霞がかった月の光を、ゆらりゆらりと柄杓ですくう。おもむろに晴れていく夜空。

 ふいに星に付箋を貼りたくなった。ぼくはいったん書斎に戻り、雑貨屋のビニール袋をあける。数年前に流行ったキャラクターのまだ新品の付箋。この日をまちわびていたかのような。

「指紋だけでいいよね?」
 付箋の角がかすかに頷く。十年前の星の輝きに、十年先に生きているかも分からないぼくの標など、付けていったい何になるだろうか

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