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柄杓のなかの時間【詩的散文】

 霞がかった月の光を、ゆらりゆらりと柄杓ですくう。おもむろに晴れていく夜空。

 ふいに星に付箋を貼りたくなった。ぼくはいったん書斎に戻り、雑貨屋のビニール袋をあける。数年前に流行ったキャラクターのまだ新品の付箋。この日をまちわびていたかのような。

「指紋だけでいいよね?」
 付箋の角がかすかに頷く。十年前の星の輝きに、十年先に生きているかも分からないぼくの標など、付けていったい何になるだろうか。足元にひとりごちる。
「手垢みたいなものさ人生なんて」

 星空の下に戻ると、瞬きがますます栄える。柄杓一杯の月の光で、手垢を濯ぐような、はたまた感光させるような……手水。

 感触がきみの掌によく似ていた。それは口に含む前に、指の隙間をこぼれていく。
 時間を睨みつけると、燦然と返された無数の笑顔の中心にきみがいた。

 ぼくの負けです

 付箋は突然の風に吹かれて、夜空にアトランダムの標をつけては、銀河の渦に飲まれていった。

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