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矢口れんと
2019年5月28日 11:42
海を望む小さな書店で運命的に出会った人。イヤイヤ連れていかれたダンスフロアーで、忘我の渦に舞っていた人。もし、同じ木の同じ花の同じ蜜から産まれ出たなら……わたしだって、どこかへ行けそうだ。そこで誰かになれそうだ。友であるつむじ風にまかせて、いつか燃え尽きた灰を集めて。
2019年5月22日 11:29
霞みがかった山々から、優しい笛の音が降りてきた。木々や民家の、そして住宅やビルの合間を縫って、宙に大地に充ち満ちていた。湿度のように気圧のように、太古から僕らを包みながらも、いまだ名の付かぬ音がある。光り、香る、甘い滑らかな音よ。取り戻そうか、名を呼ばなくとも感じられる身を。
2019年5月20日 12:36
衛星のごとき白き雲が降りてきて、もみの木に突き刺さろうとしていた。潰されるのか、大爆発か。いずれにせよ無事では済まないだろう。君ならどんな結末を望む?ごめんね僕は離せないんだ。木にしがみつく泣き虫の手も、君の手を握る弱虫の手も。
2019年5月16日 12:02
小雨を降らすに飽きた雲が散る散った子どもらはまた群れる空と大地の緩い法則雲がまた群れる子らは散らない雷鳴に呼応して騒ぐ椋鳥冷めた夕風に脱力する蝶被造物としての正しさかの人が身を潜めればうねりはじめる価値の色合いようやく取り戻せそうだねこの小汚いワンルームへと愛する人よ、ちっぽけな人よ (出番だ)ああ、また光が射してきたいつ
2019年5月8日 18:02
飾り気のない鉢植えに舞い降りて散った花を見たくてきっとまた見たかったからカーテンの前と机の上を何度も往復させていた あなたは陽の射す時間示す砂時計の 落ちきる最期の一粒さえも惜しむみたいによれたシーツと転がったままの わたしはえらいね ともムダだね とも言えなくて ただ口を開いたらつい 好きだ と飛び出してしまったあの日 窓からデネブを目指した
2019年5月5日 06:16
古びた部屋の隠された棚コップに挿した一輪の野草枯れない、枯れた花の声に耳を澄ませてみるといい「水を替えてください」ーもう咲かないのに?ー軽く花瓶を指で弾けば鈍い音に重なる錆びた僕の声突如、差し込んだ春の陽光心を揺らす陽炎が立つ踏みにじられた想い溢れて僕はひざをつくうずくまる誓うこの花は捨てない