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人生の調子がいい時のアドバイスは、勢い余って暴力になることもある

会議の時間が迫り、準備に追われて久しぶりにランチを食べ損ねた午後、スマホがメッセージの到着を知らせた。
通知にはここ数年連絡を取っていない大学時代の先輩の名前。
急に連絡してくるなんてどうしたのだろうとメッセージを開くと、外出自粛で暇してるから話したいという内容だった。
特別仲が良かったという訳でもないが、近況も気になったのでその日の夜電話することにした。
彼ときちんと話すのは卒業以来だと思う。
数年ぶりに聞いた声は相変わらず元気そうで、大学時代を思い出して懐かしくなった。

先輩ではあるが、大学院に進学した彼と学部卒の私では、私の方が少しだけ社会に出るのが早かった。
新しい環境で苦戦しているであろう先輩の愚痴でも聞いてあげようかと思っていたのだが、どうもそのような雰囲気ではないらしい。
聞いてみると私と同じ業界で働いていて、尊敬できる先輩について勉強しながら、とても充実した生活をしているとのこと。
比較的ハードな業界でやりがいを持って働けているなら、それに越したことはない。
活き活きと仕事の話をする先輩に何となく相槌を打っていると、今度は私の話になった。
大変だけど何とかやってますよ、みたいな返答をしたように思うが、私が同業者だと知ると突然「あれ?バリバリ仕事するようなタイプだっけ?」と驚いたように言う。
大学時代の私はあまり仕事ができるタイプには見えなかったようだ。
ちょっと(失礼な!)と思ったものの、そこまで親しいわけではなかったし、彼にとって私はそう見えていたのかと受け流したのだが、そこから何やら怪しいセミナーのような話が始まった。

「話聞いてて思ったんだけど、人生この程度でいいやとか思ってない?」
「もっと貪欲に求めていった方がいいよ。」
「人生の多くの時間を仕事に使うんだから、もっとワクワクした方がいいと思う。」

…といったような言葉が次から次へと飛んできて、結構充実していると思っていた私の生活は、あっという間に社会に疲れたOLの諦め人生にされてしまった。
このまま何か売りつけられるのでは?と疑いたくなる勢いだった

そこまで言われるとさすがに私も黙ってはいられない。
仕事だけがすべてではないし、趣味が多い私は自分の時間も大切にしたい。
もちろん忙しい時は徹夜で仕事をすることもあるし、熱く議論を交わすことだってある。
やりがいを求めて転職だってしたし、努力して評価もしてもらっている。
その分収入も満足のいくものだ。
決して人生を諦めてはいないし、無欲どころか欲深い方だと思う。
けれどここまで説明しても、エンジン全開の先輩は納得できない様子で、そのまま30分程もっと人生を楽しむべきだ、君は人生損してるといったようなことを喋り続け、突然「俺この後予定あるんだ」といってセミナーは終了した。
2020年で1番ムカついて、1番悔しくて悲しかった出来事だと思う。
3日間は思い出してイライラした。
向上心が足りない、全然頑張っていない、とこれまでの努力を全否定されたような気がした。
どうして私の人生にたった数時間登場した程度の相手に、損だ諦めだと言われなきゃいけないんだ。
まるごと記憶から消してしまいたい出来事だった。

でも落ち着いてから振り返ると、先輩みたいな人生の調子が良い時期は誰にでもあって、たぶん私にもあったと思う。
新人として四苦八苦しながらも出来る事がどんどん増えた時期。
努力した分だけ身について、できるオトナになったような気がする時期が。
まるでスーパースターをゲットしたマリオのようだ。
無敵モードのマリオは敵にぶつかっても傷つくことはない。けれどぶつかった相手は大ダメージだ。

翌朝、先輩からおすすめの自己啓発本の写真が送られてきた。
「読んだら感想教えて!」というメッセージ付きで。
これは買う前提なのか…絶好調だな…とそっと画面を閉じた。
しばらくしたら彼も冷静になって、壁にぶつかって勢いを失ったり、敵に吹き飛ばされたりする時がくるだろう。
その時がきたら、調子が良い時のアドバイスが誰かにとっては暴力だったりするのだと気付いて欲しい。

無敵マリオは時間制限付きなのだから。

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