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檸檬読書記録 『井上ひさし歌詞集 だけどぼくらはくじけない』

今日の本は

井上ひさし『井上ひさし歌詞集 だけどぼくらはくじけない』

井上ひさしさんが手がけた歌詞を集めた本。

正直、この本に載っている歌詞の中で、知っているのは3つだけだった。
1番有名な「ひょっこりひょうたん島」。
「ねんねこころり」という子守唄。そして「ひみつのアッコちゃん」のテーマソング。
(自分は「ねんねこころり」も「ひみつのアッコちゃん」も、
「ねんねこころり おころりよ
   坊やはよい子だ ねんねしな」
の部分と
「それはだあれ それはひみつ
   ひみつひみつ
   ひみつのアッコちゃん」
の部分しか知らなかったから、他の部分はこういう歌詞だったのかと知れたのも興味深かった)
そしてどれも井上さんが作っていたとは知らなかった。これらの歌が同一人物のものだったというのも驚き。
それほど、多種多彩だった。


全て歌になっているからか、どれもリズミカルでメロディは分からないまでも、読んでいて楽しい気分になった。
反対にメロディが分からないからか、言葉に集中出来て、歌詞というよりも詩のように感じられた。
特に「幸せはレインコート」という歌詞。

「とり急ぎ
   この手紙をしたためます
   突然
   お別れしましたが、
   きっと
   幸せをつかんでください。
   幸せはレインコート
   雨が降ったらかぶろうよ
   幸せはコッペパン
   ひもじいときは食べようよ
   (略)
   幸せはハンカチーフ
   涙を拭おうよ
   きっと
   幸せをつかんでください
   (略)」

幸せはそこら中に転がっている、そう教えてくれているような素敵な歌だなと思った。
「きっと  幸せをつかんでください」という部分がまた良い。こんな手紙が届いたら、きっと幸せだろうな。


歌詞集の中で、知らないけれど驚いたのは「さよならムーミン」という歌だった。ムーミンの歌まで作っていたのかと関心してしまった。
ムーミン好きとしては、嬉しい驚き。(ムーミンの中で、個人的にはニョロニョロが1番好き。あの何考えてるのか分からない感じが堪らない。いや、本当に何も考えていないのか?(いや、そもそもどうでもいい話だな))

ムーミンが好きというだけでなく、素敵なのでとりあえず全文。

「さよならムーミン さよなら友だち
   ぼくは もう大人
   きみとはもう つきあいきれない

   きみの住む谷間は たしかに美しい
   ぼくの住む世界の みにくさにくらべれば

   きみの住む谷間は 仕合せがいっぱい
   ぼくの住む世界は 不仕合せがいっぱい

   だけどきみ 谷間から見ていてくれたまえ
   ぼくのムーミン谷を 必ず作る

   その日までさらば いつかまた逢おう
   その日までさよなら きっとまた逢おう

   さよならムーミン さよなら友だち
   ぼくは もう大人
   きみとはもう お別れしよう」

前に進もうとする、夢から現実に向かおうとする、切ないようで輝かしいような、勇気をもらえるような歌だなと思った。

現実は、夢のような世界とはまるで違う。楽しいことや素晴らしいこともあるけれど、それだけではない。同じくらいに辛いことや苦しいことに満ちている。
それでも夢から出て、夢ではない現実で自分の居場所を見つけて、しっかり地に足をつけようとしている歌詞に、とても感銘を受けた。

他の人が作った世界は、とても綺麗で良く見える。仕合せそうに見える。
だけど、やはり自分が作り出した場所こそが、本当の仕合せであり、お別れして自分の場所を自分で作っていくことが、大事なのかもしれない。


もう1つ、個人的に1番衝撃を受けたのが「ことば・ことば・ことば」という歌詞。

「ことば・ことば・ことば
   ことばには どくがある
   たったひとつの ことばが
   蝮のどくよりも よくきく
   下総じゅうの どく蝮も
   ことばのどくの 敵ではない
   ことば・ことば・ことば
   ことばには どくがある
   (略) 」

「ことばには どくがある」
このストレートさに、頭をガツンとやられた。
自分は、言葉が好きだ。特に日本語は、綺麗で色んな可能性を秘めていて、興味が尽きない。
だが反面、とても鋭い凶器にもなると思っている。それは日本語だけでなく、全ての言語、言葉に秘められていると思う。
そして言葉は、毒のように目に見えない。吐き出してしまったら、中から出すことも戻すこともできない。
だからこそ、よくよく考えてことばにしなくてはいけないなあと思わされた。
「ことばには  どくがある」
それを常に知っていなくてはいけないと思った。


この本は、歌となったら見ることや感じることがなかったであろうものを教えてくれた気がした。
今の時代、言葉や歌詞よりもメロディを重視してしまいがちだけれど、(いや、自分だけかな?)1度歌詞に目を向けて、文字になったものを読んでみるのも面白いのかもしれないなと思った。


最後に「ひょっこりひょうたん島」

「なみをジャブジャブ
   ジャブジャブかきわけて
   (略)
   ひょうたん島はどこへ行く
   ぼくらを乗せてどこへ行く

   丸い地球の水平線に
   なにかがきっと待っている
   苦しいこともあるだろさ
   悲しいこともあるだろさ
   だけどぼくらはくじけない
   泣くのはいやだ笑っちゃおう
   進め、」


この本を読んでからというものの、ずっと「ひょっこりひょうたん島 ひょっこりひょうたん島」のフレーズが頭の中で流れている。
けれども気分が明るくなる、いい歌だなあと改めて思わされた。出てきた歌詞の中で、1番好きかもしれない。

「ひょっこりひょうたん島 ひょっこりひょうたん島」と口ずさみつつ、今回は閉じようと思います。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。
ではでは。



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