見出し画像

第1回文芸実践会・短歌:テーマ「時計」 | 活動報告

「文芸実践会」とは :
京都芸術大学の通信・文芸コース有志メンバーで発足したグループです。さまざまな文芸に楽しく初歩から触れる機会としつつ、皆が作品を持ち寄り批評し合うことによって、文芸作品や自身の作品への見る目を養い、さらなる表現力をつけていこうという目標があります。

今回は記念すべき第1回として、本校3回生であり歌人でもある田村穂隆さんの企画・進行のもと、短歌の歌会を開催しました。

事前に提出いただいた11首をメンバーが批評し、本人が作品の意図について説明をします。今回のテーマは「時計」です。


閃光で時計止まりし葉月かな 止まぬ戦火に鶴折り祈る

是酔:原爆の歌とすぐに分かったが余韻があり、怖さを感じない。読み手の優しい人柄が滲み出ている。<止まる時計>と<止まらない戦争>の対比がよく、「鶴折り祈る」のリズム感もいい。
Elle:単語選びがかっこいい! 古風で日本風。自分は海外生活が長く日本文化が背景にないので、使用されている単語から戦争に関連しているとは察したが、何の戦争かすぐには分からなかった。「広島の原爆の話をしている」と分かったときに良い短歌だなとしみじみ感じた。
秋:この会唯一の社会派短歌だった。「折る」「祈る」似た漢字を重ねるのは避けてしまいがちだが、あえて用いているのが挑戦的でよかった。
田村:「時計が止まる」「閃光」「葉月」で原爆、「鶴折り」で平和を願っていることがわかる。アドバイスとしては、「閃光で」の「で」は普通の文章になってしまう助詞なので「閃光に」にするのもよい。「かな」はニュアンスが少しずれるかも。「祈る」という言葉は入れなくても祈りと通じるため、読者に想像させてもOK。

作者:月見里 望
「閃光に」「閃光で」迷った。現代だと「で」かと思った。短歌初挑戦で斬新なことができない中で、広島に住んでいること、知り合いの子をつれて資料館で8:15で止まった時計を見たことから、題材に選んだ。戦争の終わりと原爆を表すために「葉月」を入れ、終わった戦争といまだに戦火がやまない現実を対比させたかった。「折り祈る」は文字で印象づけの意図があった。


星を読み 告げた鐘音 忘却に 多忙に灯る電子となりて

川辺:「時計」という存在の変遷、歴史を感じた。「忘却に」が印象的、どうしてここに入れたのか意図を知りたい。
月見里:格好いい。韻や言葉選びが真似できない。「星を読み」は季節を読み「鐘音」が時を告げていたのが電子になったのか。今は仕事に忙殺されているという意味もあるのかなと思った。全体的に深い意図がありそう。
うい:格好いいが、どのへんが時計かあまりわからなかった。鐘の音と電子の繋がりが分かりにくかった。
じぇーん:「星を読み」は占いか。鐘の音はチャイムのことも言え、職場や学校、お寺では時刻を鐘で知ることもあるが、プライベートは電子で確認することが多いかもと思った。
田村:言葉の選び方、「なりて」など格好いい。「多忙」は現実感がとても強く、浮いているかも。「鐘音」はルビがほしい。一字空けはこの3つでよかったのか議論の余地があるかも。もう少し具体的な情報がほしいと思う読者もいると思うので、増やしたり減らしたりして挑戦してみてほしい。

作者:是酔 芙蓉
「星を読み」は実は歌に関係ない。平安時代は陰陽師が時間管理(1日8回鐘を鳴らしていた)して、その時代はのんびりしていた。現代の忙しさを「忘却」「多忙」で表現し、「星」「電子」は明かりの対比を意図した。皆のいろんな見方が知れて面白かった。


秒針はなにをさす針 刺すのではなく縫うのよと野太い声が

月見里:はじめ意味が分からなかった。秒針を「さす」という認識がなかった。試験や受験では1秒に「刺される」感覚があるため、親や自分の中の応援する「野太い」声が時間を縫うのよといっているのかと思った。
じぇーん:意味をあまり汲み取れなかった。点から線になっていくイメージを持った。「野太い声が」で背景に興味がそそられた。デジタルで秒針がないことが多いので懐かしさも感じた。
川辺:すごく好き。時間は縫うものという意味なのか。「さす」「刺す」がひらがなと漢字なので、子と親(祖父母)というような印象を受け、情景が浮かんだ。
是酔:中島みゆきの「糸」の歌を思い出した。時間=布のイメージ?

作者:田村穂隆
別の歌会でも提出したもの。2つの歌会で読みの違いがあっておもしろかった。秒針→針→お裁縫という感じで連想したときに、時間という抽象的なものが布みたいに思えておもしろかったので、その発想から歌を作った。


最果てまで針を進めて失った 誰彼消えて砂漠のきみと

みずたま:「失った」「消えて」から全体的に寂しげな印象だったが、「君」は失っていないという救いを感じた。「針を進めて」なのでアナログを感じたが、砂漠という言葉から砂時計を連想した。
めとせら:「最果て」や「砂漠」などダイナミックな言葉を使い、全体的に暗い印象を感じる歌だなと思ったが、最後の「砂漠のきみと」で「きみ」という希望の光がそこに差したような雰囲気を感じた。とても好きな歌でした!
鳳陽:世界の終わりをイメージしていそう、最後は砂漠になりがちなので。そこに2人だけで立ってる、美しい情景を感じた。
秋:「最果て」「誰彼」の印象からすべてを失ったように感じたが、下の句に「君」が出たので混乱した。「なにを」「どこで」失ったのか分からなかった。
田村:「君」の特別性を感じる。「~と」の表現が、「君と一緒に砂漠に立っている」という意味を表していて巧み。ファンタジー短歌だと、井辻朱美と佐藤弓生が参考になるのでぜひ。

作者:川辺せい
時計がなくなった世界で2人ぼっちになったシーン。上の句と下の句のギャップはたしかにあるかも。単語のダイナミックさは意図して使用した。抽象的になりすぎて、なにが言いたいかわからなかったかも。


おめでとう手首で気付く誕生日ありがたいやらわすれたいやら

うい:Apple Watchかな。メッセージがきて誕生日に気づいた大人?  誕生日祝われるのが嬉しくないという感情自体はあまり共感はできなかった。全体的に難しい言葉を使っていなくて優しい短歌。
秋:1番分かりやすかった! 一字空けがないのは意図的か。おめでとうと手首の間は空けてもいいかも。「おめでとう手首」かと思っちゃった。
みずたま:情景がすぐに浮かんで、共感もできた。大人になるとこんな感情を持つので。
田村:「手首で気づく」が巧み。気づいていなかったことから、感情や忙しさなどの背景も見えてくる。おめでとうは、一字空けもそうだけど「」でもよかったかも。575と77の間は自然に広くなるので、他の部分はこのままでも自然。

作者:じぇーん
初心者のため、分かりやすくしか作れなかった。自分は、自分に対しても他人に対しても誕生日に対する大切度合いが小さい。年齢的なものと、他人を祝うプレッシャーの両方の気持ちを入れている。一字空けをしなかったのは棒読み感を出したかったため。


透明に月の面影揺らぐなら こんじきの針どうか進むな

川辺:「透明」「こんじき」色の表現が印象的。恋の歌のようなロマンを感じた。「透明」は水面かと思ったが、なぜ透明にしたのか聞きたい。
是酔:「こんじき」は月の満ち欠けを時計に言い表してるのか。はっきりしない毎日なら時間よ止まれという意味に思えた。「進むな」ははっきりとした口調でどきっとした。
鳳陽:恋の歌だと思った。潜在意識と顕在意識を表し、誰かに他する恋が揺らいでいるけど、だんだん強まっている様子や、無意識的にどんどん好きになっている自分の葛藤を表しているのかなと思った。
田村:「透明に」は水面と読むことが多いが、もしそうなら「水面」でもよかったかも。「面影」の単語選びは表現意図にかかってくる。一字空けも推敲のポイント。

作者:うい
高校のときにカラオケ行っていたときに遅くなってしまい、早く帰らなきゃ、というシーン。透明は腕時計のガラス面を表している。皆の読みが格好よかったのでそちらの意味にします!


石畳 二十三時にうつる影 鍵の在処と青き月の音

秋:ファンタジーっぽい雰囲気を感じた。家の前で鍵を探している場面か。主語や目的語がなく、単語が独立しているため分かりにくい。23時ってなんの時間かぱっとしないため、意図が聞きたい。
Elle:同じ経験で短歌をつくるなら真似できない単語が多く、よかった。実体験をストーリー化したかったのかな。SVOがほしい。影や月の正体があまり分からなかった。
是酔:月の光の影だと思うので、家に光がなく、孤独を感じる。しっとりとしていていい歌。
田村:単語の選び方に美意識がある。<鍵の在処>と<青き月の音>は対比かな。情報量が多かったため、イメージが拡散したかも。優先度の低い情報を抜いて説明を入れてもよいと思う。(作者意図を聞いて)10首くらいできそう! ぜひ連作をつくってください!

作者:みずたま
3つ意味が入っている。①残業後の家の前の石畳が月の光で照らされていた(手元も照らされていたのですぐ鍵を探せた)。空を見上げたら綺麗な満月で、写真を撮ったら月が青く写った。②その時期、23時より早いと玄関は照らしていないため時計のような認識を持った。③青い月を見たくて、家にいても23時に玄関を開けるようになった。月の音は目覚まし時計のような感覚。


カステラの上で舞う猫たちのステップに誘われて 三時のおやつ

じぇーん:CMが浮かんでうきうきして、懐かしくなった。「舞う猫」は踊る、ではない表現からしなやかさを感じた。
めとせら:すぐに文明堂のキャラクターが浮かんだ。「カステラの上で舞う」という表現がかわいらしくていい。「三時のおやつ」というのも文明堂の歌の歌詞になぞらえているのかな、とわくわくしながら考えることができて楽しかった!
川辺:「舞う」のワードがすごい。私でも「踊る」にしてしまう。おやつが食べたくなる短歌。
田村:555557の破調になっている。最後が7音におさまっているのでちゃんと短歌っぽくなっており、巧み。現実的なイメージではなくアニメーションで伝わってくる、CMを知らなくても楽しめる短歌だった。

作者:Elle
すごくドキドキしながら提出した。文明堂のカステラのCMを見て自然と「舞う」だなと思った。カステラの匂いにつられているイメージで作った。


深夜二時 鎖骨に頬寄せ聞いている 秒針音と寝息のソナチネ

みずたま:情景が浮かぶ綺麗な言葉運び。時間の流れを静かに楽しんでいるイメージ。深夜の静寂、ひんやりとした空気感も感じた。「寝息」は誰の寝息なのか。時間を具体的に示しているので、机に伏してラジオを聴いている場面を想像した。
鳳陽:綺麗な歌、1番すき。分かりやすくて色っぽい。愛しい人の「寝息」だと思った。一緒に寝ていて相手の鎖骨に頬を寄せていて、自分にとっての心地よさが「ソナチネ」なのか。
じぇーん:好きな人の鎖骨に頬寄せているのでは。1回目に読んだときは幸せを感じたが、2回目に読んだら少し悲しさを感じた。相手は寝てしまっている寂しさか。
田村:秒針音は心音では。「鎖骨」という具体的身体部位の提示が色っぽい。全体的なトーンが不穏。読んで美味しい読み方がいろいろある。「鎖骨に頬寄せ」「寝息のソナチネ」の字余りは少し窮屈かも。最後は7音で締めるとまとまりがよくなる。

作者:秋
夫が先に眠っており、寝息をそっと聴いている時に考えたものだが、いろんな読み方をされたかった。パートナーでも母娘や自分自身でも合っている。自分が寝る深夜二時には彼が寝ているので、寂しさもある。秒針音=心音という解釈は素敵だったので、そういうことにさせてください!


15時になると中から腸や胃が飛び出すタイプの街のシンボル

鳳陽:解釈が難しい。街の時計台を想像した。15時はおやつの時間なので、子供が集まっている場所を連想した。
秋:時計台へのアイロニーか。「街のシンボル」から、街へのマイナスの感情があるのかも。皆が愛すべきシンボルが自分にはグロテスクなものに見えてしまうのか。
Elle:インパクトが強すぎて、皮肉的なイメージなのかなと思った。子供のときのトラウマで、不愉快だったのかも。
田村:時計台かと。からくりを腸や胃と言っており、感受性が表れていてよい。「街のシンボル」といっているのでこの人が街に対して抱いている印象も感じられる。「怖い短歌はいい短歌」(穂村弘)と言われるので、今後もいい短歌が生まれてくるのでは。

作者:めとせら
この歌に本当に深い意味はなく、そのままの意味でこんな時計が街中にあったら気持ち悪いだろうなという気持ちで詠んだ。シンボルとなるようなからくり時計がある普通の街なのに、その時計だけがグロテスクな雰囲気を放っている光景を頭に浮かべながら作った。


時の音の心地の良さに溺れてく 闇夜に落とす我が身の重さ

是酔:いい意味と悪い意味を浮かべる。自殺っぽくもあるけど、心地の良さが合わない。妊娠かとも思った。
うい:とても眠いときに秒針の音を聞きながら眠るという、1番気持ちのよいときの歌かと思った。
みずたま:目覚まし時計がなっている中、深く眠っている場面をイメージした。言葉だけだとダークな印象を持つが、歌の意味としては心地よさや眠りの深さを感じた。
田村:下の句はダークな感じと気持ちの良さが混在している。「落とす」が能動的で、自分から眠りにいこうとしている印象。「時の音」が抽象的。「心地の良さ」は自分の言葉(「柔らかさ」などの感触)で表すと読みが広がって豊かになる。「溺れてく」が口語的な表現で軽いので、全体的な重さ軽さのバランスを考えて推敲しても。溺れていく、でもいいかも。(作者意図を聞いて)ダークさは意図していなくても「闇夜」のワードの印象は活かしてもよいかも。

作者:凰陽晶
眠い時に思っていることをそのまま短歌にした。理想の眠り方、夜の過ごし方。とても忙しくて秒針音を聴いているひまもないので、聴いていると心地よく幸せに思う。57577を入れないといけないと思っており、文字数にはまる言葉を考えたらこの言葉選びになった。「落ちる」でもよかったかも。


感想

・同じ言葉でもニュアンスが違うなど、学べてよかった
・普段自分で創作していても改善点をもらえないので、有意義だった
・新鮮な発見だらけで楽しめた
・短文でこんなに意味を込められるんだと思った
・短い文章に詰め込むのは楽しい。何回もやって慣れたい

おまけ

皆さんの未提出短歌も公開!

時計から花のかおりがするような待合室へ秋のひかりは
時間から逃げることなどできなくてまばたきみたいな秒針の音
こわれる、と思った いくら全身にちからをいれても時間はとまらない
秒針に空が破れて赤くなるさみしさをこれ以上どう言えば

田村穂隆

祈りこめ まわす竜頭(りゅうず)に目を覚ます 機械の鼓動とまらぬ情動

月見里望

6億遍 刻んだ針は変わらず回る君との時間に終わりを告げて

是酔芙蓉

目が合って針が止まって見えるたび 忘れてしまうなんと言おうか
ストップ! 秒針の呼吸 クロノスタシスきみは知ってた?
聞こえないチクタクの音 ネジを回すきみがいない酩酊のあと

川辺せい

開かぬ窓眺めるこどもは待っている もう鳴かないよ留守にしてるの
目に映るしろがねの輪とやわい隙針よ止まれと掴むので負け

うい

十二時の足音近づくお昼前 ぐぅ〜と鳴るのはどこからか
心音と時計の音が交じり合う その沈黙が心地良い
忙しい毎日にこそ忘れたい 時計見ながら動く癖

凰陽晶

「仕方ない」今日も誰かが呟いて世界終末時計は進む
深夜二時退勤打刻仕事部屋秒針音響余韻嫋嫋

じぇーんさんの短歌(おめでとう手首で気付く誕生日ありがたいやらわすれたいやら)に関するエッセイはこちら

次回は漢詩の予定です!

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?