Misa H.

しがない物書き。社会人兼文芸大学生。

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    大学の課題で書いた小説がメインです

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    大学での課題や、個人で読んだ本の感想をまとめております

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人生の恩師

 十五歳のある日、私は学校に行くのをやめた。もちろん思い立ったが吉日みたいな感じであっさりとやめたわけではない。ちゃんとした理由はあった。少なくとも十五歳の私には。  南米に住んで四年目の私は現地校に通っていた。高校生(南米での高校は十五歳から十八歳まで)になったこともあり、前年と違って授業の難易度がグッと上がったのだ。今まで聞いたことのない小難しい単語も増えてきて、家に帰って辞書を引いて調べたり、グーグル先生で検索をかけたりなどして頑張ったものの、悲しいかな、私の記憶力と

    • 日本への引越し

       十三年ぶりに日本に帰国して、人生で初めての一人暮らしが始まった。 大学へ進学するために、私は両親の元を離れて単身で日本へ帰国することになったのだ。  最初の数日間は大学入試のため都内のホテルに滞在した。この短い期間で、私は好きな時間に起きては、気の向くままご飯を食べて、眠くなったら寝るという、実家からの開放感をここぞとばかりにエンジョイしていた。 しかしそこは悲しいかな、お金の問題もあるのでいい加減ちゃんとした住居をみつけなければならない。「流石にこのような体たらくではダ

      • 浪人の一年

         日本に十年ぶりに住むことになった私は、それまでの引きこもり生活に終止符をつかのように、行動的な日々を過ごすことになった。大学受験に向けて、予備校へ入ることを父に強く勧められたからだ。 「人生何とかなるさ。ケセラセラ」をモットーに二十四年間生きてきた自分にとって、予備校は大学のための通過点だと思っていた。つまり、予備校にさえ入れば大学への入学なんて約束されたのも同じである。今思うと顔から火が出るほど当時の自分の頭を叩きたい衝動に駆られるのだが、おかげさまで私は多方面から頭を

        • 祖母の歴史

           祖母が毎日キッチンに立っている姿は、今でも鮮明に目に浮かぶ。 朝の十時くらいになると、祖母の仕事が始まる。叔父がプレゼントしてくれた紺色のエプロンを、手際よく後ろで紐を結んでいく。使い古したエプロンは色落ちもそうだけれど、大きなシミがところどころあって、洗濯しても落としきれない頑固な汚れだった。そのエプロンは彼女の相棒であり、作業服であった。背中がだいぶ丸くなった祖母がキッチンへ立つと同時に、彼女の一日は始まるのだ。  古びた藁で作られた籠から、土の付いたじゃがいもを手に

        人生の恩師

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        記事

          アーティチョークのすすめ

           アーティチョークという食べ物をご存じだろうか。最近だとちょっと敷居の高いスーパーや、海外の食品を扱うお店にて販売されているケースが多い。だがこれらは全て、すでに剥かれた後のアーティチョークが缶詰にされている場合が多いため、本来の姿やその食べ方を知っている方々は少ないと思う。 私が本来のアーティチョーク、つまり剥かれてないままのアーティチョークとの初対面は十歳であった。南米に移住して間もないある日、祖母が市場からアーティチョークを数本買ってきたのがきっかけである。見た目は、

          アーティチョークのすすめ

          建前と本音

           研究室のドアを開けると、電気はつけっぱなしで、中には誰もいなかった。テーブルの上に置かれている書類が、雨の匂いが混じった風で飛ばされそうだった。おかしいな、今日は曇りだけのはずだったのに雨が降るなんて。 比較的に新しい建物であるといわれるこのキャンパスも、ところどころ年季が入っている。この重たい窓の開け閉めも少しコツがいるのだと、去年卒業した一個上の先輩に教えられた通りに閉じた。 窓からみえるバス停にはすでに学生たちの列ができていて、中には傘をさしている人もちらほらいる。

          建前と本音

          「捨てられない病」

           私は昔から物に愛着してしまう傾向がある。その物が、他者からみて無意味な物であったとしても、私には捨てることが難しい。物を買う理由はあったものの、捨てる意味は見つからない。  「断捨離」が流行りはじめて数年が経とうとしているが、近所の本屋へ行くたびに断捨離関連の書籍が店頭に山積みされている。きっと日本人の大半は私と同じく、「捨てられない病」を患っている人間がいるのではないか。自分が異端ではなく、ごく普通の人間だとして社会に受け入れられている安心感さえ抱ける。  主人は私と

          「捨てられない病」

          おともだちパンチ / 『夜は短し歩けよ乙女』

          夜は短し歩けよ乙女10年前に読んだ時の話  この本を初めて読んだ当時の私は、まだ二十歳そこらの時で、バリバリの南米人だった気がする。日本には10年以上帰っておらず、ましてやインターネットも近年のように充実していることもなく、得られる情報はいろいろと限られていた。  そんな中、当時Amazonやブクログでランキング上位に上がっていたこちらの作品が気になり、日本にいる父親にわがままを言ってわざわざ送ってもらった。  SAL便で送られてきた本は約1.7万kmの長旅を終えて、無事私

          おともだちパンチ / 『夜は短し歩けよ乙女』