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ビジネス書『ファイナンス思考』--目先の利益は時代遅れ

本日紹介するのは『ファイナンス思考 日本企業を蝕む病と、再生の戦略論』です。読んで名の通り、ファイナンスの考え方を鍛えましょうという内容。

端的に言うと、これまで日本で固定観念になってきた「売上&利益を上げよう↑」というのはもう古く、グローバル競争ではもう既に「コアなものは赤字でも守るし、大金をはたいても(関連企業を)買うが、そうじゃないものは黒字でも切ろう(売却・整理しよう)」という方向にシフトしていることを認識して動こうというもの。

そのために常に手元のキャッシュを潤沢しようという方法論などが論じられます。専門用語をなるべく廃して、平易な言葉で、しかし勘所をしっかり抑えている印象。それもそのはず、筆者はミクシィの元代表。

フェイスブックのブレイクなどで経営環境が激減するなか、企業ファイナンスの重要性を身をもって体験された方だからです。なので筆圧が違いますね。企業経営を経てない専門家の書だとこうはいかないだろうなと。私も元経営者の端くれとして、手に汗握りながら、そして大きく頷きながら読み進めました。

ちなみに筆者は、中学卒業後、競走馬の騎手を目指されていたという異色の経歴の持ち主。騎手断念後東大→コンサル→ミクシィ。ミクシィ退任後、スタンフォード大学で各員研究員をされています。

ちなみに本書の考え方は、個人のキャリアや進路にも応用できると思います。目先の収入や肩書きを追うよりも、自分のコアなものをしっかり見つけ、ダイナミックにリソースを回す。

ぜひご一読あれ。

(以下抜粋)

今、多くの日本企業を病魔が蝕んでいます。「PL脳」という病です。目先の売上や利益を最大化することを目的視する、短略的な思考態度のことです。

「ファイナンス思考」は単に会社が目先でより多くのお金を得ようとするための考え方ではなく、将来に稼ぐと期待できるお金の総額を最大化しようとする発想です。この点で、ファイナンス思考は、価値思考であり、長期思考、未来思考です。

たとえ頭では本質ではないこおを理解していたとしてま、易きに流れ、本書中で解説するような「PLを作る」手法の誘惑に心惑わされてしまうのが人情というものでしょう。

「ファイナンス」という言葉を、本書では以下の4点に分類し、構造化して定義づけています。

会社の企業価値を最大化するために、
A 事業に必要なお金を外部から最適なバランスと条件で調達し(外部からの資金調達)
B 既存の事業・資産から最大限にお金を創出(資金の創出)
C 築いた資産(お金を含む)を事業構築のための新規投資や株主・債権者への還元に最適に分配し(資産の最適配分)
D (その経緯の合理性と意思をステークホルダーに説明する(ステークホルダー・コミュニケーション)

アマゾンが創業以来、多額の赤字を計上しながらビジネスを拡大し続けているこおはよく知られた話です。

アマゾンの先行投資型の戦略は、世界中の投資家きらの信頼に裏打ちされているという点は意識しておく必要があります。ステークホルダーからの信頼を勝ち取るために、徹底したコミュニケーションが行われているのです。こうした取り組みなくして、安易に「アマゾンも赤字だから、うちも赤字でも平気です」と言ったところで、誰も耳を傾けてはくれないでしょう。

より多くの資金を得るためには、なるべくお金が出て行くタイミングを遅らせたり(買掛金の増加)、大規模な設備投資の代わりに事業プロセスをアウトソーシングするなどして出て行くお金を減らしたりする試みが重要になります。

売上の最大化、経費の最小化は、事業運営において非常に重要ではあるものの、それだけでは事足りないのです。

会計は、会社の「現在地」を知るための必要なスキルセットです。対してファイナンス思考は、会社がどの「目的地」に対してどのように進むべきかを構想する考え方であり、将来を見通すための手段です。

キャッシュフローを大きくする仕組みを確立することができれば、たとえ純利益がマイナスであっても、フリー・キャッシュフローをプラスに保つことができるのです。アマゾンはキャッシュ・コンバージョン・サイクル(CCC:仕入れる原材料や商品に現金を支払ってから、それを売って現金を回収するまでの期間)を徹底的に改善し、むしろ仕入れ代金を支払うよりも先に販売代金を回収することて、PLでの見た目以上に多くのキャッシュを創出することに成功しています。

国内市場の縮小見通しと、海外企業参入による競争の激化といった環境変化に直面し、JTは海外での事業拡大を早期に図らなければならないという強い危機感を持つようになりました。

JTは海外M&Aを主軸とする成長戦略を打ち立て、計画的な事業買収を行なってきました…結果として、今日のJTの業績は、海外事業が牽引するに至っています。

海外たばこ事業の拡大に要した多額の費用が借り入れを圧縮し、さらなる事業投資に向けた原資を獲得するために、資産配分の見直しを推進している点にも、JTのファイナンス思考に基づく行動が見て取れます。海外事業が増えて、地域ごとの各社でキャッシュが創出されても、それを本社で一元的に管理できないことには、せっかく資金を活用することができません。こうした課題を踏まえ、JTは、グループ内に点在する資金を、国境をまたいで最小のコストで移動させる体制を築いています。

コミカミノルタは、その優れたIRでも知られており・・・ウェブサイトへの積極的な情報開示やKPIの開示など、資本市場とのコミュニケーションを意識した取り組みを続けていますが、競合他社に先駆けたコスト削減や事業撤退など、基本戦略で宣言した内容を実施して信頼感を獲得した、言行が一致したものであることもまた、同社のIRが高く評価される所以なのでしょう。

海外の大企業を見てみると、フェイスブックのインスタグラム買収(10億ドル)や、グーグルによるユーチューブ買収(16.5億ドル)、モトローラ・モビリティ買収(125億ドル)など、利益ではなくユーザー基盤や技術を狙った買収が珍しくありません。買収当時のインスタグラムは社員わすが13人、売上ゼロの会社でしたし、ユーチューブの広告収入も買収額の100分の1以下の1500万ドルに過ぎませんでした・・・PLを軽視してはいけませんが、それを絶対視したままでは、このように技術やユーザー基盤を買うといった大きな構想を描けないのです。

事業運営の権限委譲を進めるのと同時に、キャッシュの管理を中央集権的に行い、次なる投資に回していく姿勢は、バークシャー・ハサウェイの規格外の成功を支えている要因のひとつといっても過言ではないでしょう。

銀行内審査ではいまだに最終損益が重視される--株主は会社が成長しないことにはリターンを得ることができません。そうであるがゆえに、経営者に対し、積極的な投資などの成長施策を望むのです。一方の債権者は会社が成長したところで、得るリターンは変わりません。そのため、リスクを冒してまで会社の成長を望まないのです。金利を支払うだけの安定した利益が出ることを良しとする発想です。そのため、高度経済成長期に銀行から借り入れを行うに際して重視されていたのは、売上や利益が伸びていることでした。

銀行のコベナンツ(融資契約などにおける誓約事項)にしても一番重要な条件は、最終損益が何期連続で赤字か黒字かであるかであり、キャッシュフローてまはなく、PL上の数値で判断を行なっています。

メディアがあおる影響--決算期のビジネス誌に目を通せば、盛んに企業の業績の上げ下げを報じていることに気づくはずです・・・経営者もまた、自社の報じられ方を見るにつけ、メディアや株主からの追求から逃れるために、ますます四半期単位でのPLを重視するようになるのでしょう。こうしてPL脳がより強化されていくのです。

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