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#5 『おっちゃんとおっさんと』(愛知)

話し相手JAPAN TOURとは

無性に歩きたくなると止まらない。
というより、止まると前に進めなくなる気がしてました。

間違いなく鹿児島までは道はつながっていて、東京から出発して1号線、2号線、3号線と順番に歩いていくと、本州の最南端に辿り着くのです。

あの頃、宇宙から届く電波っていうの?衛生と繋がったGPS機能が付いたGoogle Mapとかナビなんていうスグレモノはなかったので、そう、なかったんですよ。(いや、きっと国家プロジェクト的にはあったんだと思いますが、僕のとこには届いてませんでした)そんな時代だったんです。

地図は、コンビニで立ち読みさせてもらって、川だとか湖だとかバイパスだとか大雑把な情報を頭に叩き込み、とにかく道路標識に注意しながら歩いてました。

歩いてる時は、担いでるリュックとテーブル、イスの重さがズシリと背中から腰にのしかかるので「よし、ちょっと道外れるけど気分転換に海でも見に行くか!」なんて気は、サラサラ起きないんです。

ひたすら、まっすぐ進みたくなるんです。「明日はココ」って決めたら、まっすぐ最短距離で辿り着きたい派でした。


『酒田のおっちゃん』
「にぃちゃん、新聞読むか?」

丸めてたスポーツ新聞を手渡して声をかけてくれたのが、鼻の下にヒゲを生やして怪しさを醸し出てる京都在住の酒田のおっちゃんだった。

余談だがバツイチだった。

「豊橋に来た時はなぁ、いっつもこのサウナやねん、ここはメシも食えるさかいな」
「いいっすねぇ」

豊橋にたどり着くまで、とにかく歩いた。たぶん、1日で歩いた距離としては、今までで最長だ。

浜松駅から1号線を探しながら歩いて途中から301号線の豊橋湖西線に入って、のんびりした道を歩きながら、特になんも考えることなく、いつのまにか1号線にもどって豊橋駅に着いた。

なんとなく「今日は歩きだけでええわ」ってなった。歩く以外はコンビニでトイレを借りるぐらいで、そんな、ただひたすら歩いた。

一心不乱に歩いて豊橋の駅前に着いた時、サウナの文字を見つけて入った。まだ多少(限りなく少に近い)お金もあったし、どっちかというと、お金がなくなってからの自分がどうするのかを客観的に見てみたい気がして使い急いでた。

使い急いでるとはいえ、ホテルに泊まるというのは違うような気がしてサウナを選んだが、そこに何かルールがあるわけでもなく、なんなら、ルールは、次々に破られていく運命な気もしてた。

泊まりといっても、仮眠室のような大部屋があるだけだ。そもそも、イヤっちゅうほど汗かいてんのに、サウナって!と自分でも思ったりした。
毛穴の立場に立って考えたら

「休むヒマなしかいッ!」

って、重労働具合にビックリしたんちゃうかなぁ。

そんなサウナで「新聞読むか?」と声をかけてもらった。風呂から上がって仮眠室の横にある食事処で、水飲んで寝るつもりだったのが

「にぃちゃん、ここ、ここ、こっち座りぃや、ビールでええか?」

と言われて、酒田のおっちゃんの隣りに座ってビールを飲んでた。

なんで奢ってくれてるのか、イマイチ分からんかった。生ビールを2杯飲んで、あ、ご馳走になって、焼そばとカラ揚げを食って、あ、ご馳走になって、横で酒田のおっちゃんは、生ビールをガバガバ飲んで・・・ない。

ウーロン茶飲んでるやん!

「わし、お酒飲まれへんのや」
「えぇ、その雰囲気で、お酒飲まれへんって・・・」
「拍子抜けか?」
「はい、見かけ倒しすぎですわ」
「倒しすぎてなんやねん」
「なんか、自分だけお酒を頂いてるのが申し訳ないんで、オレもウーロン茶を」
「あほッ、人に合わす事あれへんがな、自分の飲みたいもんを飲まんかいッ!」
「あ、いや、あの・・・」
「オイ、このにぃちゃんに、ナマもう1杯な」

実はオレも、そんなにビールが好きなわけではなく、2杯も飲んだら十分で、出来ればスカッとレモンスカッシュを飲んで、グッスリ寝たかった。

豊橋修正

特に何かを話すわけでもなく、ただ、話し相手で全国ツアーをしてるという話だけ笑いながら聞いてくれてた。

「なんで話し相手なんかやってんねんな」
「いや、オモロイと思って」
「オモロイかどうかは、客が決めるんちゃうんか?」
「たしかに、そうですね」
「まぁ、若いから出来るんやろな」
「いや、そんな若くもないですわ」
「お金は貰わんのかいな?」
「お金、貰えますかね?話し相手ですけど」
「貰えんな」
「即答!」
「そやけど、まぁ、お金を貰える話し相手にならんとアカンのちゃうか?」
「うわッ、それ、名言・・・みたいに聞こえますわ」
「名言ちゃうんかい!」
「名言かどうかは、客が決めます」
「客いてないがな!」
「けど、結果、ご馳走してもらってるんで、お金を貰える話し相手みたいになってますね?」
「ホンマやな。ぼったくられてるな」
「なんでやねん!」

だいたい関西人同士の会話は「なんでやねん」が出たら終了の合図だ。

実際ずっと歩いてきて、風呂、サウナ、水風呂を繰り返して、風呂上がりに駆けつけ3杯の生ビールやったんで、大部屋に入ったら秒殺で爆睡した。

次の日の幕が開いたとたん、酒田のおっちゃんは

「コーヒーか?牛乳か?」

と、寝起きのコーヒー牛乳をご馳走になった。しばらくしてサウナを出て 豊橋の駅で別れた。

「ホンマお世話になりました。いつか、また、ごちそうになります」
「まだ、おごらす気ぃか!」
「いやいや、今度はご馳走しますわ」
「話し相手で儲けてか?」
「お金を貰える話し相手になったらご馳走します」
「楽しみにしてるわ。京都に来たら寄ったらエエがな」

と言って自宅の地図を書いてくれた。

「京都で、ご馳走になります」

自動改札に切符を入れて振り返らずに手を上げた酒田のおっちゃんは

「がんばりや」

そう言って京都に帰って行った・・・たぶん。

最後に付けた「・・・たぶん」は、後で付け足した言葉でした。
というのも、酒田のおっちゃんとは、豊橋の1週間後ぐらいに名古屋で再会しました。

酒田のおっちゃんと名古屋で会った後、だいぶ経ってから「たぶん」の先を付け足してました。

と、ここまでなら『旅で出会ったエエおっちゃん』で終わるんやけど、酒田のおっちゃんとは名古屋で再会した。

偶然の再会ではないけど、別に心配になって会いに来てくれたわけでも、追いかけて来た訳でもなく「仕事で来たついで」に寄ってくれたと言ってた。

自然な、実に自然な会話の流れで、おっちゃんの郵便局のカードが割れてて、京都までの帰りの電車賃が下ろせない事を知った。

何の迷いもなく、オレの割れてない郵便局のカードからお金を下ろして貸した。いや、そもそも貸すつもりではなく、使ってもらうつもりやったけど

「帰ったら、振り込むわな、スマンな」

と言うので、なんか「ええんです」というのも失礼な気がして、振込先もメモして渡した。

それから連絡はなかった。
連絡がないので、京都に行った時にも書いてくれた地図の家には寄られへんかった。

さっきの、ここまでなら『旅で出会ったエエおっちゃん』っていうのは間違いやな。たぶん、いつまでも『旅で出会ったエエおっちゃん』やな。

いろんな人に会いました。
話し相手のテーブルで会った人、宿泊場所で会った人、まぁ、寝泊まりしてたのは、主に駅の地下通路とか、自由通路と言われてる場所だったので、そういう場所で会う人は、基本、現代社会からドロップアウトした人が多かった気がします。

たぶん公園とかで寝てたら出会わなかった人たちですね。公園ってむしろ危険なんですよね。その辺は、また書くとして

いろいろ出会った人たちの中でも、濃いキャラクターの人たちは、歩いてる時に出会いますね。


『エイジさん』
「ワシも行く」

まぁ、冗談やと思ってたんで、とりあえず雨がやむのを一緒に待ってた。
結局、雨は止まなかったが小降りになってきたんで出発したけど、このおっちゃん、どぉも本気みたいやな。

付いて来られてもなぁ、正直困るわ。

蒲郡駅の地下通路に着いたのが1時間ほど前で、雨宿りをしてたらオレの荷物の多さに興味を持ったからなのか、自分と同じ匂いがしたからなのか、おっちゃんは隣に座ってきた。

51歳無職、片方のマユゲがなくて前歯が2本抜けてて、そのわりには笑顔がやたらかわいい、エイジさん。
いや、かわいいというのは違う。だいぶ甘い採点やと思う。それに、いくらかわいくても、付いて来られたら困る。

「どこまでいくんだ?」
「いや、まぁね、最終的には沖縄を目指してるんですけどね」
「そぉか、ならワシも付いて行く」
「アハハハハハハ〜なに言うてんねんな、おっちゃん」
「どのくらいかかる?」
「さぁ、オレも初めてやからね、歩いて行くの。まぁ、2度とせぇへんけど」
「けっこう、かかりそうだな」
「かかるやろね、アハハハハハハハ〜」
「アハハハハハハハ〜」

笑ってたのが、笑えなくなってきた。
2駅分ぐらい付いてきてる。ここらへんの1駅は山手線と違ってかなりある。しかも荷物が重い。それ以上に気持ちが重くなっていく。

笑いながら「はよ、帰りや」って言っても「帰るとこ、ねえもん」と、女子に言われたらサイコーの言葉を、51歳の無職のおっちゃんに言われても、全くテンションは上がらない。

だいぶ我慢してたけど、このまま付いてこられるのは、なんか違う気がする。何が違うのかは、よく分からんけど

「エイジさん、もぉ帰った方がええって」
「ラジオで開幕戦聞かせてやるから、いいだろ?付いて行くぐらい」

この日はプロ野球セリーグの開幕だった。
エイジさんは、ラジオのボリュームをあげて5mほど後ろを付いてくる。さっき笑顔がかわいいと言ったけど、全然かわいくない。
ニヤニヤすんなや!と思ってまう。

「あのなぁおっさん、オレ、自分の事で精一杯やねん。おっさんの面倒みてられへんねん」

おっちゃんと呼んでたのが、おっさんに変わってた。

「ぶっちゃけ、今2,000円しかポケットにないねん」
「ワシ、1万あるよ」

無職のおっさんに完敗。

いや、郵便局に預けてるお金足したら勝ってるで、若干やけど勝ってるけど、そういうことではない。現時点では負けてる。
それに腹立てた訳ではないけど、

「おっさん、これ以上付いてきたら怒るで」
「わかった、もぉついてかない」

そぉ言いながら50mほど離れて付いてくる。
なんか、犬を拾って家に連れて帰ったら親に怒られてしゃーなしに元のところに捨てに行ったのに、シッポふってトコトコ付いてくる子犬みたいやった。

オレが振り返るとおっさんも後ろ向きになって、自分はラジオを聞いてるだけやから、別に付いていってるわけじゃないから。というアピールをする。

もぉ、50歳の子供やな
そんな風に見えた。雨が強くなって、また雨宿りしてたら追いつかれた。
オレの分もジュースを買ってきた。さっきの1万円からやろな。
隣りに座ってるおっさんと、ほとんど言葉をかわすわけでもなく、ラジオから流れてくる開幕戦を聞いてた。

なんで自分が不機嫌になってるのかも、よう分からんけど

「おっちゃん、そんなパワーあんねやったら、働きぃや」

なんか、自分に言ってるような気がした。

雨がやんだので歩き出した。後ろを振り返らずに歩いた。
ラジオの音が少しづつ小さくなっていった。

マラソンで、ペースが落ちるとドンドン離されて行くように、ラジオの音は完全に聞こえなくなった。マラソンランナーは、相手の表情をチラチラと見ながら疲れてると思ったら、一気にペースを上げて離しにかかる。

オレは、見れなかったな。

おっちゃん行くとこないんやろなぁ〜
家族とかおらんのかなぁ〜
あの笑顔は憎まれへんねんなぁ〜。

三ケ根という駅に付いた時には、また雨が強くなってきたんで、地下の通路で休憩した。休憩しながらおっちゃんを待ってた。

結局おっちゃんは現れなかった。
何してんねやろ?傘持ってたのに、なんで差してなかったんやろ?風邪ひいてへんやろなぁ。
なんか寝つきが悪かった。

次回は、いよいよ横浜以来の大都会・名古屋に入ります。
(世界の車窓から風)

ひとりオモシロ企画のスタート。
話し相手JAPAN TOUR #0 半年間、話し相手に行ってきます

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