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#2 『江ノ島のえのさん』(横浜・江ノ島)

話し相手JAPAN TOURとは

(#2の前に)
親とか兄弟、親友にも話せないことを、知り合ったばっかりの人には話せてしまうって事ありますよね?いずれは親や親友にも話す事もあったりするのかもしれないけど、話す前のワンクッションというか予行演習という感じなのかなぁ?と思ったりします。

知り合ったばっかりの相手なら自分の事をどう思うか、あまり気にしなくていいからなんじゃないかなと。イヤな事とか、自分の考えてる事と違う事を言われたら、そいつのこと(つまり・・・オレ)なんか、スグに忘れればいいワケで、なんなら会わなかった事にすればいいのだろうなと思うのです。

そんな「ただの話し相手ですから、お気軽にどうぞ」的なオーラ満載で座ってたんじゃないかと思います。

『さやか』
中学生ぐらいでジャージ姿の子が、不思議そうな目で見て、ちょっと笑いながら通り過ぎていった。まぁ、一番ポピュラーな反応だ。で、その子が、しばらくして戻ってきた。第一声は、

「聞いてもらおっかなぁ」
「おッ、聞くよ聞くよ。でも、コッチも喋るで」

そう、オレは、聞き上手ではなく話し相手なのだ。そして悩み事は解決しないよ。と、あらかじめ伝えておく。

「オレさぁ、彼女いるんだよね」
実は、パッと見が、ちょっとボーイッシュな女の子のように見えたので意外やった。年齢は15歳。まぁ、15歳の美少年という感じ・・・だったのだが

「へぇ〜、彼女いてるんや!ええなぁ。で、名前はなんていうの?」
「明るいって書いて、さやか」
「さやかちゃんか、かわいい名前やなぁ。で、キミの名前は?」
「えッ、俺がさやか」
「えッ・・・ん?ゴメンな、ちょっと待ってや。さやかちゃんには彼女がいてんの?」
「そう。」
「で、キミがさやかちゃんで・・・あれッ?キミは?」
「俺、おなべ」

まさか15歳の女の子から、こんなに軽いタッチで『俺、おなべ』って聞くとは思わんかった。パッと見ではなく、ちゃんとボーイッシュな女の子という第一印象は正解やった。

さやかちゃんには彼女がいて、明日栃木まで会いに行くらしい。さやかちゃんの彼女も、実は彼氏であるさやかちゃんが彼女であるという事を知っていて付き合ってるらしい。

さやかちゃんが、最初どんなテンションで「聞いてもらおっかな」と言ったのか分からないが、もぉ、こっちは「聞かせていただけますか」な話が、いろいろ飛び出してきた。

「前にさぁ、別の彼女がいたんだけどさぁ、いい雰囲気になってさぁ、やるじゃん」
「やるじゃんッて、おい!いくつの時?」
「14」
「はやいッ!」
「でさ、そしたらさ、むこうが泣き出しちゃってさぁ」
「いやいや、いい雰囲気になるまで、逆によくバレへんかったなぁ、制服は?スカートやろ?」
「その子とは学校別だったし、会う時いつもジャージだしさ」
「なるほど・・・14歳の美少年には見えるもんな。」
「でしょ?泣くことないよね?」
「でもなぁ、ちょっと分かる気もするなぁ、もしもオレに彼女ができて、その彼女が実は彼やったら、やっぱり泣き出すかなぁ。いざッて時にナイとこにあって、あるとこにナイねんもんなぁ、プチパニックになるわな」
「ビックリするよね!ギャハハハハハハハ〜」

さやかちゃんは、しばらく話して去っていった。もちろん何の解決もしないままなのだが、笑って帰っていった。明日彼女に会うために、彼女はオシャレして、いや、やっぱりジャージで行くらしい。

同じような悩みを持つみんながみんな、明るく笑って話せるとは思わない。きっと何年も笑えずに過ごしてる人もいてると思う。ただ、あらかじめ言うように、悩みは解決しない、というか、人の悩みを解決できるほどの人間ではない。相談にも乗れない。特にお金の相談は、出来ればコッチが乗って欲しいぐらいだ。

たぶんココに来る人も、オレが出す答えを期待してるわけじゃないと思う。だいたい、悩みを聞いてもらう時って、すでに自分なりの答えを持っていて、人の意見を聞いたところで自分の答えを修正したりする事って、そんなにないんじゃないかと思う。だから、さやかちゃんは「聞いてもらおっかな」だったのだろう。

路上で歌うミュージシャンの歌声を、少し遠くの方で立ち止まって聞くよりも、路上にあるテーブルに座って話をするというのは、周りに見られてる感もあるので、なかなかハードル高めなのかなと思うんですよ。
そういう意味では、路上で占ってもらってる人って、なかなかのハードルを越えないといけないと改めて思ったりするのですが、横浜では25人の人が話し相手としてテーブルに座ってくれました。
結局、半年間で1933人が、このテーブルに座ってくれました。

『アンコールにお答えして』
出発の日に番組内で見送ってもらった。
フジテレビの『どぅ〜なってるの!?』という番組の再現VTRに、よく出演させてもらってて、ありがたい事に番組の最後に「この男が、全国に話し相手に行きますので、目撃情報をお待ちしてます」と紹介してもらった。

そんな訳でスタートはフジテレビのあるお台場で、レインボーブリッジを初めて歩いて渡り、15号線を西に向かって横浜に着いた。

番組のオンエアーが春分の日という事もあって、番組を見てくれてた学生が多かった。横浜での2日目は、番組を見てた人たちから、けっこう声をかけてもらった。
5人組の高校生で、一人だけ異常にテンション高く

「あぁ〜!見た。見た見た、オレ、テレビで見たよ、この人!」

その番組名を忘れたらしく、でも、なんとか自分で言いたいようで、トイレを我慢してるみたいに体をくの字に曲げながら

「なんだっけ、なんだっけ、えぇ〜っと、チョット待ってチョット、今、思い出すから(中略)ヒント、ヒントちょうだい!(中略)あ〜わかんねぇ、なんだっけ?」

ついにギブアップ。もう、体のくねりが漏れる寸前みたいになってたので答えを教えると

「そぉだ、そぉそぉ『どぅ〜なってるの!?』だ。この人すげぇーんだぜ、番組降りて全国歩いて行くんだって言ってさぁ、ねぇ?」
「いやいや、別に番組降りてないよ」

もちろん半年後に降ろされてるかもわからんけど・・・ひとしきり、彼だけ盛り上がって、彼だけ満足して、彼を先頭に5人組は帰って行った。

高島屋に勤めてる、これまた5人グループの女の子がやってきて、

「昨日見ました。でも、再現とかやってた方がイイんじゃないですか?」

なに、その冷静な分析・・・ひとしきり冷静に再現VTRの面白さを語ってくれて

「これからカラオケ行くんですけど、一緒にいきません?」

なに、その楽しそうなお誘い・・・カラオケも楽しいとは思うけど、まだ始まったばっかりなんで、今、楽しいのはこっちなのだというのを伝えたら元気に去っていった。
しばらくして、5人のうち2人だけ戻ってきて、一人は牛丼を持っていた。さっき冷静に分析してくれた子だ。牛丼をテーブルに置いて

「じゃぁ、モーニング娘。歌ってきま〜す!」

と去って行った。

深い時間になってくると、どんどんキャラが濃くなっていく。
高校生の女の子2人組がナイスキャラをしてた。とにかくリアクションがデカイ。残念ながら文字にしても、なかなか面白さが伝わらないと思うのだが
「ぬぅ〜お〜ぅッ」と「ほげぇ〜ッ」を使い分けて、とにかく高いテンションと高いクオリティーのヘンな顔を全面に押し出して、小さい『ッ』の入った弾んだ感じの「ぬぅ〜お〜ぅッ」と「ほげぇ〜ッ」を叫んでた。
どうやら、オリジナルのギャグらしく

「これって、はやんねぇ?」
「ぜってぇ、はやるよね」

と盛り上がって、どっかへ消えてった。

「あのよ、西口のホームレスの間では、知らんヤツはいないのよ」

と、なんとも狭い世界で顔が広いキクチのケンさん。自分で自分を「キクチのケンさん」と呼んでたが、『の』が入る場合、横浜のケンさんというような『場所&名』という組み合わせだったり、中華のヤンさんみたいな、この道にこの人あり!みたいな使い方をするもんで、キクチのケンさんと『姓&名』という使い方になると、男の中の男って感じというか、キクチの中のキクチ?キクチの最高峰な男って感じだ。

そんなホームレス・キクチのケンさんのホームは、KIOSKの前に20年以上ある。ということは、KIOSKより先にキクチのケンさん家があったワケで、正確には、キクチのケンさん家の前のKIOSKって事になる。

どっかへ消えてった『ぬぅ〜お〜ぅッ』の2人が0時を過ぎた頃に弾んで戻ってきた。
手には、どっかからパクって来たような造花の花束を持っていた。
「さっきのお礼」と言ってプレゼントしてくれんのはええけど、菊とバラが入り交じってたんで、なんか『死んだその日が誕生日』みたいな感じやし、お礼の気持が込められてる感じもなかった。
花束と一緒にあったかいコーヒーも持ってきてくれたので、ありがたく、あったかいコーヒーだけもらっといた。

完全に持て余した花束をどうするか見てたら、キクチのケンさんにプレゼントしてた。ワンカップを飲んで、チョットほろ酔いのケンさんは嬉しそうに笑ってた。

深夜1時を回って人もいなくなってきたので、テーブルをバラしながら
「あれ?待てよ、今日ってアンコールに応えたんちゃうかったっけ?」
そんな事を思い出した頃に、トシちゃんが、スガちゃんではなく別の友達を連れてやって来た。

「うわッ、ホントだ、話し相手って書いてる。すげぇすげぇ」

友達は盛り上がってた。トシちゃんは、なんとなく得意顔で

「なッ、言っただろ。明日は、鎌倉あたりですか?じゃぁ、また明日」

笑顔のトシちゃんは、連れてきた友達と去っていった。
「話さへんのか〜い!」
トシちゃん・・・キミはオレの追っかけか?で、鎌倉ってどっち?

(そういえば)
話し相手JAPAN TOUR 2000を始めるまでの自分は、特にアウトドアーが好きなわけでもなく、普通にアパートで暮らしてたので、野宿生活という経験もなかったので『屋外で寝袋で眠る』というのは、なかなかハードルが高かったのを覚えてます。
最初の夜は、ファミレスで過ごしたし、その後も、ちょいちょい24時間営業のファミレスにお世話になってました。
8万円とはいえお金があると、やっぱりどっかで守りに入るというか、出来れば野宿は避けたかったのだと思います。なんせ、春分の日を過ぎたとはいえ、3月って野宿するには、まだまだ寒かったんですよね。
横浜での2日を終えて、翌日は鎌倉へ。この時には、リュック以上に「なんで歩いて行くなんて言うてしもたんやろ」という後悔を背負いながら前に進んでました。

『えのさん』
「おもしろい仕事をしてるなぁ〜」

話しかけてくれたのは、江ノ島に渡る橋の入口でテーブルを出していた時だった。

「おじさんは何の仕事をしてるんですか?」
「オレか?オレはハトの調教師だ」
「ハトの調教って・・・それ、どぉやるんですか?」
「そんな、スグにはできねぇぞ!」

いやいや、やる気があるわけではなくて、あるのは興味だけやねん。にしても、オモシロ仕事の軍配は、確実におじさんに上がってる。なんやろ、この敗北感。

おじさんの話を簡単にまとめると
ホンマかどうか分からんが、そこらにいるハトを捕まえて(もうこの時点でウソくさい)調教をして(一番聞きたかった調教方法は企業秘密だと言ってた。既に8割ウソに聞こえる)最終的には新聞社に売るらしい。

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え?伝書鳩にするってこと?

今時、伝書鳩を使ってる新聞社なんてあるのか?という疑問が湧いてくるが、おじさんの顔はオレを騙して楽しんだりバカにしてる顔ではなかったので、たぶん昔の話なんだろう、いや、それもどうかなぁ〜。

おじさんは、午前中は海でワカメを採ってた。採ってるというよりは拾ってるという方が正しいかな。そのワカメを、家の前に張ったロープに干してた。何を家と言うかは別として、おじさんにもコンパネとブルーシートで建てられた家(ホーム)があったので、ホームレスという感じでもない。

おじさんの名は、えのさん。
本名から取った『えのさん』なのか、江ノ島に住んでるから『えのさん』なのかはあえて聞かなかった。えのさんは「話し相手を見つけて来てやる」と言って出かけていった。

しばらくすると、えのさんよりかなり若い、けれど見るからにホームレスな人を連れて来てくれた。

「こいつは、去年の9月にホームレスデビューで、まだ新人なんだけどな、よく働くんだ」

と。ホームレスの人を紹介するのに『よく働く』っていうのは、どうなの?説明として正しいのか?ちょっと違和感を感じた。

「おい、話し相手になってやれや」
「いやぁ、オラ忙しいんだ」

えのさんは、新人の事を『ホームレス2号』と呼んでた。たぶん1号はえのさんやと思う。そんな2号に与えられた仕事はメシの支度だった。確かにえのさんよりよく働いてた。

よく働いてるホームレスから少し離れた場所で、ずっと座りっぱなしで働いてないオレは、今は家がないので、明らかにこっちの方が正真正銘のホームレスだった。

しばらくして2号が、お椀に入った『すいとん』を持って来てくれた。えのさんが午前中に採ってきたワカメがたっぷり入ってた。

ツアー4日目にして、初めてお金を置いて行ってくれた人がいた。
料金は取らないという『自分ルール』を決めていたが、もうすぐ60歳になる独身のおばさんは、よくここに散歩にくるという。
去り際に「がんばってね」と握らせてくれたのは1000円札だった。なんだか断れない雰囲気だった。
向こうの方では、えのさんが「よかったなぁ」という意味だろう、両方の親指を突き上げてこっちを見てた。
オレの『仕事』をずっと気にしてくれてたようだ。

夕方になって雲行きが怪しくなってきた。オレのところに来た2号が

「えのさんが泊まってくか聞いてこいって。ここだったら雨にも濡れねぇからって。」

えのさんが、家の前で手招きしてる。
「酒もあるぞ」という意味だろう、左手にはワンカップを高々とかかげていた。

「まだ歩き始めたばっかりなんで先に進みますわ」

と、カッコつけて言ったけど、ホンマはどっかで『悪いけどあんたらとは違うんや』って思いがあった気がする。別れ際に

「ここにいるから、いつでも寄ったらええよ」

と、えのさんに言われた言葉がちょっと痛かった。

茅ヶ崎を過ぎた辺りで雨が本格的に降ってきて、おっきな建物の屋根の下でずっと雨宿りをしてた。
えのさんと2号の「ほらなッ!」という顔が浮かんだ。
やっぱり軍配はえのさんにあがってしもたな。

話し相手JAPAN TOURの#0に書いた5つの『自分ルール』の中で、最初に破られたのは『お金は頂かない』というルールでした。

ひとりオモシロ企画のスタート。
話し相手JAPAN TOUR #0 半年間、話し相手に行ってきます 
こちらも合わせてどうぞ。
話し相手JAPAN TOUR #1 アパートの撤退&はじめての話し相手

次回は『移動は歩き』というルールを、箱根の峠を登りきったところで破ります。
もぉねぇ、足首がプランプランしてたんですよ、プランプラン。



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