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今話題の『推し、燃ゆ』を読んで。作者と同い年の私が、受けた衝撃を綴る。

今年の芥川賞受賞作品、『推し、燃ゆ』。
そしてこの作品の作者である宇佐見りんさんはなんと、21歳の女子大学生なんです…!

私はこの作品を読んで、自分と同い年の女性でこんな衝撃的な作品が書けるのか・・・と圧倒されてしまいました。
なので今回は、この熱が冷めないうちに・・・この作品の衝撃と魅力とを書き記しておきたいと思います。

逃避でも依存でもない、推しは私の背骨だ。アイドル上野真幸を“解釈“することに心血を注ぐあかり。ある日突然、推しが炎上し——。

作品の情報とあらすじはこちら。
この記事を読んで、気になったという方はぜひチェックしてみてください。
それでは、本編へどうぞ!

01:「掴み」のインパクト

推しが燃えた。ファンを殴ったらしい。/3ページ

これが『推し、燃ゆ』の冒頭文。
ズドーンというインパクトがあるのに、じわじわとその先が気になる・・・そんな一文ですよね。
こんな強烈な文を見せられたら、最後まで「読んでみたい」と思わずにはいられません。

物語系の小説では、起承転結の流れに沿って、または結末に向かうにつれてその先がどうなるのだろう・・・と気持ちが高まることが多いですよね。
しかしこの作品は、その高まりを開始1秒で強制的に読者に感じさせてしまうんです。
「推し」の詳細も気になりますし、もちろんその後の展開も気になってしまいます。

私は名作と呼ばれる作品には、冒頭文が印象深いものが多いと感じています。
例えば、川端康成の『雪国』は「国境の長いトンネルを抜けると雪国であった。夜の底が白くなった。」という書き出しが、宮沢賢治の『風の又三郎』は「どっどど どどうど」という書き出しが有名。
作品の内容は知らないけれど、冒頭文だけは聞いたことがある。なんていう方も多いですよね。

話題になるかどうかや、最後まで読まれるかどうかは、「掴み」が勝負なのかもしれません。
『推し、燃ゆ』に関しては、その勝負には完全勝利でしょう。
本屋で手に取ったら最後。レジまでの足取りは軽いはず・・・。
そのくらい最高の「掴み」です。

02:豊かで鋭いことばたち

この作品の主人公あかりは、普通の生活もままならない不器用な女子高校生。
「推し」を推すことだけが彼女の生きがいであり、推しが関わらないそのほかの生活には苦戦している、そんな人間です。

そしてそんな彼女の重い日常を表しているのが次の文。

寝起きするだけでシーツに皺が寄るように、
生きているだけで皺寄せがくる。
/9ページ

ただ普通に生きることが彼女にとってどれほど難しいのかが、わかりやすく伝わってくるのと同時に、こんな文章どうやったら思いつくんだ・・・という驚き。
彼女の脳内を覗いてみたいものです。

そしてそんな不器用な主人公あかりは、その「何もできない」という事実で、姉のひかりをイラつかせてしまうのですが、その際の以下の描写がこちら。

(姉のひかりのセリフ)
「やらなくていい、頑張らなくてもいいから、頑張ってるなんて言わないで。否定しないで」
びち、と音を立てて大根が器に落ち、汁が飛んだ。
/57ページ

特別に派手なシーンではありませんが、このシーンと描写は私がこの作品で最も気に入っているもののひとつです。

大学受験を控えてピリピリしているひかりが、何も頑張らずにただヲタク活動だけをして生きているあかりに対して放った言葉・・・。
パリッと張り詰めた空気を、何か汁が染み込んでいるのであろう重い大根の落ちる音が壊すそのシーンがありありと浮かびます。
また、「びち」という平仮名なのに迫力のある感じが個人的にはたまらなくツボです。

03:若者にウケる理由

本作品は現代特有の「推し文化」を題材にしているので若者がとっつきやすく、表現も今風で読みやすいのが特徴であり、新鮮な魅力だと思います。
また、この『推し、燃ゆ』が話題になった理由もここにあるのではないでしょうか。
若者である私が言うのもなんですが、若者の影響力というのは本当に凄いですからね・・・

特に、

成美はアイコンを取り換えるように都度表情を変え、明快にしゃべる。
/4ページ
コピペしたみたいに階の積み重なったビルへ続くエスカレーターに人が押し寄せ、吸い上げられる。/106ページ

このあたりの表現は本当に印象的。

「アイコン」「コピペ」というワードが純文学作品に比喩表現として使われているという事実が、新時代の訪れを感じさせます。
21歳という若さだからこそ生み出せる表現ですね。

また、この作品の表紙は、ポップでキャッチーな作風で知られるダイスケリチャードさんが描いたもの。
作品との相性はバッチリ。
これも若者の間で本作が人気になった理由のひとつでしょう。

♦︎・♦︎・♦︎・♦︎・♦︎・♦︎・♦︎・♦︎・♦︎・♦︎・♦︎・♦︎・♦︎


さて・・・宇佐見りん著、『推し、燃ゆ』。
この作品の魅力が十分に伝わっていましたら嬉しいです。

この作品はそんなに長いお話ではないので、読書が苦手だという方でも気軽に読み始めることができるのではないかと思います。

こちらのマガジンで、他にも本を紹介する記事を執筆中です。
ぜひご覧ください。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました!

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