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環境が人を作り、教育が選択肢を作る

ブータン映画とは珍しいと思い『ブータン 山の教室』(2021年)を観た。

オーストラリアに渡りミュージシャンになることを夢見るブータンの青年が、山奥で一年間、教職員を務めることを命じられる。道なき道を一週間かけて辿り着いたルナナ村は、標高4800m、56人の小さな村。電気もトイレットペーパーもなく、物質的に豊かとは言えない。

当初、青年はそんなルナナ村での暮らしにとまどうが、次第に、物質的ではない精神的な豊かさを知っていく。

『ブータン 山の教室』の中で、ルナナ村の実際の住民が出演したという村民たち、特に生徒たちの輝いている瞳には驚かされる。物質的に恵まれていなくとも、精神的幸福とはこういうことかと感じさせられる。

ただ、それと同時にこの映画で感じたのは、環境が人を作るということでもあった。

環境が人を作る

ルナナ村の子どもたちは簡単な足し算・引き算を学ぶのでも目をキラキラさせて喜ぶ。

生徒たちが簡単な算数を学んで喜ぶのは、ルナナ村がそれまで教育がない環境だからこそ感じる喜びでもある。教育が行き届いた日本において、簡単な算数の授業で、全員が目をキラキラさせている教室はおよそ想像ができない。

つまり、人が何を喜び、もしくは憤るのか。それら人格は、環境によって作られていく

『ブータン 山の教室』を観て、このように環境が人を作るということを感じた時、ふと大企業のことを思った。

既得権益のある競争の少ない大企業の人と話すと、(既得権益のある大企業の人が全てそうというわけではないが)感じることがある。

一つ目は、名刺交換をすると、〇〇部長、〇〇課長、〇〇担当部長…というように皆に役職があり、そしてまた、随分と長い役職名で誰が何をしているのかさっぱり分からない。

二つ目は、例えばベンチャーの会社だったり中小企業の人々と話すと感じるギラギラ感というものがなく、貴族的もしくは戦闘力がないと感じる。

三つ目は、自分たちの業界もしくは会社の事業については当然詳しいけれど、それ以外の一般的と思えるようなビジネス情報や他業界について、知識も情報も浅い。

そういった既得権益のある大企業に勤めて役職がついてる人たちは、学生の頃はたくさん勉強もして優秀な成績であり、いい大学に入って、いい企業に入った人たちだと思う。しかし、そのいい会社という環境で何年も過ごした人たちと会うと、その大企業という看板、もしくは環境がなくなった時、果たして彼ら彼女らを優秀と呼べるのかどうか、疑問に感じてしまう。

どれだけ頭脳に優れセンスのある人であっても、環境によってそれを強化することも、そして退化させることもできる

教育は選択肢を増やす

『ブータン 山の教室』において、教育がないという環境で育つルナナ村の子どもたちは、確かに精神的豊かさを持っていた。しかし同時に、そんなルナナ村の子供たちを不幸だとも感じた。

何を不幸と感じるのか。

それは、教育がないという環境によって、ルナナ村の子供たちは選択肢が限られていたという不幸である。

この映画をみて、本当の幸福は物質的豊かさではない、精神的な豊かさだ、と感じるのは容易い。

しかし、物質的豊かさを追求するのも、精神的豊かさを追求するのも、個人の自由である。そして、物質的豊かさ、精神的豊かさ、そのどちらを選択するのか、そもそも選択肢がないと選択の自由自体が存在しない。

ルナナ村の子どもたちは、それまではルナナ村で従来通り生きるという選択肢しかなかった。しかし、教育を受けるということは選択肢を得るという意味になる。

教育を受けることで、外の世界を知り、知識を得、何かに興味を抱き、将来、街へ出ていく人が現れるかもしれない。外国に行く人がいるかもしれない。もしくは、村で今まで通り生活を続ける人がいるかもしれない。しかし、教育がなければ、そもそもそういった選択肢がなかった。ルナナ村で生まれルナナ村で育った、ルナナ村の大人たちのように生きるしかなかったのである。

何のために学ぶのか

昔から若い人がよくいう台詞に「勉強して何の役に立つの?」というのがあるが、学ぶということは、生きる上での選択肢を増やすことである。

前述した大企業の〇〇部長、〇〇課長は、既得権益という安定した環境で、自分の業界や会社以外のことについて学ぶことを積極的に行わなかったと考えられる。だから、その環境以外で活躍する選択肢がなくなっていった。その結果、戦闘力が落ちていったということだと感じる。

選択肢が増えれば、環境を変えることも作ることも、そして選ぶこともできる。そのために必要なのは教育であり、そして、学ぶという姿勢である。そのことを『ブータン 山の教室』をみて、あらためて感じた。

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