Design&Art|フィンランドのアートと人を巡る旅 〈03.アーティストとリカレント教育〉
アアルト大学院でアート教育やアート思考を学ぶまりこさんが、フィンランドのおすすめスポットやイベント、現地に暮らす人々の声をお届けします。
アトリエ訪問
先日、トゥルク在住のヴィジュアルアーティスト・サンナ・カナノヤ(Sanna Kananoja)のアトリエを訪ねました。トゥルクの中心地から車で15分ほど、森に囲まれた静かなアーティストレジデンスの一室です。
彼女との出会いは、私が企画したワークショップ。自然をテーマに創作するフィンランド出身のアーティストを探している時に、「ピッタリのアーティストがいるよ」と友人に教えてもらい、連絡を取り始めたのがきっかけです。
イタリアのフィレンツェに住んでいた時に、イタリアのお庭に魅了されてから自然を描くようになったというサンナ。現在は、人間の手が加えられた自然が本来の力を取り戻していく姿をテーマに、絵画を中心に描いています。フィンランドでは、都心でもすぐそばに森や湖があり、上の写真のような高速道路のすぐ横の切り立った岩の斜面も、フィンランドでは典型的な風景です。
いつだって学び直せる
サンナ:「明日から、美術学校の絵画講座に数日間通うんだ」
私:「もうアーティストとして活躍しているのにまた学校に行くの?」
サンナ:「今はテンペラの技術を使っているけど、自分に合う新しい手法を開拓したいんだよね。あとは子どもから少し離れる期間も欲しいのもあるかな(笑)」
*テンペラ:顔料を卵・にかわ・樹脂などで練った不透明な絵の具。また、それで描いた絵画のこと
正直、驚きました。サンナは結婚していて、11歳の娘さんがいるのを知っていたからです。
フィンランドでは学費が博士課程まで無料ということもあり、働いてからもしくは働きながら大学、大学院に行く人が多くいます。リカレント教育、いわゆる社会人の学び直しが進んでいます。
私が所属するアアルト大学院にも、将来のロールモデルにしたくなるようなお母さんたちが多く在籍しています。学びを続けて自分を高めようとする姿勢は本当に素敵です。細やかな教育システムを含め、それを受け入れる社会の雰囲気がフィンランドにあることを体感しました。
*リカレント教育:義務教育期間や大学で学んだ後に「教育」と「就労」のサイクルを繰り返す教育システムのこと。1969年、スウェーデンの文部大臣の提唱から世界に広まり、現在も北欧各国がリカレント教育の先進国として「何歳になっても学び直し、新たな段階にチャレンジできる社会の実現」に向けた多くの事例のモデルとなっている。
私も一度就職してから大学院に来ているので、学ぶ楽しさや様々な価値観に触れる機会、新しい人々と出会える喜びを日々噛み締めています。
さまざまな経験を経ているからこそ学びとれるものもあり、個々の価値観を尊重することもできる。多様な経歴、年齢、立場の人がいるため、授業を受けていてもそれぞれの個性を大切にしているのを感じます。先生は生徒の作品の良いところを言い、より作品を豊かにするためのヒントを与える。クラスメイトもみんなそのように意見を交換し合います。
常に物事を寛容に受け入れようとする、その姿勢は、厳しい自然環境の中でも美しさや生活の楽しみを見つけ出すフィンランド人ならではの気質にも繋がっているように思います。
学ぶことは新しい自分と出会うこと
アトリエを出て、サンナと娘さんと一緒に公園でアイスクリームを食べました。並んで歩く二人はとても仲良し。母、学生、アーティストとしての顔を持つサンナを見て、私も改めて頑張ろう!という気持ちになりました。
常に自分の人生を豊かにするための道を選んで、歩いている人と話していると、自分の価値観が少しずつ変わっていくことに気づきます。交流を通じて、自分の中にある自覚のなかった偏見が和らいでいって、様々な角度からものを見ることができるようになったのかもしれません。フィンランドでたくさんの人との出会いを通じて、自分の価値観やものの見方が広がっていく幸せを感じる日々です。
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