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Lifestyle|17歳、フィンランドからの手紙 〈08.幸せの理由〉

小さな頃から森が身近にある日々を送り、いつの日も自然とともに過ごしてきたcocoroさんは昨年の夏、憧れの地・フィンランドへひとり旅立ちました。渡航から1年が過ぎた今、18歳になった彼女は何を思い、何を感じているのでしょう。まっすぐに見つめたフィンランドを綴ります。

Moi(モイ)!cocoroです。

季節は冬に変わり、今年も残り1ヵ月。最近の1日の日照時間は7時間と一気に短くなり、気温は日中でも0℃前後。私の住むタンペレでは、11月中旬に初雪が降り、毎日寒い日が続いています。人々は家でキャンドルを灯し、街はきらびやかにライトアップされ、どのお店にもクリスマスカレンダーやジンジャークッキー、チョコレート、グロギ(北欧伝統のホットワイン)が並んでいます。フィンランドで過ごす2度目のクリスマス、待ち遠しい気持ちでいっぱいです。

朝の8時頃の写真
学校に行く時は真っ暗!

ところで、今年の世界幸福度ランキング。フィンランドが5年連続でまたも1位に輝いたことをご存じでしょうか。今回のコラムではその背景のひとつでもある「男女平等」にフォーカスし、フィンランドの人々の価値観や生き方について私の視点でお話しします。


国会議員の約半数が女性であり、首相も女性で34歳という若さで就任したサンナ・マリン氏。そんなフィンランドでは、女性の参政権が認められたのも世界で最も早い1906年のこと。100年以上も前から「男女平等」を掲げ、今日では世界で最も平等な国としても知られています。しかし、その意識が人々の間で定着するまでには、長い歴史と多くの女性たちの努力と強い信念がありました。

かつて農業国だったフィンランドでは、女性も男性とともに動物の世話や農作物の収穫をするのは当たり前。それに加え、家事や育児も女性の仕事でした。1917年にフィンランドが独立、その翌年に内戦が起き、1940年代には2度の戦争。その時に出征した男性に代わる働き手となったのが女性たちです。戦争が終わり、人々は街へ移動、国の中心は農業から他の産業に変わり、この頃から女性も男性と一緒に仕事をするのが当たり前になっていきました。

現代のフィンランドの家庭では、共働きが一般的。私のホストファミリーのお母さんであるエリナさんも、小学1年生と5年生の男の子2人を育てながら、エネルギー関連の会社で平日の朝8時から16時までフルタイムで働いています。フィンランドは、母親・父親休業、親休業といった出産や子育てをサポートする手当や制度が充実しており、母親の就労にかかわらず、全ての子どもたちに保育園へ通える権利があります。

こうした社会制度のおかげで親は安心して子供を預け、仕事と私生活のバランスを取ることができます。そのため、結婚や出産、子育てを理由に仕事を辞める女性は少なく、出産後も仕事に復帰するのが一般的なのだそう。働くお母さんやお父さんをサポートする社会の仕組み、そして何より社会全体の理解がフィンランドにはあります。

家事の分担はというと、エリナさんが平日の夜ご飯と洗濯、夫のユッシさんが週末の料理。毎週土曜日は家族みんなで家の掃除。子供たちの寝かしつけは毎日夫婦交代で、読み聞かせをしたり、歌を歌ったり、お話しをしたりして、子供たちが眠りにつくまで傍にいます。もちろん家族によって夫婦での家事や育児の分担は違い、例えばエリナさんのご両親は、お父さんが掃除や洗濯を行い、お母さんが料理を担当。逆に家事はすべて自分でしたいという女性もいて、雪かきや草刈りなどの外仕事は男性がすることが多いそう。「一番大切なことは、いつも夫婦で話し合い、自分たちに合うやり方を一緒に見い出すこと」、そうエリナさんは言います。

去年ホストファミリーのもとで生活していた頃、こんなことがありました。ある日学校から帰ると、「今夜はユッシとディナーに行くから、もうすぐベビーシッターが子供たちの世話をしに来るよ」とエリナさん。“子育ては母親の仕事”、そんな固定概念が私の中にあったからなのか、「自分の楽しみのために他人に子供を預けるなんて…」と驚きました。その気持ちをエリナさんに伝えると、「もちろん子供は一番大切だけれど、お母さんたちも自分の趣味や好きなことをしたり、友人と遊んだりして人生を楽しまなきゃ。旦那さんと2人だけの時間もね!」そう言われて、不思議と彼女の言葉がすとんと胸に落ち、とても大切なことに気付かされたように思いました。

私がホストファミリーと生活する中で感じたのは、夫婦お互いの意識の中に、女性 / 男性はこうあるべき、母親だから家事や育児をこなし、常に完璧でなければいけない、というような固定概念や考え方がないこと。その意識こそが、長年に渡ってフィンランドで築き上げられたものであり、そんなお母さんやお父さんの姿を見て育つ子供たちにも自然とジェンダーレスの意識が育まれるのかもしれません。

そしてその平等の考え方は男女だけに限りません。例えば、高校卒業後は大学へ、そして就職、結婚、出産...といった決まりきった人生のレールは、フィンランドにはありません。エリナさんのお姉さんは6人の子どもたちのお母さん。以前は助産師として働いていましたが、看護を勉強するために大学に戻ることを決意し、現在は仕事や子育てと両立しながら学んでいます。彼女のような例はフィンランドではごく一般的であり、個人の決断を周りから常識や慣例と比べられたり、世間体を気にするような考え方はないのです。

性別、年齢、社会的階級、あらゆる個人の違いに関係なく、誰もが平等に選択肢を持ち、自分の願望や夢を追求する自由を持つ、当たり前であるべきそのたったひとつの概念がフィンランドでは何よりも尊重され、それが人々の価値観や社会の在り方を創り、そして社会的支援の充実やより良い働き方、無償の教育制度など、現在のフィンランドの様々な取り組みに繋がっているのではないでしょうか。


そんなフィンランドで暮らし始めてから1年と4か月。私自身も「平等の国・フィンランド」を常に感じています。「フィンランドで学びたい」その意志ひとつで、日本から単身でやって来た高校生の私を受け入れてくれたフィンランド。私は充実した毎日を送り、この国で自分らしく生きています。そして純粋に「幸せだな」と想えることの尊さを感じるのです。フィンランドがなぜ世界で最も幸せな国なのか、その本当の理由に気付けたような気がします。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。次回のコラムもお楽しみに!

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